第21話

「お姉ちゃん、今日はありがとう!」



太陽は水平線へと沈み始めて、海はオレンジ色に輝いている。



笑顔で手を振る岬くんの顔もオレンジだ。



岬くんの後ろには両親がいて、お世話になった香織へ向けて頭を下げている。



「またね! 今度は一緒にお山つくろうね!」



キッチンカーの助手席に座る香織は岬くんへ向けて大きな声で伝える。



「うん! 約束だよ!」



両足にきちんとサンダルを履いた岬くんの横を海坊主の男性が通り過ぎていく。



男性は香織に気がついて軽くウインクをしてきた。



香織は一瞬緊張して顔がひきつり、けれどどうにか笑顔で会釈をした。



砂浜から離れて帰路を走るキッチンカーの中で、藤田さんはやけに静かだった。



「今日はお客さん多かったですね」



「あぁ、そうだね」



「でも、沢山売れてよかったですね」



「あぁ、そうだね」



香織が何を言っても上の空だ。



仕事が忙しかったから疲れたんだろうかと、その横顔を盗み見る。



藤田さんの表情はどこか悲しそうで、香織は今一緒にここにいるのにここにいないような気がして落ち着かない気分になった。



「今日もひとつ謎を解くことができて、とてもよかったです」



「あぁ、そうだね」



次第に香織は不機嫌な表情になってきた。



今までだって両親と会話をしている中でちゃんと聞いてもらえないことは何度もあった。



だけどこんな風にモヤモヤとした気持ちが胸に広がっていくことはなかった。



藤田さんと一緒にいると胸がドキドキしたり、ギュッと痛くなったり、モヤモヤしたとり忙しい。



まるで藤田さんに自分の胸を操られているような感じがする。



「探し物が見つからないんですか?」



できればこの話題は出したくなかったけれど、この話題ならちゃんと返事をしてくれると感づいていた。



「え、あぁ……」



藤田さんは一瞬驚いた様子で目を見開き、そしてうなづいた。



やっぱり悲しそうな顔をしている。そんな顔の藤田さんを見ていると、さっきまでモヤモヤしていた香織の胸は今度はズキズキと痛くなってくるのだ。



「それってもしかして、物じゃなくて、生きていたりしますか?」



香織は緊張気味に質問をした。



今朝広場で探し物をしていたときは、なにかを落としたのだと思った。



けれどビーチで海水浴客を見て今みたいな悲しい顔をしていたことのほうが印象深かった。



だから、探しているのは人ではないかと思ったのだ。

「うん、そうだね」



藤田さんは遠い目をしたまま、うなづいたのだった。

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