第28話
母親が怒った表情で仁王立ちをしている。
香織は身を縮めて「ごめんなさい」と、小さな声で答えた。
両親ともここにいるということは、藤田さんからすべて説明されているはずだ。
彩香ちゃんと玲美ちゃんに嘘をついてしまったことも、全部。
「ケガ、大丈夫か?」
父親に言われて香織は自分がケガをしていることを思い出した。
血はすっかり止まっていたけれど、足を動かすと痛みが走る。
それを見た藤田さんが息を飲む音が聞こえてきた。
「大切な娘さんから目を離してしまって、申し訳ありません」
今までみたことのない丁寧な言葉使いで、深く頭を下げる藤田さん。
その姿を見ているとまた胸が痛んだ。
今度はどうして自分の胸が痛いのか、香織はすぐに理解できた。
自分のせいで藤田さんにこんな謝罪をさせてしまったからだ。
「ご、ごめんなさい!!」
香織は一緒になって頭を下げた。今までしたことがないくらい、深く。
「あんたにキッズスマホを持たせておいて本当によかったわ。位置情報を確認できたから、こんなに早く見つけることができたのよ」
ホッとした様子で母親が呟く。
そういえばスマホを持っていたんだった。
いろいろなことがあって気が動転していたから、すっかり忘れてしまっていた。
自分から連絡を取っていればこれほど心配や迷惑をかけることもなかったのに。
香織はまたうなだれて「ごめんなさい」と、呟くように言う。
「香織ちゃんが元気でよかったよね」
「うん。でもケガしてるから、早く手当てしなきゃ」
彩香ちゃんと玲美ちゃんの言葉にまた泣きそうになった。
みんな香織のしたことを迷惑だなんて思っていないみたいだ。
いつもどおり優しい二人に香織は泣き笑いを笑顔を浮かべた。
「さ、お父さんがおんぶしてやるから、家に帰ろう」
「うん……」
父親の背かなに乗る寸前、香織は藤田さんへ視線を向けた。
藤田さんは困ったような表情で笑っている。
「あのね、お父さん」
「どうした?」
「藤田さんなんだけどね、とってもいい人だから。私が勝手に、嘘をついてお手伝いしただけだから」
子供をキッチンカーに乗せ、手伝いをさせていた。
それはきっと許されないことだったと思う。
藤田さんがいい人でなければ、香織は今ごろどうなっていたかもわからないのだから。
「うん。話は全部聞いたし、お母さんと二人で香織の絵日記を見せてもらったよ」
「あれ、見たの!?」
香織は驚いて声をあげてしまった。
せっかくみんなを驚かそうと思っていたのに。
そう思ったが、こんなことになって口に出せることじゃなかった。
「だからほら、早く乗って」
香織はそっと父親の背中に乗った。
こうしておんぶされるのは久しぶりなことだし、みんなの前だから少し恥ずかしい。
「香織ちゃん」
歩き出した途中で藤田さんに呼ばれて父親が足を止めた。
香織はビクリと体をはねさせてそろりと振り向く。
そこには満面の笑みを浮かべる藤田さんが、花火の光によって照らし出されていた。
「香織ちゃんのおかげで俺の探していたものも見つかったよ。ありがとう」
そうなんだ……。
香織はクシュッと泣きそうな顔になって、父親の背中に顔を押し付けた。
どっちにしても今日が最後だったんだ。
私の秘密は全部バレて、藤田さんの探し物は見つかって。
全部、めでたしめでたしってこと。
それでも香織は悲しくて、泣いていることを悟られないようにずっと父親の背中に顔を押し付けていたのだった。
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