第31話

「え、でも、藤田さんの探しているのって、女の人じゃなかったんですか!?」



思わず言ってしまい、藤田さんは卒倒しそうになってしまった。



「違うよ。どうしてそう思ったんだい?」



「だって、ずっと女性を探しているような気がしていて……」



そう言ってから今までのことを思い出してみると、藤田さんが見ていた女性たちはみんな猫を抱きかかえていたことを思い出した。



それに、広場では茂みの中を探していたこともある。



藤田さんは女性を見て悲しそうな顔になっていたわけじゃなくて、猫を見て悲しそうな顔になっていたってこと!?



香織は唖然としてしまって言葉が出ない。自分の勘違いが信じられなかった。



「香織は覚えてないかしらね? この三毛猫はうちの家が藤田さんにあげた子なのよ?」



三毛猫はこの空間に少し慣れてきたようで、藤田さんのヒザの上に乗ってテーブルのにおいを確認している。



「え、そうなの?」



「香織がまだ小学校一年生の頃、庭で猫が子供を産んだのよ。だけど母猫は育児放棄をしてどこかへ行ってしまって、このままじゃかわいそうだからと思って里親を探してあげたの。その中の一人が藤田さんよ」



「じゃあもしかして、お母さんとお父さんは最初から藤田さんのことを知ってたってこと?」



その質問に母親はうなづいた。



「会うのは久しぶりだったし、当時はまだ高校生だったから大人になった藤田さんを見て一瞬誰だかわからなかったの。だけど会話をしている内にあの時の藤田くんだってわかって、それでお母さんたち一安心したんだから」



そういう経緯があったからこそ、香織はそれほど強く怒られなかったみたいだ。

 



知らない人の車に自分から乗り込むなんて、普通なら絶対にしちゃいけないことだから。



「そう……だったんだぁ……」



藤田さんが警察に捕まってしまうのではないかと、内心冷や冷やしていたときもある。



でもその心配はないのだとわかり、香織の体から力が抜けていった。



はぁ~と大きく息を吐き出すと、藤田さんが三毛猫をなでながら微笑んだ。



「でも、もう危ない嘘をついちゃいけないよ?」



「はい。本当にごめんなさい」



香織はすぐに体勢を正して頭を下げた。やっと、ちゃんと藤田さんに謝ることができた。



「それと、できればこれからもキッチンカーの手伝いをしてほしいな」



藤田さんからの申し出に香織は目を丸くした。



「で、でも……」



すぐにでもOKしたい気分だったけれど、香織は母親へ視線を向けた。



さすがに、今度は親の許可もなく勝手なことをすることはできない。



「お父さんとお母さんは、そうしてもかまわないと思っているわよ?」



「え、いいの!?」



「えぇ。少し前に藤田さんから直接電話があって、お話を聞いたのよ。香織も活躍しているみたいだし、社会勉強にはなっていると思うし」



「やった!!」



香織は思わずその場で飛び跳ねて喜んだ。



「ただし、条件付きよ」



「条件ってなに?」



藤田さんの手伝いができるのなら、どんな条件でも飲むつもりだった。



「必ずキッズスマホを持って行くこと。遅くなる前に送って帰ってもらうこと。名探偵の仕事は無理そうならすぐに大人を頼ること。危険なことはしないこと。花火大会のときみたいに急に逃げ出したりしないこと。それから――」



次々と出てくる条件に香織は目を白黒させる。



だけどどれもこれもちゃんと守る自信があった。



だって今度からは嘘をつく必要がないから。

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