第14話 マジョ

 女性の笑いは、私達をわれに返えらせた。


 私の所為せいでおかしくなってしまったのか、不気味ぶきみである。


「フフッ。魔法まほう存在そんざいした。こんな東洋とうよう島国しまぐに魔女まじょた――東洋の魔女…」


 彼女はうつむき、つんばいいのまま、何かをつぶやいていた。


『マジョ?――』


 そう聞こえたが、意味は解らなかった。


 女性は急に立ち上がり、やたらうれしそうに、私をまじまじと見つめた。


八乙女やおとめツクス――たまきえらんだ人間ひと


 ゴクッ――。あまりにも近距離きんきょりに顔をちかづけられ、のぞんで来られ緊張きんちょうしてしまった。


 外国人だからそう思うのか、いや、よくよく見ればかなりの美人で貴婦人きふじんだった。


 っと。そんなことを考えていると、ガバっと、力強ちからづよかたつかまれ、見つめられ、見つめ合い、はなれるに離れられなかった。


 じょ々に近づく貴女かのじょくちびるに、つい目をつぶり、唇をし出してしまった私を一体誰がめようか。


 ――!。やわらかいものが、ほおでた。


「これはただの挨拶あいさつ――続きはまた今度にしましょう」


 ハッ――。耳元みみもとでのささやきに、一体何を期待きたいしてしまったのだろうと、頬を赤くしてしまった。顔が熱い。


貴方達あなたたち、わたくしのことをお忘れでなくて?――わたくし、やけてしまいますわ」


「あら、貴女とはお楽しみがまだ残っているわ。それを知ったら、もう戻れない――」


 女性は万千まちに近づき、顔を耳元へせた。何かを耳打みみうちするように。


 それだけだったが、見ているこっちがずかしくなる。


「ゴホンッ。お邪魔じゃまでしたら、先に行きますか?――火がそこまでせまっていますよ」


 鼓動こどう高鳴たかなり、あつくなる。環もえ切れなかったのだろう。


 熱いはずだ。何処どこからともなく上るけむりが、この二階のまどからも見えているのだ。


 だんじてその先を想像そうぞうしたわけではない。


「フフ。なら、続きは外でしましょう――大事な貴女きじょ二人の顔に、きずがついてはいけない」


 あえて何も言わない。一刻いっこくも早く、ここから出たいから。


けるわ――一体誰と誰の事かしら…」


「何かおっしゃいましたか?環さん。早く行ますわよ」


 廊下ろうかへ出ると、火の手はまだ二階までは来てはいなかった。これなら外にげられると、ほっとした。


 窓から見たそれとはことなり、まるで何事なにごとも無いかの様に、煙すら来ていなかった。人の気配けはいも無く、しずかなものだった。


人などる訳が無い。春休みに補習ほしゅうだなんて私たちくらいなものだろう。


貴女方あなたがた、先に行ってくださいな。わたくし、少々野暮用やぼようを思い出しましたわ」

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