第22話

キャンプ場の探し物に続き海坊主事件まで解決した香織は鼻高々で絵日記を描いていた。



深緑色をしたクレープのキッチンカーの側面には大きな文字で『謎解きキッチンカー』と描かれている。



もちろん、実際の藤田さんのキッチンカーにこんな文字はない。絵日記の中だけ特別に文字を書き足したのだ。



「できた!」



海坊主事件を解決したときのことを描いた香織は、両手で絵日記を持って高く掲げた。



毎年似たような絵日記ばかり。



たとえば朝顔の成長だったりとか、いつも行くキャンプ場や海に言った話しばかり。



それが、今年はこんなにも楽しい絵日記になった。



行った場所は同じようでも、中身が全然違っている。



これならきっと、読んだ人たちみんなが楽しむことができると思う。



絵日記を書き上げて満足していたとき、机に置いていたキッズスマホが明るいメロディを奏でた。



画面を確認してみると彩香ちゃんからのメールだ。



《やっほー! 今日は花火大会だね。一緒に行くでしょう?》



河川敷で開催される花火大会には去年から子供たちだけで参加していた。



会場が近所であることや、花火の第一部を見たら帰って来ることが条件になっていたけれど、子供だけで暗くなるまで遊べる日ということで、香織たちにとって特別な日だった。



でも、今日は違う。



香織は申し訳ない気分になりながら、彩香ちゃんへ断りのメールを返信することにした。



《ごめん。今年は予定があって行けないの》



そのメールを送るとき、罪悪感で一瞬指の動きが止まった。



香織はキュッと目をつむって、勢いをつけて送信ボタンを押す。



メールは香織の戸惑いなんて知らん顔で、そのメールを彩香ちゃんへ届けた。


香織はメールが送信されたことを確認して、大きく息を吐き出した。



友達との花火大会を断るのはこれがはじめてのことだ。



幼稚園のときから仲がいい彩香ちゃんと玲美ちゃんの二人とは、気がつけば毎年花火大会に行っていた。



まだ小さかった三人が浴衣を着せてもらって写っている写真が何枚もある。



「ごめんね」



三人の絆にヒビを入れてしまったような気がして、香織は小さく呟いたのだった。


☆☆☆


午前中は必死に宿題をしてほとんど終わらせることができた。



夏休みもあとわずか。



あれだけ長いと感じていた休みなのに、過ぎてみればあっという間だ。



「お母さん、浴衣着せて!」



お昼ごはんが終わると同時に荒いものをしている母親にねだる。



「浴衣って、まだお昼過ぎたばかりじゃない。もう着るの?」



「今年は早く言って、沢山屋台を回ろうってことになったの!」



香織はあらかじめ考えておいた嘘をついた。



部屋の中で一人で何度も練習したから、言葉がつっかえることもなく、母親も疑っていない。



ただ、また少し香織の胸がチクリと痛んだだけだった。



「あらそう。でも食べたばかりで着ると苦しいから、少し待ってね」



本当は早くしてほしいんだけれど、そう言われたら仕方がない。



香織はテレビをつけて、和室には不似合いなふかふかのクッションの上に座った。



番組を見ながらも目は右下に常に表示されている時計に向かってしまう。



今一二時四十分だ。



約束時間は二時だから、まだまだ大丈夫。



洗い物を終えた母親が香織の隣にやってきて一緒にテレビを見始めた。



母親の好きなお笑い芸人が出ていて、大きな声で笑い始める。



つい夢中になってテレビを見ていると、あっという間に一時になってしまった。



着付けにどれくらい時間がかかるだろう?



「ねぇお母さん、そろそろ浴衣を着せてよ」



香織がせっつくと母親は「そうね」と短く答えて立ち上がった。



ホッと胸を撫で下ろして母親の後に続く。

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