第4話 地球(コチラ)の事情! ④
「いつもありがとね。今日は非番なのね。」
声の方に顔を上げると、そこに居たのは母だった。
母は、前田まえだ 春はると言う。
実家の会社が潰れてから、バイト、内職、家事と様々なことをこなすスーパー母ちゃんである。
だが、その性格は、かなりおとなしく、傍から見れば日々の激務をこなせるようには全く見えない。
そして激務を行っていることを周りに感じさせない。
現に少しでも休みたいはずだが、こうして雫の着替えなどの世話のため病院に来るのだ。
俺の家族には頭が上がらない。
「今日は来るの遅くなったのね。」
「あー、ちょっと、寝てきた。」
頭は上がらないが嘘は吐く。
俺はそんな人間なんだよね。
「そうなの、仕事、色々大変だもんね。」
と、どこか見透かされたような返答を聞く。
なんとなく、この話題が続くと負けてしまうような感覚を覚えた俺は、最近の実家の様子を聞いたところ。
「優ゆうさんは忙しくしてるわ。だからお母さんも頑張らないと!」
この優さんというのが俺の父、前田まえだ 優ゆうのこととなる。
年を食えば、夫婦なんてものは、お父さんとか、お前、とか、母さんとか、呼び方が変わっていくものだと思うが、仲睦まじいこの夫婦は未だにお互いの名前で呼び合うのだ。
父もまた、日々の激務を耐え忍んでいる。
見た目は、いつもニコニコしている優男って感じなのだが、かなり根性があるのだろう。
あとは、実際やり手なのだと思う。
20代から会社を経営し、軌道に乗せ、社員に裏切られるまでは順風満帆な人生を送っていた。
本当に、悪いことは続くもので、そういえばその裏切りも雫の件があった直後のことだった。
話をしていると、いつの間にか外が暗くなっていた。
「嬉しいんだけど、非番の度に来てくれなくてもいいんだからね。」
「俺は雫の顔見に来てるだけだから。」
「そうじゃなくて、休みを楽しみなさいって言ってるの。」
「やることないんだよ。」
「・・言い方を変えるわね。彼女が出来るように頑張りなさい。一くらいの年には、お母さん、優さんと結婚してたんだから。お母さんと優さんはね・・・」
いつもの長いのろけ話の始まる流れを読み切った俺は、追憶の彼方の母とよく眠る妹を尻目に病室をそそくさと後にした。
やはりここに来て良かった。
俺も頑張らなければ。
目下のところの課題は、数日後の警備要員の顔合わせか。
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