第2話:ボランティア部
コンコルド・シティ唯一の高等学校の片隅で、一人の少女が熱弁をふるっていた。
「この学園は設立して日が浅く、今年も驚異のボーダーフリー。誰でも入れるおバカ学校としてこの都市唯一の高等学校の看板を掲げております。そんな学園において驚天動地、ぶっちぎり最下位の期末テストを終え、臨時の職員会議を経て見事二年生に進級なされたひふみさんに拍手。来年はないそうです。わー」
とてつもなく抑揚のない声で毒を吐く高校には似つかわしくない少女。その周囲にはデカいヘッドフォンを装着し、プラモデルを作りながら音楽を聴く巨躯の女と、机に突っ伏しながらふて寝する一二三の姿があった。
「ひふみさん。今年の新入部員は?」
「いるなら黒木先生が連れてくるよ。おいらもう疲れたよ」
「後輩が出来るの楽しみです」
「ひすいちゃんにとっては後輩じゃないけどね」
「些末なことです。そんなことだから落第しかけたのです。わたしが勉強を教えてあげると言ったのに断るからそうなるのです」
「俺にもプライドがあるからね。妹分に教えを乞うわけには」
「そのみみっちいプライドは即座に捨てるべきだと断言します」
「辛辣だなぁ」
彼女の名前は羽佐間翡翠。年齢は十歳。つまり高校生ではない。とある事情で一二三と同じ姓を名乗っているが血の繋がりもない。ないない尽くしである。
翡翠色の眼がチャームポイントだと本人は述べている。
「おい、うるせぇぞ、集中できねえ。今からエアブラシ使ってもいいか?」
「この密閉された空間で使っていいと思う?」
「休日勝手に使ってるけどな」
「うわーお。それで俺この前黒木先生に怒られたんだけど。犯人はお前だったか、筋肉ウーマンめ。ゴリラのくせにちまちました趣味ばかりしくさって」
「殺すぞ根暗フード」
「やらいでか」
一二三と睨み合っている巨躯の女は轟乙女。十六歳でれっきとした女子高生である。相反する名前が衝突し怪物が生まれたとは一二三の弁。身長は百八十センチを超え、いまだ衰えることなく伸び続けている。
本人的には十二分過ぎるので止まって欲しいそうな。
「お二人とも喧嘩はやめてください。この美少女に免じて」
「「…………」」
「真顔で見つめないでください。ポップガールジョークです」
学校の片隅、そんなちぐはぐな彼らが所属する部活こそ――
「おーい、新入部員連れてきたぞ」
「とうとうわたしも後輩持ちですか」
「興味ねー」
相反する反応を見せる翡翠と乙女。しかし、両者とも黒木先生の背後にいる人物を見ようとしている辺り、内心は額面通りではないのだろう。
一二三はくすりと微笑み黒木先生の背後に向かって――
「ようこそボランティア部、へ」
自分たちの所属する部活の名を告げた。告げている途中で、言葉が詰まる。
「は、はい。よろしく、お願い、します」
現れたのはオドロドロしい雰囲気の少女。黒木先生に負けず劣らずの猫背、目は昆布のような髪に覆われ何も見えない。あちらからも見えないんじゃないか、と一二三らは思う。とにかく暗い雰囲気であった。
「ボランティア部の活動内容は伝えてある。優秀な人材だ。上手く使え。羽佐間ァ、同じクラスだから仲良くしろ。世話は任せた」
「え、こんな子いましたか!?」
「不登校だ馬鹿野郎」
「……胸張って言わないでくださいよ」
「よろしく、羽佐間君、ふひ」
「ふ、ひ? よ、よろしく、副部長の羽佐間一二三です」
「うん、し、知ってる」
「知って、る!?」
「じ、冗談。あの、わ、わたし、その、少し、暗いけど、が、頑張って役に立つから、よ、よろしくお願いします。あと、握手してください」
「な、なぜ?」
「だ、ダメ?」
「い、いや、別に減るもんじゃないしいいけど」
