異世界(ムコー)から来た時のPM事情!

早川 ゆういち

地球(コチラ)の事情!

第1話 地球(コチラ)の事情! ①

最近、世界中で、妙なことが続いている。


 大群のバッタがそこら中のものを食い散らかしながら世界を横断するだとか、不思議なウィルスがもたらす病気が流行ったりだとか、あと、そうだ。


 やたらデカイ地震が多い。


 今年の6月ころからだ。


 しかしこの異変、何故だか救いがある。


 ウィルスは、即座に特効薬が作られ、発症を予防するワクチンも生成された。


 バッタは、突然動きが鈍ってやがて報道されなくなった。


 地震に関しては、規模に反して、死人どころか、けが人すら出ていないことは奇跡と言うほかない。


 まるで人の居るところを避けて発生しているみたいに思えた。


 いつだったか、朝のニュースで専門家が、


「地震は世界中で頻繁に発生し、このような発生類型は前代未聞。予想のしようもない。」


 みたいなことを言っていた。


 被災者がいないことは俺たちにとってはありがたいことだが、どうにも安心できない。


 でも、用心するに越したことはない。


 と、まあなにやらエラそうなことを考えているが、俺は政令指定都市を抱える、しかし、都会とは言えないような地方で警察官として勤務している。


 仕事柄、災害だとか、時事だとかには敏感にならざるを得ない。


 特に最近はこう言ったことが気になる事情があるのだ。


 話は少し遡る。




「どうにかならねぇのか!あのアブラハゲ!!」


 その日、非番の俺は荒れていた。


 いわゆる『交番のおまわりさん』として24時間勤務をする俺にとって、非番というのは、勤務を終え、交代要員に勤務を引き継ぎ、帰署した先の時間のことを言う。


 俺はその日、苛立ちからすぐに署から帰宅する気にはなれなかった。


 そこで俺は人目を避けて、署の入口近くの自販機で甘めの暖かい缶コーヒーを買い、こんな時、必ず1人になれる場所に向かった。


 緊急車両駐車場、俺の憩いの場。


 正確には、駐車場の奥、普段は鍵のかかった古い金属扉に閉ざされた8畳ほどの広さの物置。


 ここは元々パトカー勤務を行う機動警ら係の待機所だったらしい。


 その名残か、物置とはいえ、古いソファーやら、背の低いテーブル、今となっては映ることはないブラウン管のテレビなんかが置かれたままになっている。


 俺が警察学校を卒業し、花海署に配属された最初の一年だけ俺の面倒を見てくれた上司が定年する時、ここの鍵を俺にくれたのだ。


 その上司はかつて、花海署の機動警ら係で勤務していた経験があり、その入口の合鍵を持ったままにしていたらしい。


 最初、鍵を渡そうとする上司に俺は受け取ることを拒否していたが、


 「この仕事しとりゃ、ここが欲しいときが必ず来るのさ。」


 と頑なに言うものだから、とうとう折れ、


 「いらんかったらすぐ返しに行きますからね。」


 と言って一時的に思い出のたくさん詰まったであろう鍵を預かることととしたのだった。


 結局、その上司の定年後、入れ替わりに俺の上司となったアブラハゲのお陰で、この鍵を返却する予定は、今のところ、一切ない。


 俺の勤務する花木交番のある花木町は、風光明媚でおだやかな土地柄で知られ、滅多と事件なんてものは発生しない。


 近所トラブルや、少しの交通事故、あと最近は、、下着泥棒が出たくらいか。


 そのため、花木交番で1日に勤務する警察官は俺を含めて、たった2名のみが割り当てられている。


 そして、俺の唯一の直属の上司であり、唯一の相勤者である巡査部長アブラハゲは、当番日となる昨日、一歩もパトロールに出ることはなく、110番通報による現場臨場についても応じることなく、1日を平穏に花木交番の中でぬくぬくと過ごし、部下である俺にその日の勤務の全てを任せたのだった。


 「巡査部長!一丁目で交通事故です!」


 「前田、ワシ、思うんじゃけど、勉強だと思って1人で現場行かん?

