第16話

藤田さんの横顔はすごく真剣で、海水浴客たちを見つめている。



まるで誰かを探しているように見えて、香織は軽く息を飲んだ。



まさか藤田さんの探しているのは、物じゃなくて人なんじゃ?




そしてそれは藤田さんにとってとても大切な……特別な、人。



そう思うと途端に香織の胸がギュッと痛んだ。



香織はビックリして服の上から自分の胸を掴む。



どうしたんだろう?



急に痛くなったけれど、なにかの病気かな?



思い出してみれば、藤田さんと一緒にいると香織の心臓は常にドキドキしていた。



心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと心配になったこともある。



本当に病気じゃないかと不安になってきたとき「お化けだ!」と言う声が聞こえてきて香織の興味はすぐに移った。



「お化け?」



呟き、キッチンカーから降りて声の正体を探す。



見回してみると砂浜こちらへ走ってくるひとりの男の子がいた。



小学校低学年くらいの子で、香織より少し小さいみたいだ。



男の子は青い顔をしてしきにり「お化けが出た! お化けが僕のサンダルを盗んで行った!」と、繰り返している。



お化けがサンダルを盗んだ?



なんだそりゃと思いながら振り返ると、キッチンカーの窓から藤田さんが香織を見ていた。



「困っている人がいるみたいだね」



意味ありげな言葉を投げかけられて、香織は自分を指差した。



「あぁ。行っておいで、名探偵さん」



藤田さんにそういわれて香織は一瞬にして目を輝かせた。



キャンプ場でぬいぐるみを見つけることができたのはただの偶然だと言われると思っていた。



だけど藤田さんは違う。



ちゃんと香織の才能を買ってくれていたのだ。



それが嬉しくてすぐに駆け出した。



砂をけり、青ざめている男の子に近づいていく。



その迫力に気圧されたように男の子がギョッとした表情を浮かべて足を止めた。



「その話、もう少し詳しく教えてくれる?」



男の子は警戒するような目を香織に向けたが、キュッと唇を引き結んでうなづいたのだった。

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