あまりにも不気味な少女の登場に一二三らは絶句していた。唯一、先んじて情報を仕入れていたのだろう翡翠だけはそれほど驚きはない。いや、彼女に関してはそもそも他者を不気味に思えるほど成熟していない、という所か。
謎の握手に応じる一二三。それをどう掴むか戸惑いながら、恭しく握りしめ、一瞬、ほんのわずかであったが髪の隙間から垣間見えた表情は――
「…………」
「あ、ありがとう、ございます。くひ」
幸せそうに破顔する年相応の少女がそこにいた、気がした。
だが――
「手ぇ、二度と、洗わない」
「ひえ!?」
一瞬でそんな感想は吹き飛んで、この次元から消え失せる。
謎の新入部員登場によりどうなる、ボランティア部。
ちなみに活動内容はボランティア活動、そのまんまである。春休みヘルマ君が手伝ってくれたのも募金活動であった。まあそれは表向きの活動であるが。
〇
私の名前は蛇ノ目式。十六歳の高校二年生。
極々普通の女子高生。不登校だけど。
そんな私の趣味は人間観察。ちょっとだけ電子機器類が得意な女子高生だから、ついつい色んな場所にカメラや盗聴器を仕掛けちゃうの。
昔はよく陰口とか録音して学校掲示板に投げて炎上させてたけど、今はそんな子供っぽいつまらないことはしない。せっかくお父様たちを説得してこの学園に入ったんだもの。時間は有意義に使わなくちゃ。
ね、ひふみ君。
『さあ、ひすいちゃん。ごはんだよー』
『また野菜炒めですか』
『……ごめんなさい』
『今度からわたしも手伝います。料理は科学と偉い人が言っておりました。ならば、わたしにできないはずはありません。わたし、天才ですから』
『だ、ダメだって。刃物は危ないんだぞ』
『……子ども扱いしないでください』
『あっはっは、まだまだひすいちゃんは子供だよ』
ゲシゲシとひふみ君を蹴っている音が聞こえる。家族の団欒、音だけで私は幸せになれる。まるで今、私もその中にいるような感覚に浸れるから。
羽佐間翡翠。簡単に調べた程度では一切の情報が出てこない。情報化社会において表側の人間が足跡を残さないのは不可能に近い。自分だけでなく他者の口にも戸を立てねばならないから。ゆえに彼女は普通じゃない。
男子高校生と女子小学生、いや、小学校に通っている形跡がないため、厳密には女子小学生相当の女の子、と呼ぶべきかな。
何故一緒に暮らしているのか、何故羽佐間姓を名乗っているのか、家族なんだから隠し事はなくしていきたい。せっかく、一緒にいるんだから、ね。
「……あれ、ひすいちゃんを調べていたら、何かに逆探知された、かな? くひ、そんなに秘密にされたら暴きたくなっちゃうけど、今の機材じゃちょっと厳しいかも」
ボランティア部のメンバーは副部長の羽佐間一二三君を除いて全員が詳細不明だった。部の活動内容はある程度教えてもらったし、突き抜けた人材が欲しいのはわかる。私も、自慢じゃないけど変わった家柄だし、経歴はもっと変わってる。
だからよく虐められた。こっちでも、あっちでも。
他の子が私と同じ変わり者なのはわかった。遠隔で調べられる範囲に彼女たちの足跡はおそらく見出せない。だからこそ一つだけ、何故、と思うことがある。
「なんで、この中にひふみ君がいるんだろう?」
私はひふみ君を知っている。あっちは知らないだろうけど、私はずっと、ずっと、ずぅっと、昔からひふみ君を見てきたから。
だから、ありえない。
後天的にゾンビになった。それはあり得る。悲劇だけれど、この世界ではよくある話。特に昨今は怪異のカミングアウトが世界的に流行っているから、件数も爆発的に増えている。その中の一つと思えば、悲しいけれどおかしな話じゃない。
「それに、ゾンビでも、私は、くひ、全然、問題ないから、ね」
でも、ボランティア部の在り様を聞いて、軽くその裏側に触れただけでも、普通の経歴である彼がゾンビになった程度で必要とされる組織とは思えない。
