舞踏会へ行きましょう1


 翌日のことだ。日も陰りだし、昼間の暑さが和らぐ頃、アーサガ王国の首都はいつもに増して賑わいを見せていた。お城へと続く道では、様々な屋台がきらびやかな装飾品を並べ、色とりどりの花が街を飾り付けている。お城へ向かう人々はみんな美しく着飾り、表情もにこやかな人ばかり。今日はこのアーサガ王国の大事なお祭り、「開花祭」なのだ。

そんな中、二人の青年と一人の少女が、緊張した面持ちでお城に向かって歩いていた。

「大丈夫だべかな、これでオラたちだってバレねーだべかな?」

 いつもならボサボサの赤髪を、無理やり後ろに縛り上げ、形を整えた風の髪型の青年が髪を気にしながら呟く。するとそれを隣で聞いていた青髪の青年が苦笑して答えた。

「まあ、正直シンは喋らなければ大丈夫かな。まさかこんな改まった格好しているなんて、僕だって想像つかないもん」

青髪の青年は、前髪の一部を固めて頭をセットしてある。公式の場にふさわしい髪型だ。二人の服装は、白の襟付き服に黒のベスト、胸にはお互いのイメージカラーとも言える橙と青のハンカチとアサガオの花をそれぞれ差していた。喋り出すといつも通りだが、喋らなければそれなりに顔立ちも整って見える。そんな双子を、通りすがりの女性たちが時折熱い視線を送っている。しかし残念ながらまだまだお子様の二人は、それに気がつくはずもなかった。

「ふふ、でも二人ともなかなかに服も決まって、カッコよくなったじゃない」

そう言って二人のすぐ隣を歩く黒髪の少女が微笑んだ。こちらはいつもなら腰にまで届くような長い髪を結い上げ、大きい白い花のような帽子をかぶっている。少しうつむけばすぐに顔が隠れ、彼女の整った顔立ちの半分は、それだけで隠すことができた。帽子に合わせた白っぽいワンピースは、やはりアサガオをひっくり返したようなふんわり加減、まるで花の妖精のような美しさだ。

「そーだべか?」

「リタさんに言われると照れるなぁ」

などと双子は照れるようにお互い笑い合う。三人の衣装は、いずれも薬屋のお姉さんが調達したものだ。

昨日の夕方にトケイソウの薬を飲んだ双子は、そのまま変装用、つまり舞踏会の衣装合わせをされていた。大きさが大丈夫であることを確認し、その日の夜にはまたいつもの子供姿に戻ったのだが……今日再びあの苦い薬を飲む羽目となったのだ。

「でも、あの薬の効果は数時間しか持たないって、薬屋のお姉さん言ってたよ。さっき飲んだばかりとはいえ、舞踏会の最中に切れたりしないかな?」

コソコソと心配そうにシンジが問えば、兄のシンはあっけらかんとしたものだ。

「舞踏会って言ったって、どーせオラ踊れねーだ。さっさと会場抜け出して、うーたん救出と行くだべさ」

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