第24話
☆☆☆
今日の花火大会にキッチンカーとして参加する。
それは前回の海で藤田さんから聞いていたことだった。
今年は花火大会には行かないなんて言うと友達はビックリしてしまうから、今日の今日まで黙っていたのだ。
お手伝いなのに浴衣姿になったのは、藤田さんが着てきていいよと言ってくれたからだ。
年に一度しか着ない浴衣だから実は香織も着て参加したかったのだ。
藤田さんの運転するキッチンカーに揺られて河川敷へやってくると、屋台コーナーとキッチンカーコーナーで別れていることがわかった。
「キッチンカーのコーナって随分狭いですね」
見回してみて、思わず呟く。
「テントを設営する屋台とキッチンカー。それぞれいいところはあるけどね、まだまだ共存は難しいみたいだ」
藤田さんはふざけた調子でそう言って、車を降りた。
香織も助手席から降りて後部座席からクレープと書かれた旗を取り出す。
旗を設置するためにキッチンカーの前へ移動してきたとき、すぐ近くに地元の警察のテントが設営されていることに気がついた。
まだ警察官の姿はないけれど、花火大会の時間が近づくと何人かが在住するのだろう。
「香織ちゃん、準備は整ったから、なにか見てきてもいいよ」
生地を練り終わった頃藤田さんにそう声をかけられた。
「え、いいんですか?」
「もちろん。まだ時間が早いから、屋台の準備ができているかどうかわからないけどね」
「嬉しいです!」
キッチンカーのスペースは少ないけれど、テントの屋台はもう沢山出ている。
どんな屋台が出ているのか見るだけでも楽しそうだ。
香織は藤田さんの言葉に甘えてキッチンカーから飛び出した。
会場はとても広くてただ歩いて回るだけでも十分以上はかかる。
炎天下の中、香織は早足にテントを確認して回った。
たこ焼き、焼きそば、お好み焼き。
イチゴ飴、焼きもろこし、カキ氷。
それにクレープ屋もある。
さすがに花火大会となると藤田さんのライバルはとても多いみたいだ。
グルリと確認して回る香織は自分がスパイにでもなった気分で、心地がよかった。
すでに準備が終わっていた屋台はイチゴ飴屋さんと缶のジュースを販売している屋台くらいで、後はまだ鉄板も温まっていなかった。
そんなものだろうと思いつつ、キッチンカーへ戻る。
「あ、新しいキッチンカーが来てる」
さっきまでなにもなかった場所に今は薄いピンク色のキッチンカーが来ていた。
旗を確認してみると、○○大学食物学科のカレーと書かれている。
準備をしているのは浴衣姿の大学生たちだ。
キャアキャア騒ぎながら準備を進めているその姿は眩しくて、香織は思わず見とれてしまった。
ぼーっと立っていると足元になにかがぶつかった。
ハッとして視線を下げると、白い猫が足に絡み付いてついてきている。
「え、猫?」
首をかしげて周囲を見て見ると、なぜか大学生のキッチンカーの周りに猫たちが沢山集まってきているようだ。
この猫たち、一体どこから来たの?
首を傾げつつ、藤田さんのキッチンカーへ戻る。
「今戻りました」
声をかけつつドアを開けると、藤田さんはジッと大学生のキッチンカーを見つめている。
「藤田さん?」
「え、あぁ、おかえり」
二度目でようやく香織が戻ってきたことに気がつき、我に返ったように答えた。
その表情はどこか焦燥感を秘めていて、香織は戸惑った。
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