第12話「死んだら葬儀屋も悲しんでくれるくらいに一生懸命生きよう」

2001年8月31日

DV細胞系能力者となった僕は、能力開発研究機関 奥多摩研究所へ帰った。

大場教授も、高岡教授も、洞口教授も、その他の研究員も。

『特殊細胞研究開発』プロジェクトに関わる人間すべてが許せなかった。


手始めに大場の研究室を訪れた。頬肉を引き剥がして薄ら笑いできないようにしてやった後、殺した。


高岡の研究室を訪れた。僕の姿を見て「DV細胞系能力者」を数十人差し向けてきたが、片っ端から首を捩じ切り殺した。高岡本人は心の臓を素手で打ち抜いて殺した。


洞口は他の教授と共に避難用シェルターに隠れていた。GG細胞系量産型兵士――後にグリゴリと呼ばれる――を計百体ほど差し向けてきたが、マナを圧縮した技で全て圧殺した。洞口は「パトロンから得た資金と、能力開発研究機関の権限」を差し出してきたため、僕の傀儡として生き残らせた。


その他、非番だった人間――皮肉にも加賀書類管理官は非番だった――を除き、全員殺した。


『GG細胞』『DV細胞』『AG細胞』の研究成果はすべてコピーし、オリジナルは残らず破壊した。

能力開発研究機関は、職員に油を撒かせて火をくべた。


マリアと過ごした場所の一切合切が灰になった時、虚しくなって少し泣いた。


2001年9月12日

『特殊細胞』を用いて施術した能力者には固有の能力が宿る。僕が僕に施したのはまともな施術ではなかったが、それでも能力が発現した。

血液や細胞片を介して”能力者の能力を奪う力”、『強奪』。保持する能力が十数個になっていた。


2001年10月3日

能力開発研究機関の他支部を潰すことにした。道中マリアに会ってしまうことだけが恐ろしい。

君は今どこにいるんだろうか。神野研究員と一緒に暮らして、充実した日常を送っているのだろうか。嫉妬で狂いそうだ。


2002年6月20日

日本に設置されていたすべての研究所を潰した。国が握っていた『特殊細胞』のデータもすべて潰した。


2002年8月1日

髪が伸びておらず、体が成長しないことに気付く。

そうか、浄化前の『憤怒』のDV細胞でも、僅かながら副作用があるのか。


2003年6月1日

青木ヶ原樹海に特殊細胞研究機関『アダム』を設立させる。『特殊細胞』を用いて能力者を量産し、その能力を奪うためだけに設立した機関だ。所長は洞口元教授だ。うまく進めてくれるといいが。


2003年9月12日

アダムで量産した能力者が50人を超えた。僕が能力を奪った”使用済み”の人間は処分していたが、行方不明者増加としてマスコミが騒ぎ始めた。もう少し人目につかない人間を選ぶ必要がある。


2003年10月5日

かつて『能力開発研究機関』のパトロンだった七瀬のもとを訪れる。

アダムへの資金援助を打診するが断ったため、彼の家族を脅しに使い膨大な資金を引き出した後、殺した。


2004年2月27日

東京 - 桜新町で大規模なマナ反応と、地形が変わるほどの大地震が起きた。

アダム職員と現場へ向かうと、全てが”消失した”地に神野研究員が倒れていたため、連れ帰る。


2004年3月1日

アダムへ連れ帰った神野研究員が目を覚ました。

僕が相対すれば殺しかねないので、アダム職員に聞き取り調査を任せる。


研究所を出てすぐの頃は、蓄えた貯蓄を崩してマリアと同棲し、嫁とは新婚生活を送るという、二重生活を送っていたらしい。つまり、マリアを不倫相手として使っていたのだ。


そして、昨日。僕が彼女に吐いた「特殊細胞研究は平和のために使われる」という嘘。

それが「人殺しのために使われる研究」だったとマリアが知った際、彼女は自我が崩壊するほどの精神的ダメージを受け、力を最大限まで発動させて過去を書き換えようとしたらしい。


その結果、桜新町の大地震が発生し、街ひとつを消失させたとのことだ。

そして、マリアは――神野研究員曰く「彼女の身体、そして街すべてが、時間が逆流するように若返りを続け、果てに消失した」らしい。


「実験の影響で老けないって言うし顔も整ってたから、便利な女として使えるかなって思ったんですよ。結果としてこんなことになるなんて、とんだ拾い物だ!僕を解放してくれよ!僕には家で待ってる嫁がいるんだよ!」

そう平気で吐く神野が、僕には悪魔に見えた。

僕にとって命より大切なものでも、彼にとってはその程度の気持ちで奪えるのだ。


神野研究員はアダムの実験体としてあらゆる苦しみを与えた後に、殺した。


2004年3月25日

『特殊細胞』によって得られる能力は自分自身にのみ影響する。

だが、マリアが最後に発動したという『時間を巻き戻す力』。

結果として失敗に終わったものの、それは自分以外の物――桜新町全体――に対しても作用していた。


その能力を会得、制御できたならば、時間を巻き戻して過去を変えられるかもしれない。

ようやく生きる気力が湧いてきた。


2004年8月12日

かつて桜新町であった地域の復興が決まり、シンボルとして街の中心に追悼の意を込めた大鐘が設置された。街の名前は『大鐘町』へと改名された。


2004年9月1日

アダムで製造・破棄した能力者から奪ったチカラが100を超えた。

だが、『時間を巻き戻す力』を発現させる能力者は、未だ現れない。


2004年9月20日

どこから聞いたのか、加賀元書類管理官がアダムを訪れた。

「こんなことをしてもマリアとの時間は戻らない、罪を償うんだ」と説教してきたため、殺した。


違うんだ。戻るんだよ加賀さん。僕が時間を巻き戻すんだ。

世界が僕からすべてを奪ったんだ。

僕が世界のすべてを贄として彼女に再び会うことは、罪ではない。


2009年2月11日

アダムで製造・破棄した能力者から奪ったチカラが500を超えた。

被験者は20,000人を超えたが、『時間を巻き戻す力』を発現させる能力者はまだ現れない。


2009年3月1日

つかれたな。


2009年3月14日

国の膨大な支援を得て数百万人を能力者にできれば、一人くらいは『時間を巻き戻す力』を発現できるだろうと考えた。だが、能力者開発を支援させるには"火種"が必要だ。


日本全国にGG細胞を散布、GG細胞製兵士を量産し日本を壊滅状態に陥れ、能力者によってそれらを駆除させる計画を提唱する。自国を守るためだ、政府だって投資を惜しまないだろう。

だが、構想段階でアダム職員から批判を浴びたため、洞口教授を残して全員殺した。


2009年3月26日

GG細胞を、日本全国にばら撒いた。

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