第12話

明日、またキッチンカーを出すけれど、一緒に来るかい?



藤田さんから香織にそんなメールが送られてきたのは、香織が課題読書の幽霊船を読んでいたときだった。



物語は架橋を向かえ、主人公たちが誰もいなくなった船の中に入っていったとき、たった今まで誰かがそこにいたような気配があり、しかし船内には誰の姿もなく……と、香織が息を飲んだ。



その瞬間になり始めたキッズ用スマホにカオリは飛び上がるほどに驚いた。



実際に少し体が空中に浮いていたかもしれない。



誰だろう? と思って画面を確認すると、キッチンカーのお兄さんだった。



二度キッチンカーの手伝いをした香織と藤田さんはとても仲良くなって、番号交換までしてしまったのだ。



『なにかお手伝いできることがあったら呼んでね! 絶対だよ!?』



前回、キャンプ場から戻ってきたとき、香織は藤田さんにそう伝えておいたのだ。



藤田さんはその時のことを覚えてくれていて、こうして香織に連絡してきたというわけだ。



メールを読んだ香織は一瞬にして目を輝かせた。



さっきまで怖い本を読んでおびえていたのは、一気に吹き飛んでしまったようだ。


香織はすぐにOKの返事を藤田さんに送った。



《よかった。じゃあ、明日迎えにいくから、ご両親にはちゃんと伝えておいてね》



《わかりました!》



元気のいい返事をしてから、少しだけ罪悪感が胸をよぎった。



実は香織はまだキッチンカーのお手伝いをしていることを、両親には内緒にしていた。



もちろん、友達にも言っていない。



絵日記を見せたときにみんなを驚かせたいからだ。



だけど、学校や家では散々知らない人についていってはいけませんと言われている。



それなのに香織は藤田さんについて行ってしまっている。



バレたらすごく怒られるかもしれない。



そんな不安も生まれてきていた。




それでも香織は好奇心に勝てない女の子だった。



私と藤田さんはもう知らない人同士じゃないから大丈夫! と、自分に言い聞かせて、明日のキッチンカーのお手伝いを楽しみにしているのだった。


☆☆☆


そして、待ちに待ったお手伝いの朝がやってきた。



昨日の夜は楽しみでうまく眠ることができなかった。



だけどちゃんと寝ていないと両親が怪しむから、香織は必死で眠ったフリをして朝を迎えた。



「彩香ちゃんと玲美ちゃんと遊んでくる!」



時間はまだ早かったけれどいてもたってもいられない気分になった香織はパンを一枚食べると玄関へ走った。

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