第7話
「いえ、詳しくは知りません――ですが、祭りを抜けて長い旅へ出ることは知っています。それが輪廻転生のための旅であることも。」
「宜しい、ではそれが答えた。星の愛を受けている者は旅の先の輪廻転生で何かが起こる、我々が知らされている情報もその程度のことだ。この洋館の秘密の全ては館長と副館長しか知らん。私は副館長代理だが、あくまで代理に過ぎないからな。あとは自分で調べるといい。他に共に入る者が居なければ私が付き合ってやろう。」
トシの言葉に頷いたリクは強い味方を得た、と感謝したが、トシには別の思惑がある。しかしそれは誰にも言うつもりがないだろう。
とある日、館の面々にも館長直々に休息の許可が出た。相変わらずの最新ファッションを身に纏う館長だが、その威厳のせいか誰もツッコミを入れられずにいる。
「皆、大義である。よって、本日一日余暇と給金を与えることとする。祭りへ行くのだ、他は許可せん。皆が居らぬ間の仕事は、そこに控えている金柑が引き受ける。故に安心して休養せよ。以上。」
これは確実に嫌がらせだ、と皆は思ったに違いない。これはグレても仕方がないな、とも。しかし折角の余暇、しかも祭りに行って良いとのことでリクを始めとする他メンバーは大いに喜んだ。副館長代理を除いては。彼は調べものをしている故に余暇があるならば其方へ行きたいはずだ。しかし他を許可しないという発言によって、その行動は起こせなくなってしまった。結局彼はそそくさと館を出て行き、他の面々もそれに続いた。そしてリクの側に寄ってきたのは何かとお節介を焼きたがるソウである。
「俺さ、祭りは二回目なんだよ。案内してやるぜ、リク。」
「ああ、うん……ありがとう。」
厚意とあらば無碍に断ることも出来ず、結局彼はソウと共に祭りを回ることになった。小さな鳥居を出ると、そこは館から幾度も眺めた祭りの景色だ。人の往来は多く、賑やかな声が響く。いくつもの屋台が立ち並ぶ中、リクはこういった祭りに来るのはいつ以来だったか思い出そうとしたが結局思い出せずに諦めることにする。
「あそこの焼きそば、美味いんだよ。食うか?」
祭りで浮かれきっている様子のソウが、肩を組んでくるがリクはされるがまま頷いた。
「親父、焼きそば二つなー。ほい、これ代金。」
良い香りのするそれは、食欲のなかったリクの腹の虫を鳴かせるにはちょうど良かった。近くのベンチに腰掛けてソウが買ったそれにありつく。
「あ、お金。」
「良いってことよ。折角の祭りだし楽しまなきゃ損だろ?あとでお好み焼き奢ってくれたらチャラにしてやっからさ。」
あっという間に焼きそばを平らげたソウは、余し気味だったリクの食べかけまでぺろりと食べてしまった。
「因みにだけど、此処で働いている人たちって、どういう人かソウは知ってる?」
「唐突だな……まあいいけどよ。あの人たちも星の温情を受けた人たちなんだよ、それで金平糖も受け取ってる。でもたまーに、旅に出ず祭りに留まる輩が居るってわけさ。生まれ変わりなんてしたくねえーってな。そこの射的屋の兄ちゃんに聞いてみな、あいつもその類の人間だからな。――ったく、資格持ちだってのに物好きなものだぜ。」
ソウには別の思惑もあるようだが、リクは言われた通りに射的の方へ向かっていく。
「そこのお兄さん、館の人ろう。一発射的をやりやあせんか?」
馴染みのない方言が彼に向かって飛んでくる。その声の主が目当ての射的屋のようだ。
「あの、聞きたいことがあって――。」
「ほんなら先に弾を一発、話はそれからだ。」
そうしてコルクの弾がセットされた銃が手渡される、リクはこういったものが得意ではないのだが、思った通りに弾は的から逸れてしまった。大失敗である。リクが代金を払おうとしたところ、ソウの顔を見つけたらしい彼に止められてしまった。
「ワシは才谷梅太郎、何を聞きたいんだ?」
言いながら彼はソウを警戒しながら、射的屋の裏にリクをつれていく。射的屋の外からまたそれを勧める声がするのは共に来たソウが店番をしているからだろう。
「あの……才谷さんは金平糖をお持ちですか?」
「はは!なんやそのことか!!ワシはあの館で働かんかと誘われたんや。だが、退屈で仕方がない気がしたき、断っちゃったんだ。」
「あれって断れたんだ……。」
驚愕の真実である。それにソウの話とは齟齬が生じてくる、彼は金平糖を持ちながらここで働いている人間がいると言ったはずだ。
「他に生まれ変わりを拒絶した方を知っていますか?」
「知っちゅうぜよ。やけんど、それは信用問題に関わるきワシの口からは言えん。商いには信用が一番大切なことや。――だが、おまんはどいたち知りたいんやろう。悪いことは言わん、深入りはやめちょけ。あの館は光が強い分、闇も深い。」
「あの、……お会い出来て光栄でした。坂本さん。」
小声で伝えると、才谷は豪快に笑った。しかしすぐに真剣な表情に戻った彼は、リクに小声で話しかける。
「サービスや。おまんの枝の幹は渋川義陸、既に絶えたはずの一族や。やき、おまんは特別なんや。これは誰にも見つかわれん、えいな?」
釘を刺されたところにソウが戻ってきた。そろそろ帰る刻限だとのことで、再び才谷に礼を言って館へ戻ることにした。しかしその道中も彼はそれに悩まされることになり、折角の余暇はあまり休んだ気にならなかった。
館へ戻ると、げっそりした副館長がへなっとしていたのでその悩みも何処かへ吹き飛んだような気がした。
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