第15話 だからこそ

「こんな時に――外まで我慢がまんしろ。馬鹿ばか


「馬鹿は貴女きじょでしてよ。こんな時に冗談じょうだんなど。死にたいの?」


 このっ。死にたいのはどっちだ。


「ミス大郷司だいごうじ――私は、貴女という人間を理解した上で言わせてもらうわ。その野暮用やぼよう、行く必要ひつようはないわ」


貴女あなたにわたくしの何が解って?」


「だからこそ、貴女をむかえに来た――私達も下調したしらべくらいしているわ。この建物にはわれ々以外誰もないわ」


「大郷司さん、勤労きんろう動員どういん補習ほしゅうなんて、やりたくても出来る事じゃない。誰もこのんでこんな所には居ないわ」


 あれ、今むねに何かがさった様な――しかし、たまきの言う事をいちいち気にしていたらきりがない。今はげよう。


「ほらっ、行くぞ万千まち!」


 私は覚悟かくごを決め、物静ものしずかな階段をりた。


 げたにおいが立ち込めてはいるが、それ以外変わりは無かった――それもそのはず、一階には見るかぎり火のは無かった。


とうに消火しょうかされたのか。今さっき、大量たいりょうけむりを見ていたのに、一体――。


「これはどういう事でして?火事など何処どこにも無いではなくて?」


 そう、これは鎮火ちんかというより、元々火事など無かったような…。


「――火事ではなく、誰かが室内しつない焚火たきびでもしていたのかな」


 それでは今までの事は――。


うそなの?万千を連れ出すために――」


「貴女を殺そうともしたし――迫真はくしんだったでしょう?」


「貴女!?――」


「冗談よ。でも、どの道この建物は消すし、ミス大郷司も連れて行く。そして、貴女は――」


「ハイネさん、見て!ここで誰かが焚火をしていた様よ」


 環と万千が火元であろう部屋を調べていたらしい。それにしても、まさか本当に焚火とは。サンマでも焼いていたのか。


「バイロンの仕業しわざだろう。彼女もまた、人の子らしい――それより、ミス大郷司と少し二人きりにしてほしい。きっと貴女も、たのめば解ってくれる」


「ハイネさん――。…えぇ、分かったわ。約束やくそくですものね」


 私は少し心配しんぱいだったが、環の手前、何も言えなかった。


「オーライ――彼女、少しりるわね」


 そう言うと、環ではなく私に目配めくばせをくれ、万千が一人居る焚火をしていたであろう部屋に入って行った。

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