第10話 本気

「キャ――ッ!?火事よ――!!」


 血のが引いた――さけび声は建物の外から聞こえ、誰の声かまでは解らなかったし、そのわざとらしさを気にしている余裕よゆうもなかった。


 実際じっさいに火を見たわけではなかったが、私はそれを信じ、この建物だと直感ちょっかんした。そしてその原因が彼女である事も――。


 私は彼女の話を、『今』を、心の何処どこか本気でとらえていなかったのだ――そして私は、私がかれている状況じょうきょうを『今』理解した。


「バイロン!?まだ私達が中に居るのに…」


 たまきと女性は、あわててまどを開け、外をうかがっていた。


 私ものぞむと、一階からけむりが見えた。


 私達のる二階に火が回るにはまだ時間が有りそうだったが、すぐぐに逃げないと逃げ遅れてしまうだろう。逃げられるなら…。


「私は?――私は殺す気?」 


ようやしんじてもらえたかな。私の事、組織の事――貴女きじょをこのような事にき込んでしまってもうし訳ないが、今なら、まだ殺さずにみそうだ。が、時間が無いな」


「キエ――!!火よ!火事よ!! ――貴女方あなたがた、わたくしをどうするおつもり!?やはり舞踏会ぶとうかいうそね?」


 万千まちも、事の重大じゅうだいさにやっと気が付いたようだ。


「落ち着いて大郷司だいごうじさん、それは本当よ。舞踏会はあるわ――それより、話が違うわハイネさん!」


「いやですわ!わたくし。貴女等きじょら心中しんじゅうだなんて!」


「ハハッ、それは心配しんぱいない。貴女等はもちろん、学校には何もしない。この勤労きんろう動員どういん施設しせつだけを消しに来た――それに、貴女を舞踏会に無事ぶじおくとどける事が私の任務にんむだった、が…。時間も無い。悪いが手荒てあらに行かせてもらう」


 そう言うと彼女は、真っ赤なドレスの、何処どこからともなく取り出したそれを万千まちけた。


 にぎられたそれは黒くにぶく光り、私はそれが何か解らなかった。


 しかし、万千はそれを知っているようで、目付めつきが変わった。


「それは――何のおつもりですの?」


 パ――ンッ!!


 ガシャーン!!――それを握る彼女の指が動いたと思ったその時、何かが爆発ばくはつし、万千の後ろにあるまど硝子がらすいきおいよくれたのだった。


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