第6話 想像の人

 コンコン――。たたく音だった。


 話に夢中むちゅうで気が付かなかったが、ひらきっぱなしだった戸に、もたれかかる見知らぬ人物がそこにた。


 おどいたのはその人物に気付かなかった事でも、今までの話を聞かれていた事でもなく、その容姿ようしにあった。


 女性。そんなことは解る。服装ふくそう着物きものではなくモダンな洋服ようふく、真っ赤なドレス。


 今から舞踏会ぶとうかいにでも行くのかというほどめかんでいた。


 その女性は学生ではないだろう。あきらかに年上だ。二回り、それ以上か。では一体誰か?何の用か?教師にしては派手はでだし、見かけた事も無い――。


 見かけたも何も、白黒しろくろ写真しゃしんでしか見た事がない。


 ひとみの色、かみの色、はだの色、言葉、考え方。


 写真では解らないそれらは、実際じっさい目の前にすると、今まで私が想像そうぞうしていたことや、ならって来た事が、如何いかに無意味なこととき付けられる思いだった。


 彼女の長い髪はたばねられ、金色きんいろかがやき、ひとみみどり。それは所謂いわゆる――。


『外国人だ!』


 輝く髪。万千まちよりも高い身長。本物なんて初めて見た。物怖ものおじしてしまう存在感そんざいかん。これが外国人――。


「いい子じゃない。たまき。君にちゃんと感情かんじょうをぶつけてくれている。他人として、友人としてせっされるのも悪くないだろ」


「ハイネさん。何時いつからそこに?立ち聞きなんて――ずかしいわ、そんな台詞せりふ


「ナンセンスね――それも貴女あなた次第しだいよ」


 環とその女性は、とてもしたしそうだった。環に外国人の知り合いが居たなんて私は知らなかった。


 それをかくしていたと思うと少し複雑ふくざつだった。私もお近付ちかづきになりたい。


「環さん。そちらのご婦人ふじんは、何方どなたさまですの?」


「ごめんなさい、紹介しょうかいおくれたわ。大郷司だいごうじさん、こちらは――こちらは…。なんて紹介していいのか…。そうね、ご自身でなさったら良いわ。ねぇ『ハイネ先生』」


「『先生』――。人からうやまわれる事は、とても心地ここちが良いものね。貴女きじょなら解るのではなくて?大郷司だいごうじ万千まちさん」


 『先生』?さっするに、新任しんにんの外国語教師きょうしといったところだろうか。


 環の知り合いだとすると、新学期の担任たんにんか?――にしても、本当に外国人なのだろうか、うたがってしまうほど流暢りゅうちょうに話す。


 見た目とのでおかしくなりそうだ。

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