第20話
どうしかしてあげたいという気持ちばかりが焦っていて、香織は波打ち際に立ち尽くしてしまった。
たとえば自分が大人だったら、こんな風に迷う前に海に入っていけたかもしれない。
そうでなくても、もっと運動神経がよかったらと思ってしまう。
こんなことなら水泳の授業をサボったりするんじゃなかった。
日ごろの自分の行いを悔いたところで、大きな人影が二人の前に立ちはだかった。
香織は咄嗟に岬くんの手を握り締めた。
恐怖心を押し殺してゆっくりと顔を上げていく。
大きな足。
大きな海水パンツ。
大きなお腹。
そして、大きな顔が人のよさそうな笑みを浮かべていた。
スキンヘッドが太陽の光を浴びて輝き、とても眩しい。
「やぁ。このサンダル、もしかして君のかい?」
海坊主が右手に持っていたブルーのサンダルを見せてきた。
それはまさに岬くんのサンダルで間違いなかった。
「僕の!!」
途端に香織から手を離し、男性からサンダルを受け取る岬くん。
「ははっ。やっぱりそうか。さっきそこで泳いでいたら流れてきたんだよ。君たちがサンダルの話をしているのが聞こえてきたから、もしやと思ってね」
おおきなお腹をゆすってそう言う男性。
サンダルの話しが聞こえてたってことは、もしかして海坊主の話も聞こえてたんじゃ?
そう思って香織は一瞬ヒヤリとした。
しかし男性は優しい笑みを浮かべたままだ。
「気をつけなよ、坊や」
男性は岬くんの頭を大きなクリームパンみたいな手でなでると、また海の中へ入って行ったのだった。
一応これで一件落着、かな?
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