処罰
「……捕まったね」
「捕まりましたわね」
「…………」
見つかってすぐ威勢よく逃げ出そうとしたのだが、さすがは騎士団、統率のとれた動きで俺たちは追い詰められてしまった。
さらに不意をつかれて騎士の1人に羽交い絞めにされたヒトギラが卒倒したため、彼を引きずっての逃走は無理だと抵抗するのを諦めて今に至る。
留置場の(壊れていない)牢で椅子に縛られてしまい、今度こそ逃げようが無い。
意気消沈しうなだれていると、牢の前に騎士が2人やってきた。
片方は若く、もう片方もそこそこ若いがそちらは威厳に満ちた雰囲気を醸している。
「やい凶悪犯共、これより小隊長が直々にお前らを尋問してくださる。観念するんだな」
「無駄な発言は控えろ」
「す、すみません」
小隊長と呼ばれた人が若い騎士を諫め、牢の前で仁王立ちをして俺たちを見据える。
「私は王国騎士団第四部隊所属、第一小隊隊長のカターだ。これより嘘偽り無く質問に答えよ」
「っはい」
鋭い眼光に思わず背筋が伸びた。
怖そうな人だが厳格な感じもあるし、もしかしたら話を聞いてくれるかもしれない。
「では最初の質問だ。貴様らはなぜ村を襲おうとした?」
「それは――」
俺は質問に従って、これまでのいきさつを説明した。
俺たちは依頼を受けて村にやってきたこと。勝負のことや、魔物が万一降りて来た時のために俺は村で護衛をしていたこと。
そしたら意味不明な言いがかりを付けられて拘束され、騎士団まで呼ばれたが村人は彼らに虚偽の訴えをしたこと。騎士たちに連行されて、誤解だと伝えようとするも聞いてもらえなかったこと。
「で、2人が助けに来てくれたんです」
「ふむ……。では留置場に乗り込んで暴れ、さらに壁を壊したのは?」
「村人の妄言を信じるような人たちとなんて、話が通じるわけがない、と思ったからですわ。まだその時は、村人が嘘でフウツさんを連行させたことは知らなかったんですの」
「なるほど、貴様らの言い分はわかった」
カターさんは深く溜め息を吐く。
「この青髪を連行してきた者を呼べ。貴様はもう下がって良い」
「はい!」
若い騎士が慌てて去り、代わりに俺をここまで連れて来た騎士たちが顔面蒼白でやってきた。
「なぜ呼ばれたか、わかるな?」
「は……はい」
怒りを滲ませるカターさんに、騎士たちはガタガタ震えながら返事をする。
「貴様らは村人の言うことを鵜呑みにし、ろくに被害状況も証拠も確認しないままこの少年を連行した。そのうえ少年の主張を無視した。何か間違いはあるか?」
「あ、ありません」
「で……でも! 街まで呼びに来た村人は『少年は気が触れていて、とても会話のできる状態ではない』と言っておりまして……」
「だから確認を怠っても許されるべきだと?」
「い、いえ……」
反論も容赦なく叩き潰され、すでに騎士は蚊の鳴くような声だ。
「貴様らがやったのは騎士団の威信を著しく貶める行為だ。後ほど然るべき処罰を科す。わかったら下がれ」
「はい……」
しょげ返った騎士たちが去ると、カターさんは俺たちに向き直り、頭を下げた。
「私の部下が公平さに欠ける行動をし、貴様らに迷惑をかけたこと、実に申し訳なかった。彼らにはこちらから厳しく指導しておく」
「い、いえいえ! 半分俺の体質のせいみたいなところもあるし、そう気にしないでください」
「体質?」
カターさんは頭を上げ、訝しげな顔をする。
「なんか俺、人から無条件で嫌われるんです。あ、この2人はなぜか例外なんですけど、それ以外の人は全員……。カターさんもこう、俺に対して不快感とかないですか?」
「む……。恥ずかしい話だが……ある、な。すまない。特にどこがというわけでもないのだが、漠然とした嫌悪感が拭えない」
