第6話 地球(コチラ)の事情! ⑥

要約すると、


 〇 警察は警備を断ることが出来ない


 〇 ストーカーの犯人の目星はついておらず、ライブ中何

  か起こす可能性が高い


 〇 世論、メディアが何か起こったら今にも叩く準備をし

  ている


 つまり、そこにおいて俺の役割とは・・


 「あんたのスケープゴートじゃねえか!!!!」


 「まあ、そう声を荒げずに、前田巡査。」


 「いきなり階級持ち出して来ないで下さいよ!!」


 反射的に敬語になる俺。


 万年平社員の悲しい習性だ。


 「いや、でも俺を担いだところで、世間は納得しないでしょ、こんな下っ端警官

 が責任者だなんて。」


 「経歴を変えますから。」


 「は?」


 「必要な場合、君が高卒で警察官となったところを、キャリア官僚であったとい

 うことにし、そして、例えば経験不足や、手柄を焦ったことによる杜撰ずさんな警備計

 画による失敗だったということにします。」


 あ、そうそう、その時には警部補にしなきゃならないですね。


 なんてスラスラ決まっていたように言葉を吐き出す。


 『します。』という言い切りが今までの人生でここまで怖かったことはない。


 そんな簡単にできんのかよ。


 「もうあなたが責任者に決定しているので、別に警備本番をボイコットしていた

 だいてもかまいません。

 もうお手元の資料の名簿にも名前があるでしょう?

 これもう本部長のところまで行ってますし、会議の状況も録画してあるので、

 要望があればメディアにも編集してこの映像を渡します。」


 手回しが異常に良い。


 最初からこの予定だったということか。


 結局、俺は署長にも騙されていたのだろう。


 この年にして泣き出したくなってしまう。


 「では、もう帰宅なさい。私達は現場に向かいますから。」


 おっさん達は列になって会議室の外に出て行く。


 ふと、俺は何を求められているのかと自問する。


 交番のおまわりさんとして、出来る範囲で頑張ってきた。


 交通違反を見つけて、切符を切った人から怒鳴られたこともあった。


 自転車泥棒を捕まえて、感謝されたこともあった。


 今の状況はなんだ、この任務に地域の人々のための治安維持なんて関係ないじゃないか。


 なんで上の人が俺達よりも人々のことを考えられないんだ。


 そんな中、思い出したように俺の携帯電話が無造作に長机上に放り投げられた。


 携帯が長机にバウンドするのと同時だった、


 「俺も行きます。」


 言葉は俺の口をついて出た。


 「なぜ?」


 「別にあなたの身代わりになることが俺の仕事ではないからです。」


 「言っている意味がわかりません。」


 「当然のことですから、これ以上説明するようなことはありません。」


 管理官は憮然とした表情を浮かべたが、


 「ま、別にいいですよ、特別警備管理官殿。」


 と、振り返って列の先頭を歩き始めた。





 簡単な話だ。


 俺の仕事は、誰かの失敗の身代わりになることではない。

 地域の治安維持に努めることだ。


 警備の責任者だと言われれば、警備の責任者として全力を尽くさなければ。


 要は何も警備中に起きなければ良いということだ。


 何も問題が発生しなければ、Kinoも観客もなんの被害にも遭わない。


 そして誰も責任を取る必要がない。


 現場に着いた俺は、できることを探して現場を見回る。


 会場全体は、およそ1平方キロメートルもあり、その中でライブスペースはステージを含んで半分程度を占めている。


 その他の部分は飲食できる屋台、グッズを売る物販のスペースとなる予定の様だ。


 現在進行形で会場設営のための工事が急ピッチで進められている。


 鉄材を運び終わった10代くらいの若い作業員に声をかけた。


「工事はどんな状況ですか。」


「ケーサツの人っすか?

 大変すね、まだ会場もできてないってのに。

 この工事は、最初から予定通りじゃないんで、あんまし良くない進みっすね。」


 タナカというこの茶髪の作業員は、質問に快く答えてくれた。


 「この規模のステージ造るなら、ウチは人数も少ないんで2か月は欲しいんすよ

 ね、でも今回は大体1か月で建てなきゃならないんすよ。」


 「それはよく設営の仕事を受け付けましたね。」


 「ウチ、社長若いんすけど、Kinoの大ファンなんすよぉ・・

 あと、このご時世で仕事も少なかったし、って感じすね。」


 「なるほど。」


 「さっきも大事なパーツが抜けてたりしてヤバくて笑っちゃいましたよ。」


 いや、それは笑えないんじゃ…


 じゃあ、戻るっす。


 タナカは話も聞かず、急ぎ足で資材置き場へ駆け戻る。


 そこから俺も会場を一回りしたが、今のところ特におかしなところはない。


 念のため火薬のにおい等に反応する警察犬を使って周辺を調べたが異常はなかった。


 「会場を見て回られていましたね。」


 管理官が声をかけてくる。


 コイツは一切会場見て回らずに会場設営の社長らしき人間とずっと話し込んでいた。


 「ええ、管理官は見回らなくてよかったのですか?」


 「部下が犬を使って見るだけで十分なのですよ、まだ会場もできていないのですから。」


 いいご身分だ。


 「建設員に話を聞いたところ、設備の安全面に不安があるそうです。

 もう一度設備の安全面の確認を依頼してきます。」


 「でしたら私が伝えておきましょう。

 社長と故意になれましたので。」


 確かに警備素人の俺から話をするより、実質トップの管理官から伝えた方が良いかもしれない。


 そちらは任せることにした。


 今日できることをやり切った後、帰宅した俺は、会場において心配な点をまとめておくことにした。


 〇 会場は急ピッチで設営が進められており、作業員の疲

  労がピークである


 〇 会場は広く、目視で確認するには限界がある


 〇 ストーカーの問題は全く解決していない


 といったところだろうか。


 正直会場設営とかに関してはできることがないよなぁ・・


 自信の無力感に襲われるが、なんとか気合を入れなおす。


 しばらくは警備関係の仕事が続く。


 気を抜かないようにしなければ。



 こんなことがあったんだ。


 時事や災害が気になるだろ?


 時は戻って現在。


 明日が警備本番だ。

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