第18話
「いるもん海坊主! 僕見たもん!」
岬くんがムキになって声を張り上げる。
いつの間にかクレープはきれいに平らげられている。
香織は岬くんの頬についた生クリームをティッシュで拭いてあげて「そうだよね」と、うなづいた。
「私、もう少し調べてみます。岬くん、海坊主を見たっていう場所まで案内してくれる?」
「うん!」
「二人とも気をつけて行くんだよ?」
「はい!」
香織は元気な声を残し、再び岬くんの手を引いて波間へと移動したのだった。
☆☆☆
岬くんが海坊主を見たという場所は波打ち際だった。
周囲には目だってなにかがあるわけでもなく、幽霊、化け物、はたまた妖怪が出てくるような物々しい雰囲気もない。
岬くんにもそれが伝わったようで、香織の手をにぎる力が強くなった。
「僕、嘘はついてないよ?」
不安そうな声で言われて、香織は微笑みかける。
「嘘だなんて思ってないよ」
岬くんの頭をなでたときだった。
バサッと波をかきわける音が聞こえてきたかと思うと岬くんが大きな声で「あれ!!」と、叫んだ。
すぐに視線を向けると、そこには海から這い上がってくる海坊主が……!ではなくて、大きなスキンヘッドの男性がいた。
男性はとても上手に平泳ぎをしていて、丸い頭が海面に出たり入ったりしている。
「ほら、ね!?」
岬くんは香織の体に抱きつくようにして言った。
「あ、えっと……」
とまどいながら岬くんと泳いでいる男性を交互に見る。
どうしてあれが海坊主に見えたんだろう?
そう思って首をかしげたとき、岬くんの身長が自分よりも随分低いことに気がついた。
今香織に抱きついた状態でいる岬くんの頭は、香織の腰の位置にある。
もしかして。
そう思ってしゃがみこみ、岬くんと同じ目の高さになってみた。
途端に周りの人たちが大きくなった。
海面を至近距離に感じて、海に入っている人が視線の高さにある。
そのまま視線をさっきの男性へ向けて見ると、謎が解けた。
泳いでいる人たちの間から大きな丸いものが出たり入ったりしているように見えるのだ。
平泳ぎをしているから、男性の体はほとんど海の中にある。更に周りの人たちが視界を塞いで、とても人のようには見えなかった。
「なぁんだ、そういうことか!」
「なにかわかったの?」
いまだに香織に抱きついている岬くんの体を抱っこして持ち上げた。
少し重たいけれど、両腕にグッと力を込めて落とさないようにする。
「ここから海坊主を見てごらん」
香織に言われた岬くんが、恐る恐る視線を男性と向ける。
「あっ!!」
「わかった?」
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