頂きの君と至らない僕
@niboshi_love
第1話 刃無しの僕と話たい君
グローレア国立、メガロス・ポレミスティス騎士養成学校。
”世界を救う英雄を生み出す”を第一目標にして国が設立した機関であるこの”メガロス校”は、
一般的な教養だけでなく、武術、魔術、剣術など、様々な”戦うための力”を育む学校である。
つまるところ、そこに集う者達は戦士の卵であり、いずれ魔族と戦う定めを自ら選んだ者達ということになるのだ。
「…そろそろ行くかぁ…。」
ベッドから起き上がり、水道で顔を洗い、歯を磨き、軽く頭に水を掛けて寝癖を直す。
寮から出て、学校への通学道へと一歩踏む。
「ふぁぁ…。」
俺、ユーマ・コンフローティアは、このメガロス校の高等部二年所属の騎士候補生である。
元は田舎の小さな村生まれだった俺だけど、幼い頃からのとある願いを叶えるためにこのグローレア国にやってきて、メガロス校へと通っている。
しかし…。
「おい、刃無しが来たぜ」
「今日もレプリカの鞘持って惨めねぇ、くすくす」
……俺は、致命的な問題を二つ抱えている。
このメガロス校では、剣術や魔術を修学する際に専用の剣か杖が必要になる。
それらは基本的に入校の際に学校側から与えられる物なのだが、
修学前より所持している物がある場合、それを使用することもまた認められているのだ。
俺もまた、その一人で、
腰にぶら下げているこのやたらかっこいい剣…名前はわからないけど、聖剣っぽいこれを持って、この学校へと入学した。
「どんなつもりでこの学校に入ったんだよ!このペテン師が!」
「言い過ぎでしょ、本当のことだけどぉ〜。」
「オモチャ片手にこの権威ある学校に入るなんて、凄い神経ですなぁ」
……でもこの俺の剣は、鞘から抜けたことがなくて。
幼き日に手に入れたあの時から、一度もその刀身を現した事がないのだ。
このメガロス校において、剣が抜けないというのは非常に大きな問題があり、
実技演習も受けられなければ、地域貢献のための実働演習も受けることができないのである。
「はぁ…。」
…しかし。ただそれだけならばここまで俺が言われる事はなかっただろう。
人間は他人のことなんてほぼどうでもいいと思うのが普通なのだから。
二つ目の問題は、このメガロス校における重大なシステム”序列制度”だった。
序列制度とは、学校に属している生徒の中で”自分が何番目に実力を持つか”を示す指標となる制度だ。
ポイント制となっていて、授業での好成績はもちろん、学園に所属している期間内での社会奉仕なども加算対象となる。
このシステムは、人間に上下をつけることで闘志を震わせ、切磋琢磨させるという名目で生み出されたらしいが、
しかし実情、上から下への差別を助長するだけのクソ制度になっているとしか言いようがない。
俺のような剣の抜けない雑魚は、全学園生徒中最低辺の序列を当たり前に記録しており、
この学園にいるほぼ全ての制度から見下されてしまっているのだ。
「……。」
下駄箱につけば、良くて靴には画鋲、悪い日はそもそも靴が無かったり。
教室に行けば俺の席は不良生徒の足置き場にされていたり。
教師達も、表向きには何も言ってはこないけれど、何となくだが俺に期待などしていない事が分かってしまう…など。
剣が抜けないことと、序列制度のせいで俺の学園生活は最悪な様相を示してしまっている。
「別に、いいけど。」
席につき、机に肘をついて、そう小さくつぶやく。
そうだ、別にいいのだ。
俺は英雄になりたくてこの学校に来たのではないのだから。
……ただ俺は、この剣の謎を解くために––––。
『朝から敷けた面してるわね…朝ごはん、ちゃんと食べたの?』
後ろから掛かる声。
教室に声援とざわめきが走る。
「……やめたほうがいいよ、俺に声掛けると雑魚が移るから。」
『卑屈なこと言わないの。…あ。ほら、これ食べなさい。』
そう言って、俺の机に携帯食料を置く女。
別に俺は飯を食ってる食ってないは関係なくずっとこのテンションなんだけど…。
『それと、全員静かに。もう先生が来るわよ。』
その女の凛とした声が響くと、教室が静まり返る。
誰一人、その女に逆らおうとは思わない、つまるところの絶対の実力者。
『…あ、先生にバレないように、こっそり食べるのよ?約束ね。』
そう俺に耳打ちをして、自分の席へと戻る。
底辺な俺に、唯一やたらと親切にしてくれる、この生徒。
「……どうも。」
”ステレリア・ライトハート”
この学園…いや、この国が誇る。
序列一位の––––”最強の魔術師候補生”だ。
頂きの君と至らない僕 @niboshi_love
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