毒物大好き児童
俺の体質についておさらいをしよう。
俺は生まれついての嫌われ者だ。
老若男女問わず、誰も彼もが俺を嫌う。
さらに付き合いの長さも関係無く、初対面であっても16年間同じ村で暮らした人々であっても大差なく嫌ってくる。
一応、長年一緒にいた方が若干情が移るのか、対応はマイルドな気もする。
また、嫌い方は人それぞれだ。
面と向かって罵倒する者、目も合わせずに無視をする者、会話を成立させる気が無い者。
中にはカターさんのように仕事ならばと、ちゃんと公平に接してくれる人もいる。
おそらくこれは「嫌い」と感じた時にとる行動の個人差からきているのだろう。
つまり俺は、他人に「嫌い」という感情を強制的に引き起こさせているのだとも言える。
ちなみに動物にも嫌われる、と付け足しておこう。
もはや呪いの域に達しているこの嫌われ体質の他に、最近ひとつ気になることがある。
俺に対して好意的に接してくれる人についてだ。
最初はデレーだった。
彼女は突然俺の前に現れ、告白してきた。
だいぶ愛が重く暴走しがちで、冗談に聞こえない危ない発言も目立つ。
次がヒトギラ。
依頼で向かった先の村で、仲間になると申し出てくれた。
人間を害虫のごとく生理的に嫌うが、なぜか俺は平気らしい。
数日前に会ったのがバサークだ。
戦闘の末、パーティーに加入すると宣言した。
とにかく強い相手と戦いたいらしい、いわゆる戦闘狂である。
3人ともかなり癖があり、ともすれば倫理や社会に反してしまいそうな部分があるのだ。
ここで俺は小さな疑念を抱いた。
もしかして俺は、ヤバい人に好かれる体質でもあるのではないか?
さもなければ彼らが俺の嫌われ体質をものともしない、強靭な我を持っているとか。
どちらにせよ、結果として俺の周りにはヤバい人しか集まらないということになる。
この疑念を確信に昇格させてきたのが――今、俺の前を意気揚々と歩く男の子、トキだ。
彼もまた、俺を嫌わずパーティーに加入することを希望した。
そして竜人たちを毒の実験の餌食にするとかいう、過去最高にしてぶっちぎりでヤバい人である。
俺は悟った。
ああ、これはもう逃れられない運命なのだと。
いやしかし!
しかしである。
それでも俺はあえて言おう。
嫌われ者の俺に優しくしてくれるのがヤベー奴らしかいないってどういうこと!?
好いてくれる、優しくしてくれるのはありがたい。
非常にありがたいし嬉しいのだけれども。
でもさあ……。
「フウツさんはまだ夕ご飯を食べてないですよね?」
「……うん」
「あれっどうしたんですか、顔色が悪いですよ? 回復魔法でもかけてあげましょうか?」
「天然で言ってる?」
「そんなそんな! わざとに決まってるじゃないですか!」
ある意味バサークよりも手に負えない。
子どもの無邪気な残酷さとか、そういう次元を超えている。
「ああそうだ、さっき『なんで自分を牢から出したのか』って聞いてましたよね。教えてあげましょう」
あまり聞きたくない。
「ひとつは単純に、共犯者に仕立て上げて僕と同行してもらうためです。僕はあくまで子ども……どんなに優れていても身体面では大人に敵いませんし、保護者がいた方が何かと好都合ですから」
「『単純に』とか言いながら人をゴリゴリに利用しないでほしいなあ」
「まあまあ。ふたつめはお礼です。竜人の村は突き止めていたのですが、どうやって侵入するかで困っていたところにあなたが耳よりな情報をくれたので」
耳よりな情報……あれか、『竜人は君になら親切に云々』か!
めちゃくちゃ余計なことを言ってしまった……。
「いやあ、竜人の性格なんて知りませんから助かりましたよ」
「……うん? そういえば君、竜人が実在することはなんで知ってたの?」
「僕ってすごく優秀なんですけど、そうすると特別に王宮に招かれたりもするんですよ。その時にいろいろと調べていたら竜人の戸籍が見つかりました。それで竜人が本当に存在することを知ったというわけです」
「それ駄目なやつでは」
「駄目だったからバレないうちに家を出て来たんです。まあ今ごろ失踪扱いでしょうね」
待て、それじゃあ俺は、児童誘拐の疑いまでかけられる可能性があるんじゃないか?