ましてや副部長。部長がかの有名な退魔師一族、阿僧祇刹那であり、彼女が不在である以上、おそらくは副部長がまとめ役になる。
「……くひ」
それはあり得ないと私は思った。でも、実際はそうなっている。
だから私は趣味と実益を兼ねて彼の隅々まで調べ尽くす。ひふみ君のことで私が知らない事実があることが許せないから。
本当にあの留学は最悪だった。学校も最悪だったけど、何よりもひふみ君から目を離さなきゃいけないのが苦痛で仕方がなかった。
でも大丈夫。今日からはずっと一緒だから。
『おやすみ、ひすいちゃん』
『おやすみなさい、ひふみさん』
「おやすみなさい、ひふみ君」
私はきっといつになく幸せな笑みを浮かべているだろう。
この環境が、あの人が隣にいる気がして、もう、幸せ、って感じ。
手の臭いを嗅いでひふみ君を感じる。幸せで胸がはちきれそうになる。
「私、今、生きてる!」
音声を別音源に切り替え、ひふみ君の寝息を聞いて私も寝る。
目を瞑ればほら、隣にはひふみ君の寝顔が。
邪悪な笑みを浮かべながら蛇ノ目式はすやすや眠りについた。
彼女のやっていることは犯罪である。だが、バレねば犯罪ではない、何事も。
隠滅は完璧。ゆえに彼女の歪んだ愛を法律で縛ることはできそうにない。
羽佐間一二三がこの事実を知る日が来るのか、そうなってしまうと彼女がどういう行動に出るのか、考えるだけで怖気が走る。
願わくば何事もないように――
〇
異種族が集う学校ならではであるが、少しカリキュラムが特殊に作られていた。
まず体育は基本的に身体能力が近しい種族同士で行われる。
加えて――
「一二三のやつ、また体育をさぼってんぞ」
「馬鹿。ゾンビだからいいんだよ。活発に動くともげるらしいぞ」
「マジ?」
「噂だけどな。あと直射日光がきついらしい」
「なるほどな。だからいつでもパーカーでフード被ってんのか」
このように種族によってはいくつかの特例を認められることもある。公的機関によりゾンビと認められた一二三は体育の免除及び制服の改造を認められていた。
そのような生徒は他にいくらでもいる。尻尾のある生徒はズボン及びスカートに穴をあけることを許可されていたり、そもそも二足歩行ではない種はそれに応じた服装も認められていた。異種族が集う学校ならでは、であろう。
とはいえ異種族自体、日本でも最高の異種族率を誇るこの学校であっても全体の三割にも満たないので、マジョリティである人の理解はなかなか追いついていないのも現状であった。全員が校則を把握している学校など巷にないのと同じ理由である。
「俺、あいつラッパーになりたいのかと思ってたわ」
「まあ当たらずしも遠からずだな。あいつ、頭はパーだから」
「学年最下位だったとよ」
「信じられねえ馬鹿じゃねえか。うちボーダーフリーだぞ!?」
凄まじい勢いで悪口が飛び交っているものの、当の本人は木陰ですやすや寝ていた。困った顔のクロス先生だが女子に囲まれ身動きが取れず、代わりに――
「いい度胸だな、羽佐間ァ」
「すやぁ」
体育は免除されているが、残念ながらその時間寝ていいルールは存在しない。
「クロス先生、この馬鹿狩りますよ」
「不穏な漢字があてられた気がしましたけど、黒木先生お願いします」
モテモテ教師クロス先生の羨ましい囲いを見て、男子生徒たちは種族問わず血の涙を流していた。平然としている男子はヘルマ君だけである。
まあ、彼を男子とカテゴライズすべきかどうかの議論はあるが。
「おい羽佐間」
「むにゃ、なんですか?」
「調査依頼だ。とある異種族の女生徒が行方知れずでな。お前のバックに確認を取ってもらいたい。異種族、怪異絡みか、それとも人絡みか、を」
「……わかりました」
ずるずると引き摺られていた一二三がゆらりと立ち上がる。
そしてずいと手を差し出した。
「何の手だ?」
「お金ください。お土産が必要なので」
