3

 紗良と出かけた日にわずかに残っていた木々の葉は、もうほとんど落ちきっていた。

 その日は特に何があるわけでもなく、家で暇を持て余していた。

 ぼんやりと山小屋カフェに行った日のことを思い出しては、カフェのサービスというものにはその場の雰囲気も含まれているのだと考えていた。カフェというものの魅力を感じ始め、紗良のカフェ巡りに付き合うのもいいものかもしれないと思いながら、紗良に何かメールを送ろうとスマートフォンを手に取った。

 そんな時のことだった。

 そう、それは、あまりにも突然だった。

「もしもし、山崎宏輝さんでお間違いないでしょうか」

 登録されていない電話番号からの電話。セールスや詐欺かと思ったが、その場合僕の名前を知っているはずがない。

「はい、山崎ですが」

「大和田総合病院の田中と申します。佐藤紗良さんのお知り合いでいらっしゃいますか」

「はい、そうですが」

「失礼ながらご関係をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 電話から聞こえる若い女の声は冷静を装っていたが、確かな焦りを帯びていた。嫌な予感がする。次の言葉が簡単に予想できる。


「佐藤紗良さんが事故に合われました。どなたとも連絡がとれないため佐藤さんの携帯電話の連絡先にありました山崎さんへ連絡をしたしだいです。つきましては——」


 事故。それも、紗良本人ではなく病院からの連絡。紗良は今、どういう状態なのか。どうしても最悪のケースを想像してしまう。

 電話が終わるよりも早く、僕は車に乗り込んだ。

 


 

「山崎です。紗良は——佐藤紗良は今どういう状態なんでしょうか」

 電話で応対してくれた田中という看護師は、困ったような顔をした。異常に冷え切った頭で緊急の対処に慣れていない新人なのだろうと考えた。

「先生からお話があります」

 部屋に通された僕は、紗良の手術を担当したという医者から詳しく説明を受けた。

 自動車と接触して全身を強打した。臓器の損傷は軽度だったために回復可能だが、脳の新皮質の損傷が激しいため、断定はできないものの高次脳機能障害が残る恐れがある。

 そういう内容だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る