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第1話 出会い

―――あぁ、まただ。


見慣れた狭く空き缶まみれの小汚い部屋。

見慣れた今にも腰砕けそうなイス。

そして縄・・・これも見慣れてる。

そしてこの涙でぼやける光景――――――いつもと同じ。また失敗した。


「っはぁ・・・」

持ってたものを放っては、おもむろにボロついたジャケットと缶ビールを片手にドアを開ける。


そして深夜に近所の公園に来てはまたダメだった。俺はどうしようもないんだと泣きながら酒を煽る。ここまでがルーティン。


哀れだって?自分が一番わかってる。わかってるから泣くしかないんだ。

そもそも誰かに相談するようなヤツなんてオレにはいない。それどころか、自分の家族にすらとっくのむかしに捨てられたね。あー、5歳ぐらいのころだっけな?まあそのへん適当なんだけど―――生まれたころから親からは煙たがられてたらしい。そんで物心ついたときにはもう施設にいたから顔すら覚えてねえけど(笑)

そんときからかな?人が嫌いでしょうがなくなったのは。でもそんなカンジで人を拒絶してきたから碌な人間にならなかったんだろうな。人との距離感なんかわかんねーし、会話だのあーだのこーだのはさっぱり。犯罪者みてーなカオとかいわれるしよ。



こんな自分を変えたくて、必死で節制して作った金を競馬だの、パチンコだのに突っ込んだこともあった。けど金持ちになりたいなんて夢をそんなことで叶えられるわけもなく・・・矮小でちんけな考えしか浮かんでこない自分にもっと腹が立っただけだった。



もうわかるだろ?このメンドくさいカンジ。こんなだからどこいってもうまくいかねーし、バイトだって17歳から続けてはいるものの―――

8年たっても正社員の話なんて飛んでこねえ。それどころか今じゃ年下の社員には舐められるわ、コキ使われるわ、怒鳴られるわ―――そんなハナシしてたらまた涙がこみ上げてくる。自問自答したところでどうにもなんねえのにさ。

それこそ首括ってイスを蹴り飛ばす勇気が元々ありゃ、こんなんにはなってねえよなぁ・・・





わかってんだ。でも今まで人を拒絶して完成したコミュ障の腑抜けが、25になって変わるなんてそんなムシのいい話はねぇし。マンガみてーにヒーローになれるワケもねえ。取返しなんてハナからつかねえってわかってるのによ。

クソ。クソクソクソクソ――――――




「ぢぎじょぉ・・・ウグっエグっっ・・・がわ゛りでえ゛よ゛お゛お・・・」

「それなら、ぼくに提案があるんだけど」

「エ゛・・・?」


誰だこいつ。てか近っ・・・

つか気持ち悪くなってきた・・・

やべ―――




「オロロロロロ!レロレロレロロロロロ」ビチャビチャ

「わぁ!すごいねぇ!」


最悪だ。

謎のステルスじじいには近づかれるわ、公園のベンチでフツーに吐くわ・・・

そのうえジジイに背中さすられるってなに?生き地獄?


「いやあごめんね!話しかけたら吐くなんておもわなくてさ~ハハハ」

「ア゛・・・う・・・・」

「とりあえず水でいいかな?」


人から話しかけられるなんて、バイト中の指示以外では久しぶり・・・

ていうか指示も一方的でこっちから喋ることなんてねーし・・・

我ながら大爆発をカマしてるな。


「はい!とりあえずこれ飲んでね落ち着こうか!」

「あ・・・ス・・・」

お前のせいで吐いたんだけどなぁ・・・

そんなことも言えない自分にまた辟易する。


「水のついでに、なんだけどさ・・・じつはぼく心理カウンセラーみたいなのやっててさ!」


ついに語りだしたぞこのジジイは。


「ここからだと少し遠いんだけど・・・歩いて20分ぐらいかな?そこにぼくの病院があるからさ!よかったら来てみてよ!

・・・あ!初診は無料だからね!お金なくても大丈夫だからね!それじゃ!」


言うだけ言って、カウンセラージジイは足早に駆けていった。


一言余計だなコイツ。ていうかウルせー。

なーにがカウンセラー!だバーカ。行くわけねーだろうが・・・



悪態をつきながら終わった口内を水で洗おうと、ペットボトルを持ち上げたその時―――



ピラッ


何か白いものが水滴とともにこぼれた。



「なんだ?これ・・・月島・・・メンタルクリニック・・・?」



この時コイツに会っていなければ――――――――――――


コイツとの出会いが想像を絶するようなことになるなんて、

この時の俺は考えもしていなかったんだ。








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