第9話
☆☆☆
そこは香織の好奇心をくすぐるものが沢山あった。
ターザンロープや丘の上から下まである滑り台。
それにタイヤのブランコ。
どれも見ても遊びたくて体がうずうずしてくる。
そんな気持ちをグッと押し殺して「リリちゃん。どこで遊んだのか教えてくれる?」と、身をかがめて質問した。
リリくらい小さな子が遊べるのは左手にある砂場や小さなブランコくらいだ。
リリはそちらを指差した。
「探してみよう」
もしかしたら砂場の中に埋まっているかもしれない。
ひとつの遊びに夢中になって、ぬいぐるみが埋まってしまっても気がつかなかったかもしれない。
香織はいろんな想像を膨らまして砂場へ向かった。
トンネルつきの山がひとつあって、その周辺にはプラスチックのスコップやバケツが転がっている。
どのオモチャにもキャンプ場の名前が書かれていた。
「う~ん、ないねぇ」
ためしに山を崩して中を確認してみたけれど、ぬいぐるみを見つけることはできなかった。
「ミミちゃん、どこ行っちゃったの」
リリの目に再び涙が滲んできた。
「ぬいぐるみ、ミミちゃんって言うの?」
リリはこくんとうなづく。
「あの、もういいわよ。お気に入りのぬいぐるみだったから、ずっと持ち歩いていたの。いつか無くすって注意してもやめなかったから」
母親がため息混じりに言う。
これ以上香織に迷惑をかけられないと思ったんだろう。
「そうですか……」
惑をかけられないのは香織も同じだった。
リリを心配している両親がいる。
もうこれ以上リリを引っ張りまわして、余計な期待をさせるわけにはいかない。
「お姉ちゃん」
リリが香織の腕を引っ張る。
その表情はまだぬいぐるみを諦めていなかった。
一緒に探したいと言っているのがわかった。
もう少しだけ。
もう少しだけだから、一緒に探させてください。
そう言おうと思ったときだった。
香織の目に足跡が写った。
それは人間のものではなく、小さなケモノのものであるとすぐにわかった。
足跡は砂場から奥の林へと続いている。
香織はリリの手を握り締めてその後を追いかけた。
この辺は山が近いからどんな動物が出てきても不思議じゃない。
クマが出てくるときもあると、香織のお父さんは言っていた。
「あっ!!」
途中まで足跡を追いかけて行ったときだった。
不意にリリが香織の手を振りほどいて駆け出した。
「リリちゃん!?」
慌ててその後を追いかける。
「あった! ミミちゃんあった!」
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