「なあ、ボランティア部副部長よ。俺が今月金欠なのは知ってるだろう?」
「毎月ですよね?」
「恵まれない教師から集るのはよくない。集るなら金持ちそうなクロス先生に集りなさい。いいね? 先生との約束だよ」
いい先生風の雰囲気を醸し出しているが普通にクズである。
「トマトジュース代くらい出せよオイ!」
「今日は勝負の日なんだ! このままふけてもいいから後は頼む!」
「こんの、パチンカスがァ!」
そこそこの給料をもらっているはずの黒木が何故毎月金欠なのか、その理由は彼のギャンブル癖に他ならない。しかも勝負弱いので尚更どうしようもない。
ちなみに付き合いで初めて打ったクロス先生は大当たりを連発。隣の黒木は先輩なのに夜ご飯をごちそうになったらしい。
「黒木先生、そんなに急いでどうしたんですか?」
「あっはっは、どーも根本先生。ちょっと追っ手を撒いておりまして」
「は、はあ」
「では失敬」
廊下で偶然すれ違った同僚の先生をも煙に巻き、本日の勝負に向けて心躍る黒木。
まさにクズ界の帝王である。
〇
メガフロート都市、コンコルド・シティの一角に小さな公園があった。
こんな所に公園があったのか、と思うようなビル群の合間にぽつりと浮かぶ場末の公園。そこには今、女子小学生によって黒山の人だかりが形成されていた。
「……相変わらずだなぁ」
しみじみとつぶやくのは羽佐間一二三。買い物袋を片手に学校をさぼってこの公園に訪れていた。お目当ては人だかりの中心部。
「おや、義兄さんじゃないか、こんな早い時間にどうしたんだい?」
彼女たちと同世代と思しき少年が人だかりの中から現れた。絹のように美しい白髪をぱっつんヘアーにして、丈の長い黒のジャケットに半ズボンを併せるという何とも珍妙なスタイルであるが、女子小学生には絶賛の嵐のようであった。
「もうお昼過ぎですよ」
「僕には早いよ。義兄さんにとっても早いんじゃない? 駄目だぜ、寝不足は健康に悪い。じゃ、女の子たち、解散」
「えー」
「お願い。今度埋め合わせするからさ」
「はーい」
不承不承といった感じで女の子たちが散っていく。一二三とすれ違う子の中には解散の原因である彼に対し睨みつけたり、つばを吐いたり、呪詛を吐いたりする子もいた。普通に怖いし普通に帰りたくなってしまう。
「で、今日は何の用? 義兄さんは用がないとここに来ないからなぁ。僕は寂しいよ、義理とはいえ兄に邪険にされるなんてさ」
「……からかうのはやめてください、先生」
「ふふ、まあいいや」
先生と呼ばれた白髪の少年は手招きする。
今ではなかなか見られない空き地の土管、その上に腰掛ける一二三と少年。
「まずはこちらを」
一二三が少年に手渡したのはトマトジュースであった。
それを見て少年の眼光が鋭くなる。
「……あれ、前のより安い奴じゃない、これ」
ギクリ、冷や汗を流し始める一二三。この前、服を追加購入して散在してしまったことと黒木の援護なしでは、今月の家計を考えるとこれが限界だった。
「ふーん、あの子と一緒に暮らすようになって、どうにも最近僕に対して扱いが軽くなったよねえ。ショックだなぁ、僕」
「ま、まさか。それしか売ってなかったんですよ」
「本当に?」
一二三を試すような視線に冷や汗がぶわっと噴き出してくる。
「お、お金がなくて、ですね」
「ふーん。ま、いいか。義兄さんで遊び過ぎても義姉さんに怒られそうだしさ。で、どんな用件? どうせ大した話じゃないと思うけど」
「先日、この女の子が行方不明になりまして」
一二三が取り出した紙を一目見て、少年は鼻で笑う。
「ほら、案の定大した話じゃなかった」
「お心当たりが?」
「まあね。その子、もう死んでるよ」
「……そう、ですか」
