第6話

何台か止まっていた車はなく、入り口のアーチもすでに撤去されている。



更に天候は悪くなり、雷の音が響いて香織は思わず身を縮めた。



それでもそんな香織に声をかけてくれる人はいない。



みんな片付けで忙しいのだ。



広間の外周に止まっていたキッチンカーも今は数台を残すのみになっている。



なんだか泣きそうな気持ちになってきたとき、「大丈夫?」と後ろから声をかけられた。



驚いて振り向くと、そこにはクレープ屋のお兄さんが立っていた。



「お兄さん……」



「親からOKはもらえた?」



「え、あ、うん」



香織は慌ててうなづく。



本当は内緒にしているなんて、言えなかった。



「じゃ、行こうか」



お兄さんについてキッチンカーへ向かう。



深い緑色をしたキッチンカーの助手席は、意外にも普通の車みたいだった。



知らない人の車に載るなんて初めての経験で心臓がドキドキした。



今にも口から飛び出してしまいそうなくらい緊張している。



けれど、香織の好奇心はそんなことで衰えるものじゃなかった。



どんなことでもやってみたい。



みんなが面倒だとおもう委員長だって、香織はやってみれば楽しいことだと感じられていた。



山の上にあるキャンプ場近づくにつれて天気は回復して行き、車の中から虹がかかっているのを見たとき香織の緊張はすっかりほぐれていた。



「はい、到着」



車が止まるとう同時に外に飛び出した。



雨はすっかり晴れて山の空気が気持ちいい。



香織は思いっきり深呼吸をした。



「お兄さん、何を手伝えばいい!?」



「キッチンカーを手伝ってくれるの? 向こうに、遊び場所があるよ?」



「いいの! 私、絵日記に始めてのアルバイトについて描きたいんだから」



胸を張って言う香織にお兄さんは頭をかいた。




小学生にアルバイトをさせるなんてできない。



しかし、そんな気持ちは香織の笑顔を見ていると吹き飛んでしまった。



「それじゃ、社会見学ってことで手伝ってもらおうかな」



「わぁい!!」



香織は両手を空へ伸ばして喜んだのだった。

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