「たぶんそれです。本来なら優しい人でも刺々しくなっちゃうくらいなので、あの人たちが俺に冷たかったのもある意味仕方がないんですよ」
「いや。それでも仕事に私情を持ち込んではならん。まして私たちは騎士だ。常に、誰に対しても公平でなければならない」
そうか。
カターさんが俺を嫌いながらも話をしてくれるのは、彼の「公平に接する」という意志が強いからなんだ。
今までも、仕事はちゃんとしてくれる人はいたけれど、ここまで他の人との対応に差が無いのは初めてだ。
きっと自他共に厳しい人なのだろう。
「村人の訴えについては一応調査をするが、貴様の主張とあいつらの態度からして十中八九無罪だ。一方で、そこ2人の留置場破壊行為および3人揃って逃走した件についてだが」
……やっぱそこは責められるよね。
罰金とか言われたらどうしよう、絶対お金足りない。
でもあれだけ派手に壊したら、数年牢に入れられるか多額の罰金かのどちらかだろう。
「冤罪のことも踏まえて処罰の如何を調整するから、それまでは近くの宿で待機してもらおう」
「はい……」
「そう落ち込むな。この件は騎士団、村人、貴様らと全員に非がある。それほど重い罪にはならんはずだ」
俺たちは縄をほどいてもらい、留置場を後にした。
それにしても今後のことを考えると気が重い……。
「フウツさん」
「ん、なに?」
デレーに話しかけられて顔を上げる。
そこで自分がうつむいていたことに初めて気付いた。
いけない、あんまり暗くしてるといらぬ心配をかけてしまう。
俺はできるだけ明るく返事をした。
「初耳なんですけれど」
「?」
「体質の話。私、存じておりませんでしたわ」
「ああ、別に聞かれなかったから」
俺がそう言うと、デレーは肩を震わせ手で顔を覆った。
「……許せませんわ」
ぽつりと呟かれた言葉に、俺はハッとした。
そうだ、俺が最初から体質のことを言っておけば、こんな事態は防げたかもしれなかったんだ。
「ご、ごめん。ちゃんと言っておくべきだっ――」
「私の愚か者!」
「え?」
「何も! 何もわかっていませんでしたわ! フウツさんとお近づきになって、身長体重手足の大きさスリーサイズを測れたからと慢心して……!」
そんなことしてたの!?
いつの間に!?
「確かに麗しい肉体を調べつくすことには成功しましたわ。けれどそればかりに夢中になって、内面の追究がおろそかになっておりました」
俺どこまで調べられたんだろう……。
「私こそがフウツさんを最も理解する者だと驕り、歩みを止めるなど言語道断! 自分が許せませんわ!」
どう反応すればいいかわからず、ヒトギラに助けを求めるように視線を送ると静かに首を横に振られた。
「まあそれはそうと、フウツさんがそのような体質であること自体はありがたいですわ。敵がグッと減りますもの」
「そ、そう……。よかったね……」
「もちろん、これからも私がフウツさんを世の不届き者から守りますのでご安心くださいまし」
自責の末になぜかやる気を出すデレー、終始無言のヒトギラ、ひたすら反応に困る俺。
取っ散らかったなんとも言えない空気のまま俺たちは宿に到着し、ギルドに(半分存在を忘れていた)依頼達成証明書を提出するなどしてのその日を終えた。
翌朝。
宿の主人からカターさんから呼び出しがあったと伝えられ、俺たちは再び留置場へ向かった。
「わかっているとは思うが昨日の件だ。貴様らへの処罰が決定した」
俺はごくりと喉を鳴らし、断頭台に立たされた気分で次の言葉を待つ。
するとカターさんは思いもよらぬ台詞を放った。
「貴様らには、数日後に決行される討伐任務に参加してもらう」
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