第7話
「いらっしゃいらっしゃい! 安くておいしいクレープだよ!」
香織はキッチンカーの前で旗を振って客寄せしていた。
その姿はまるで屋台のお姉さんだ。
お兄さんはキッチンカーの中でクレープ生地を焼きながらその様子を見ている。
「はいはい、列は真っ直ぐね! あ、押さないで! 危ないからね!」
お兄さんのクレープはどこへ行っても人気らしくて、ここでもすぐに列ができていた。
広間と違うところは家族連れが多いこと。小さな子供たちは好き勝手列からはなれてしまうから、それを注意することに忙しかった。
一時間ほど手伝いをするとようやく列がはけてきた。
「お疲れ様。はい、ジュース」
お兄さんが冷蔵庫からオレンジジュースを出してくれた。
「ありがとう!」
オレンジジュースを一口のみ、ふぅーと大きく息を吐き出す。
喉がカラカラだったんだ。
「とりあえずピークは過ぎたから、香織ちゃん遊んでおいでよ」
「私は大丈夫です。だって、藤田さんに雇われたから!」
香織が満面の笑みで言うと、藤田のお兄さんもつられてわらった。
ちゃんとお手伝いをするということになってから、ようやく自己紹介をしたのだ。
お兄さんの名前は藤田圭吾。
今二十歳で、一年前から自分のキッチンカーを出したらしい。
それまでは、高校を卒業後知り合いのクレ-プ屋で修行していたそうだ。
香織は四年一組のクラス委員長。
みんなの期待を一身に背負ってクラスをまとめています。
そう説明すると、お兄さんは関心したようにうなづいた。
オレンジジュースを飲み干した香織がもう一仕事しようと旗を持って立ち上がったときだった。
どこからか女の子の泣き声が聞こえてきて耳を済ませた。
キッチンカーの右手から聞こえてきて視線を向けると、幼稚園くらいの女の子が地べたに座り込んで泣いている。
その子の隣には両親らしき人が困った表情で立っていた。
「どうしたんだろう」
「気になるから、行ってみたらどう?」
「いいの?」
「もちろん」
藤田さんからOKをもらった香織はすぐに女の子のそばへ駆け寄った。
女の子は地面に座り込んで泣いているため、随分と服が汚れている。
「あの、どうしたんですか?」
「持ってきたぬいぐるみをなくしちゃったのよ。ちゃんと持っていないからいけないのよ?」
女の子の母親はそう言い、今度は怒った表情になった。
そのせいで、女の子は更に大きな声で泣き出した。
その声は香織顔負けだ。
「ぬいぐるみってどんなヤツ?」
「うさぎしゃん」
女の子はしゃくりあげながら答えた。
「どこでなくしたか、わかる?」
その質問に女の子は左右に首を振った。
「また今度違うのを買ってあげるから、諦めよう」
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