第25話

どうしたんだろう?



「誰か知っている人でもいたんですか?」



藤田さんと大学生たちは同い年くらいだから、知り合いがいても不思議ではなかった。



「いや、たぶんいない」



答えた瞬間ケガをしたときのような痛そうな表情を浮かべる藤田さん。



その表情に香織は一瞬言葉を失った。



もしかして藤田さんがずっと探している人って、大学生さんなんだろうか?



質問したかったけれど、その問いかけは香織の喉にひっかかり、出てくることはなかったのだった。


☆☆☆


ほんのり甘酸っぱい気持ちを抱えたまま、人の行き来が多くなってきた。



藤田さんのクレープ屋さんは相変わらず人気で、ここより安いテントのクレープ屋さんといい勝負をしているみたいだ。



香織は藤田さんが買ってくれた包丁でフルーツをカットする作業をしつつ、窓の外を確認していた。



時折子供泣き声が聞こえてきたり、なにかを落としてなくなってしまったという声が聞こえてくる。



その度に名探偵の血が騒いだ香織だけれど、今回はすぐ近くに地元警察のテントがある。



困っている人たちはみんなそこへ行ってしまい、香織の出番はなさそうだった。



「そろそろ花火が始まるみたいだよ」



懸命にフルーツをカットしていた香織は藤田さんの言葉で手を止めた。



ふと窓の外を見て見るとすっかり暗くなっていて第一部の協賛を読み上げる声が聞こえて来ていた。


香織はカットしたフルーツをタッパーに入れて冷蔵庫へ。



残っている方は断面にサランラップをまいて冷蔵庫へ入れた。



「この時間はほとんどお客さんが来ないから、花火が見やすい場所に行っていていいよ」



藤田さんにそういわれ、一瞬彩香ちゃんと玲美ちゃんの姿が浮かんだ。



今から二人と合流して花火を見ることができるかもしれない。



行きたいという気持ちが沸いてきた直後に、藤田さんのことも気になった。



藤田さんは時折寂しそうな顔を見せる。



そしてそれは藤田さんの探し物が見つからないことが原因だと思う。




そして、香織は名探偵だ。



困っている人がいたらほっておけない。



助けてあげたいと考えている。



「……今日は藤田さんの探し物を見つけませんか?」



ずっと胸に引っかかっていた思いを口に出した。



心臓はドキドキとはねているし、緊張で背中に汗が流れた。



藤田さんの探し物が見つかることで、二人の関係が変わってしまうかもしれない。



それでも、もう藤田さんに悲しそうな顔はしてほしくなかった。



「俺の探し物?」



藤田さんは目を見開いて香織を見つめる。

 


香織は大きくうなづいた。



「今日も広場で探していたじゃないですか。でもたぶん、あんなところに藤田さんの探し物はないと思います」



だって、藤田さんの探し物は女性だと思うから。



中腰じゃないと入れないような茂みの中にいるとは思えない。



藤田さんは図星を突かれたという様子で香織から視線を外した。




「そっか、香織ちゃんはもうそんなところまで気がついてたんだな」



香織は唇を引き結んで大きくうなづく。



「俺も、あそこにアイツはいないだろうってわかってた。それでも探さずにはいられなかったんだ。万が一っていう可能性もあるから」



それはきっと藤田さんがその女性のことをすごく好きだからだ。



可能性がゼロじゃないから探さずにはいられなくなったんだと思う。



「香織ちゃんは、アイツがどこにいるかわかるか?」



途端に身を乗り出すようにして質問されたので、香織は視線を大学生のキッチンカーへ向けていた。



夕方頃はカレーも大盛況だったけれど、今はお客さんの姿がない。



大学生たちに話を聞くなら今のうちだ。

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