あっさりと重大事実を語る少年。その軽さを第三者が見ていれば咎めたりするかもしれないが、あいにくここには二人しか存在しない。そして反応すべき方は彼がどういう存在で、どういう反応を示すかなど嫌というほど知っていた。
彼を人の枠に落とし込めようとするのは不可能だと一二三は知っていた。
「残念です」
小さくほほ笑む素朴な少女、写真の中の彼女はもうすでに――
「種族は、ああ、狸交じりだったね。薄くて僕ら側だと思えなかったほどだ。で、この子の遺体の在り処でも知りたいの?」
「それも知りたいですが、最も重要なのはそれをやった者が怪異か人か、その一点です。怪異同士のいさかいか、人と異種族の――」
「わかってるでしょ?」
「……それは」
「この都市は矛盾に満ちているよね。義姉さんの空虚な理想が棘のように刺さったまま。僕ら怪異同士でも、君たち人同士でも分かり合えないのに、陰陽の対極をかき混ぜようとするんだからそりゃあ齟齬も出る」
「百も承知です。その上で、俺は」
「それは義兄さんの願い? それとも義姉さんの願い?」
「その二つは同じものです、先生」
先ほどまでただ気圧されていただけの男が視線を合わせてなお揺らぐ気配を見せない。こと彼女のことになると彼は絶対に譲らない。
それこそ死んですら譲ることはないだろう。
そのために彼は人を捨てたのだから。
「人だ。その子の死体はあちら側の方角にある倉庫街から海に撒かれた。いいね、撒かれたんだ。拾い集める気ならそれなりの根気と覚悟がいる」
「……ありがとうございます、先生」
ぐっとこみ上げるものを飲み込んで、一二三は頭を下げた。
「犯人まで聞かないの?」
「それを問うたら俺はきっと貴方に殺される。貴方は傍観者であり観測者、本来こうしてヒントを聞くのもはばかられる存在です」
「別にいいのに。言ったろ、大した話じゃない。些末なことだ」
「……あとは、たぶん、意地ですかね」
「あっはっは、君はまだまだそっち側だねえ。まあ、好きにするといい。義兄さんの選択であれば僕は何でも楽しめるさ。理想を抱いて沈むか、理想を掲げて昇るか、今後とも楽しませてもらうよ。僕は別にどっちでもいいからね」
少年の表情に一二三は怖気が走る。
どちらでもいい、大したことじゃない、どうでもいい、彼の言葉を額面通りとらえていては命がいくつあっても足りない。この都市に住みつく最もアンタッチャブルな存在であり、誰も手出しができない怪物が彼である。
選択次第、回答次第、容易く殺されてしまうのだ。
「またね、義兄さん」
「ええ、今度は高い方のを持ってきます、先生」
実際に数度、突拍子もなしに殺されかけている一二三だからこそ知る。
彼の本質は観測者ではなく、暴君であることを。
〇
『――報告通りの場所に彼女の遺体の一部が見つかった。今は他の部位を探索中だ。ダイバーには酷な仕事だが、親御さんの気持ちもあるからな』
「……そうですか」
『お前のコネクションのおかげで一足飛びに彼女が見つかった。これ以上は求め過ぎだ。休むのも仕事の内、割り切れよ、羽佐間』
「……それじゃあ駄目なんだよ」
『おい、何か言ったか、羽佐間? さっきから何かうるさいぞ』
「少し夜風に当たろうと思いまして」
『夜風? お前今どこにいる!?』
「散歩ですよ、ただの。切りますね」
『待て、何のためのボラ――』
羽佐間一二三はコンコルド・シティでも有数の高さを誇る高層ビルの屋上にいた。フードを目深にかぶり、表情を窺い知ることはできない。
「誰もが日の当たる場所で……何故そんな理想に泥を塗る?」
ギリ、歯を食いしばる。口の端から覗く発達した犬歯。
「大丈夫。俺が守るよ、君の夢を」
ポケットに手を突っ込みながら、まるで散歩でも始めるかのように、羽佐間一二三は高層ビルの屋上から飛び降りた。
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