第2話 地球(コチラ)の事情! ②

Kinoという女性歌手が2年ほど前からメディアに取り上げられるようになった。


 アーティストには疎い俺だが、彼女の名前は聞き覚えがあるし、代表曲のサビくらいなら数曲口ずさむことができる。


 動画投稿サイト等でいわゆる歌い手として活動を始めたのは4、5年ほど前からとのことだが、才能があっても芽が出ない者が多数居る芸能界にあって、異例の早さの出世と言えるだろう。


 彼女は今や時の人となっている。


 そんな有名人が花海町という片田舎で異例の大型のライブを行う。


 何でまたこの田舎で?


 瀬名署長の話はこうだ。


  ○ Kinoの出身地が花木町であること


  ○ 本来1年前に実行の予定だったが、世情から実行 

   を遅延し、今から2月後に実行する運びとなったこと


  ○ ライブはKino本人の強い希望であること


  ○ このライブがKinoの初ライブであること


  ○ 会場は過去に工業団地を誘致する予定となっていた

   埋立地の一部にステージを建設すること


  ○ 警備は県警察本部が取り仕切る


 そして、重要なことは、署長が、会場警備の応援要員に俺を選び、それを引き受けてもらいたいということだった。


 いや、なんでよ。


 芸能人のライブの警備については雇われた警備員が行うはずだ。


 もちろん、今回のようなライブ会場だとか、プロ野球の球場とかでトラブル対応のために警察官が少人数待機するなどはあり得る話だが、基本的に警察が警備にあたることは基本あり得ないはずだ。


 話を聞く限り、交番のおまわりさんに出番はない。


 いや、正確にはイベントの警備に刈り出されることは初めてではない。


 もう一つおかしいのは、今回警備を取り仕切るのが県警本部だということだ。


 県警本部で警備を行うならば、規模によっては管轄の署に人員の応援を求められることはあっても、基本、警備要員は本部から送られるし、今回花海署に応援を求められた人数はなんとたった1名らしい。


 そこで白羽の矢が立ったのが俺だと署長は言うのだ。


 流石に疑問を持たずにはいられなかった。


 俺じゃなくても、警備関係に強い巡査部長とか、警部補とかがいるじゃないか。


 「いやね、本部が動ける若手が欲しいって言うのよ。アタシん中でね、一番動ける若手は君だから。」


 まるで雷に打たれたようだった。


 この6年、誰からも評価を受けた記憶はないが、まさか署長直々にこんな言葉をかけてもらえるとは思わなかった。


 いや、待て待て!


 嬉しさのあまり、即承諾しそうになるが、この警備は状況が異例だ、何か裏があるに違いない。


 この6年の日陰暮らしは、俺にそんな猜疑心を植え付けるのに十分な時間だったのだ。


 騙されてなるものか。


 どうせ心の中では評価などしていないのだろう、このままだとうまく利用されるだけさ。


 「あたしたちは公務員だから、月に決まった給料が支払われるね。

  だから給料自体を私がいじくることはできないが、受けてくれたら個人的にポ

 ケットマネーというやつで、

 ボーナスをあげようかなぁとも思う「ヤリマス!!」んだよ。」




 大事な話は、駐車場の片隅で、こんな風にまとまった。

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