第5話 彼女

 彼女は、目に入る全てが気に食わなかったのだろう。


 きっと、デモクラシーでさえ、彼女にとってははなに付き、女性じょせい解放かいほう運動うんどうを鼻で笑っていた。


 だからこそ私は、たまきを――。


「さぁ、どうしたの?おとめ(通称つうしょう)。続きは?少しは根性こんじょう見せてみなさい」


 やれやれと私から手をはなした万千まちは、手のこうを返し、『何もしていない』と強調きょうちょうしていた。


 まったく、はかまがはだけてしまった。これなら着直きなおした方がはやいかもしれない。


「ごきげんよう。環さん。今日はどうなさったの?学年首席しゅせき裁縫さいほうもお得意とくい貴女あなたが春休みにも登校とは、よほどおひまでらっしゃるのね。わたくしは――」


「――環、丁度ちょうど良かった。みなとにサーカスが来ているらしいのよ。このあと見に行きましょう」


「まぁめずらしい。わたくしも行っても良くってよ」


「万千はさそってないだろ――どうしてもっていうなら、クルマ出してよ」


「わたくしに指図さしずするつもり?貴女なんて――」


だまりなさい、おとめ!まったく、虫唾むしずが走るほど陽気ようきね。デモクラシーにかされて――女性が力にくっしては世話せわ無いわ。そうは思わなくて?おとめ」


「環らしいね。もしかして、期待きたいしているの?デモクラシーを――それとも戦争に?」


「もしそれで生まれ変われるならそれも良いわ。全てを焼きくし、秩序ちつじょが入れわればね――しかし、それは100年も前からり返して何も変わっていないわ。変化をもとめるなら革命かくめいが必要だわ。それがたとえ、わらにもすがる事でも」


 環の言いたい事は分からなくはない。しかし、正しいとは言いがたいことだった。だからか、それを正当化せいとうかようという環の言いぐさには無性むしょうはらも立つ。


「それは今の女性のこと?それとも環のこと?」


「――皮肉ひにくね。少しきずついたわ」


「――っ。ごめん…」


「わたくしには良く解らないけど、お二人とも苦労くろうなさっているのね」


 まったく、なか暴力ぼうりょくでは解決かいけつ出来ない問題もあることを、万千は知らないのか。


「――感傷かんしょうひたるわ、ほっといてちょうだい。大丈夫、貴女とかちおうとは思はないから」


 そう言うと、環は窓辺まどべから外をながめた。いつもの退屈たいくつそうな顔ではなく、何か、物思ものおもう様な顔で。


「彼女、おかしくてはなくて?」


 万千に言われなくとも、おかしいなんていつものことだ。が、今日の環は不思議と不自然に普通だった。


 いつもなら『裁縫なんて、負け犬のする事よ』くらい言うだろうし、そういう女性らしいたぐいのことを彼女は嫌っていた。


 まるで呆気あっけないほどだ。

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