  ワシも行きたいのはヤマヤマなんじゃけども。」


 「巡査部長!パトロールの時間です!」


 「前田、ワシ、風邪ひいたかもしれんわ。

  ほら、油汗がひどーてから。」


 「それはいつもどおりなんで正常です!」


 こんな具合だ。


 前々からアブラハゲのこういった勤務態度は続いていた。


 俺は、課長に掛け合い、アブラハゲに指導を求めることにしたが、課長に上司の指導を願うことは実は初めてではない。


 「課長、巡査部長のことなんですけども…」


 「前田よ、またお前か!?

  お前は上司に噛み付く使いづらい人間だよ。

  アイツの下から変わりたいのか?

  お前を代えると他の誰かが犠牲になるだろうが。

  他人のことはどうでもええんか?」


 などということで、課長からありがたい叱責を皆の前で受けることとなった。


 つーか、俺は犠牲になっていいんかい!


 そんなことから俺の署での評判はなかなか悪く、先輩も、後輩も、どこか俺と関わりにくそうにしているのが伝わってくる。


 非常に寂しい!!


 よって、当番日の出来事を誰にも愚痴ることもできず、勤務交代を終えた俺は、秘密基地で大声で叫ぶことによって積もり積もったものを解消することにしたのだった。


 鍵は閉めたし、入口は1つだけ。


 それに、ここはわりと壁が分厚く、職場でありながらも、完全な俺のプライベートルームとなっていた。


 ここに来ると俺はいつもゆっくり思考を始める。


 別に俺の仕事が増えることはどうでもいいんだよ。


 でもあいつは一体何のために警察官になったんだ。


 困った人を一人でも助けるためにこの道を志したんじゃないのか。


 あぁ、畜生、考えていたらまた腹が立ってきやがった。


 もっぺん叫ぼう、それしかない。


「アブラハゲェェ!!辞めちま「前田クン、ちょっとええかね?」


「エェッ!?」


 入口を見たときにはもう遅かった。


 グレー色の刈りそろえられた髪。

 俺より10cmは高い身長にピンと伸びた背筋。

 にこやかな、でもどこか厳しい目。

 いつ見ても糊の利いた制服を着こなし、ピカピカに磨かれた革靴を履いている。

 俺の勤務する花海警察署、署長、瀬名光彦せな みつひこ警視がニカッと特徴的な笑みを浮かべていた。


「前田まえだ 一はじめ巡査、あー、この巡査とか、堅苦しくてあんまり好きでなくてね、前田クンでええよね?」


 どうしてこうなった!?


 うかつだった、人の気配に気づかなかったなんて。


 というかなんで居るんだ?


 鍵をかけ忘れたのか?


 にしたって人が入ってくるのに気づかないなんておかしくないか?


 「座ってええよね、おお、このソファ懐かし。」


 感動を口にしながら署長は俺の向かいのソファに腰を下ろした。


 「アタシ、昔この部屋使いよったんよね、当時は下っ端だったけん座らせてもらえんかったけども。」


 署長は思い出話を語り始めるが、俺はそれどころではない。


 署長とチョクで話すなんて初めてだ、よりによってその機会が上司の悪口を叫び、それを目撃された今になろうとは。


 あれ、そういえば、署長ったら俺なんかの名前知ってくれてたのね、ちょっと嬉しい。


 いや、どうする、辞表出すか、こちとら課長ごときにアブラハゲのこと相談して署に居づらくなってるんだ。


 署長にこんなん知られたら花海署で生きてけねぇよ。


 いや、でも今辞めるわけには、、


「聞いてる?」


「ハイ、ワタシハマエダクンデス。」


 あ、聞いてた、よかった、よかった。


 なんて言いながら瀬名署長は話を本題へと舵を切る。


 割とのんきな様子でその口から語られたのは、



 『歌姫』の警備計画



 についてだった。

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