第11話 高揚

 私は思わず、耳をふさぎ、身をかがめた。何が起こったのか解らなかった。


 しかし、それでも万千まち微動びどうだにせず、仁王におうっていた。


 ドレスの女性がにぎっているものからは煙が出ており、爆発ばくはつ正体しょうたいがそれだと分かった。


 その爆発の反動はんどうからか、彼女はうでらせ、尻餅しりもちをついていた。


「ハイネさん!!――」


 私は一体何が起きたのか理解りかい出来できずにいた。どうやら、この事態じたいたまきおどろいているらしい。


 しかし、環の表情ひょうじょうは驚きよりも――何とも言えない表情だった。


 何事なにごとも無かったように彼女は立ち上がり、真っ赤なドレスのほこりはらうと、持っていた黒いそれを私、もとい、万千にけた。


「イテテ、まいったわ。使うのは初めてで…。でもこれで理解したでしょう。これは所謂いわゆるピストル。え~とっ…、種子島たねがしまたし拳銃けんじゅうといったかな――ごらんとおり、これは女性でも簡単に人を殺せる道具どうぐよ。といっても、どうやら貴女きじょは知っているらしいわね」


「ハイネさん、約束が――」


「言葉で説明せつめいするより解りやすいわ。ねぇ?――ミス大郷司だいごうじ。最後よ。一緒に来てもらう。時間が無いわ、カボチャの馬車ばしゃも待たせていることだし」


 かぼちゃ?は分からないが、彼女のにぎっているものが、殺しの道具である事が分かった。そしてそれは万千へ向けられ、そんなものでおどしてでも万千を連れて行きたいらしい。


 そこまでして何故なぜ万千を――。


「誰が貴女あなたの様なかたと行きますか。わたくしを少し甘く見過みすぎでしてよ。そのようなもので――なめるのもいい加減かげんになさいあそばせですわ」


 不味まずい、万千は頭に血がのぼっている。


 彼女に力尽ちからずくぎゃく効果こうかだ。


 そういったたぐいちからでねじせてきた自負じふがある。万千は引かない。しかし、相手が悪い。いくら万千でもあれには勝てない――。


「これを見てもさからわれるとは。無傷むきずで、とは無理ね。悪いわね、環」


「やめて!大郷司さん!ほんの少し、付き合って欲しいだけなの!」


 どちらも退かない、退けない様子ようすだった。止めに入りたくとも足がすくみ動けない。


 しかし、このままだと万千があぶない!この女性ならやりかねない。どうすれば――。


「今度は当てるわ――引きずってでも連れて行く」


「わたくし、た様なおど文句もんく何度なんども聞いて来ましたが、ご婦人ふじんの口から聞くのは初めてですわ」


 女性は真紅しんくのドレスをひるがえし、それを両手で握り、万千へ向けた。


 また尻餅をつかない様、身構みがまえている所を見ると、本気でさっきと同じことをするつもりなのだろう。

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