第8話 ウーマンリブ

「彼女の名前は、ハイネ・ガントレット。新学期から就任しゅうにんする外国語教師――それ自体は関係なくは無いけど。だから、別の。そう、本当の彼女について紹介しないと…いいの?全部話して?」


「う~ん。良いんじゃない。どちらにしろ直ぐに解る事だし」


「……。今、デモクラシーにかこけて、いたる所で女性じょせい解放かいほう運動うんどうおこなわれている事は知っている?私は興味きょうみ無いけど、それ自体じたい素晴すばらしい事だろうし、勝手かってにすればいいと思うわ。でも、その半端はんぱな活動の所為せいで女性の立場が悪くなっているのも事実なの。おかしな話だわ」


「では、そちらのご婦人ふじんは女性解放運動かたでして?」


「違わないわ。ただ、ウーマンリブとはいっても色々とやり方があって、ちまたさわがせているそれは、自由の無い解放。まるで慈愛じあいの無いことよ」


 ウーマン…、リブ――。


「…言いぎ」


 いつの間にか、椅子いす腰掛こしかけていた『ハイネ』なる人物は、外をながうわの空だった。


のご婦人がたには、人間としての尊厳そんげん以前に『乙女心おとめごころ』というものを分かっていないわ!」


 何時いつもながら、独自どくじ価値観かちかんだが、きっと彼女なりにすじを通し、何時いつしかそれがつねになるのだろう。今の私では理解出来ないが。


 感情をあらわにしたたまきは、まるで何かを思い出した様だった。


 こういう事はたまにもあった。一人で思い出した様に怒り出す、何かにかさね合せている様に。


 自分を、他人を。


「落ち着け。ヒステリーを起こすな」


 環のそれを、この女性は見慣みなれているようだ。万千まちいたっては、肩をすくめて、こっちを見てきたが、私は無視むしした。


「はぁ~。ごめんなさい。つい、熱く。もう大丈夫――つまり、ハイネさん達は、そういった活動かつどうとはまるでぎゃく。本当の解放かいほう、つまり愛のため戦っているの。その為には手段しゅだんを選んでいられないし、時には罪を犯す事も。でも大丈夫、人は殺さないわ」


 環の口から『愛』という言葉を聞くとは…。あまりにもうすっぺらく、うそくさい。


 心にもない戯言たわごとの様だった。


「『女性じょせい解放かいほう戦線せんせん』――私達はそう呼んでいる」


 『女性解放戦線』?物騒ぶっそうなことだ。


「人殺しはしないけど、手段しゅだんを選ばない過激派かげきは組織そしきってこと?――女性街じょせいがいに行って何をする気?戦争でもしたいの?そもそも女性街って一体何?」


「――女性街は、そうね…。新たな時代の形ってとこかしら。それに、『女性解放戦線』っていうのはただの当て付け」


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