「第七領地と王都には近付かないことをお勧めします」
「忠告ありがとう、今すぐにでも君を家に帰したい気分だよ」
「帰したら罪という罪をおっ被せますよ。優等生のか弱い子どもとただの冒険者、みんなはどちらの言葉を信用するでしょうね」
「完膚なきまでに逃げ場が無い……」
つくづくとんでもないのに捕まってしまった。
みんなはどうしているだろうか。
竜人の村に乗り込んでやしないだろうか。
悶々と考えながら歩き続け、俺たちは麓の町に着いた。
真夜中だから人が全然いない。
「少し疲れましたね、ここらで休憩しましょう」
トキはどこ吹く風で店の前のベンチに腰掛けた。
俺も足腰に疲労が溜まってきていたので、彼の隣に座る。
「これどこに向かってるの?」
「ひとまずギルドです。それからは宿なりフウツさんの拠点なりに連れて行ってもらえれば。はい、お水をどうぞ」
「あ、ありがとう……。はあ、大丈夫かなあ……」
俺は水を二口ほど飲み、溜め息を吐いた。
「相当目立つことをしない限りは平気ですよ。髪はばっさり切りましたし、あとは女装でもしていれば、聞き込みで居場所がバレることもありません」
「じゃあスカートでも買う?」
「いえ、スカートは煩わしいのでズボンを。女物で一式揃えれば、性別を誤魔化すくらい簡単です。子どもの特権ですね」
「たくましいなあ」
ああ、そういえば。
今夜は野宿になりそうだから、適当な場所を見つけなければ。
俺は立ち上がろうとして、しかし唐突に平衡感覚を失い無様にもその場に倒れ込んだ。
慌てて起き上がろうとするが手足に力が入らない。
目の奥がぐるぐるする。
急な体調不良に混乱している俺の目の前に、トキがベンチから降りてしゃがみ込んだ。
……まさか。
「い、今の……水に……毒入れ、た……?」
「えへへ、つい」
つい、じゃないよ!
叫ぼうにも息が上手く吸えない。
何してくれてんだ。
「具合はどうですか? できれば報告してもらいたいです」
「…………ぁ……」
「うんうん、呼吸が正常にできないせいで、声が出ていませんね! 良かった!」
何が!
どう!
良いんだよ!!
頭がぎゅーっとなってきた。
く、苦しい!
死ぬ……!
冗談じゃない、なんで気まぐれで毒盛られて殺されかけてるんだ俺は。
こんな理不尽に俺は、おれ、は…………。
――俺は荒野に立っていた。
仲間も一緒にいた。
つらいけれど、みんながいるから平気だった。
きっと俺は幸せ者だ。
さあ、次はどこへ行こうか。
俺はみんなの方を振り向く。
誰も、いなかった。
俺は怒り、嘆き、うずくまって動けなくなった。
ふと一冊のノートを見つける。
これがあればなんとかなる気がした。
ノートを手に取り、俺は再び立ち上がった。
「はっ!?」
ガバリと俺は起き上がる。
どうやら気絶していたようだった。
「お疲れ様です。どうでした?」
「どうもこうもないよ! 死ぬかと思った!」
「あはは! すごいでしょう、僕の自作の毒ですよ。死ぬほど苦しい症状が出ますが、解毒剤が無くとも一定時間で自然と回復する優れものです」
「用途は?」
「拷問ですかね」
「…………」
親御さんが聞いたらひっくり返るだろうな……。
「毒の実験がしたいなら、せめてちゃんと事前に言って」
「えっ良いんですか!?」
「良く……は無いけど! 死なないやつなら、まあ」
「あの、僕が言うのもなんですけど頭おかしいんですか?」
「おかしくない。断じておかしくない。あれだからね、絶対に俺以外の人で実験しちゃ駄目だからね」
はあい、とトキはわかったのかわからないのか曖昧な返事をする。
やれやれ、この先いったいどうなることやら。
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