頭に湧き上がって見えるもの

昨日の夕方、澄香からもらった絵をその日の夜はずっと眺めていた。澄香が描いたキャラはヒロイン的な位置にいるキャラなのだ。澄香はなぜ、俺の作風に合ったキャラを描けるのか?そのことが気になって夜も寝れなかったのだ。しかしそれが功をなしたのか、このキャラに関する話をいくつか書くことができた。

ピロン

携帯がなった。これはメッセージを受信した時の音だ。スマホを覗くと澄香から

「ねー、続き書けた?」

と聞いてきた。

「おかげさまで、あれに関する話をいくつか書くことができたよ。」

「へー、だったら読みに行くから、えーと今どこにいるの?」

「今?家にいる。」

「なら家行くから住所教えてよ。」

「家くるって、携帯越しじゃダメなのか?」

「そんなの読んだ気になんない。実際に見ないと。」

昨日も思ったがなんて強引なやつなんだ。幸い今日は特にやることがないので

「京都市〇〇区□□町の12ー34にあるマンションの8階、エレベーターを出て突き当たりを左に、一番奥の部屋、864号室迷うなよ。」

「りょうかーい、すぐいきまーす。」


十五分後

ピンポーン

インターホンが鳴った。

エントランスに着いたようだ。

「開けたよ。」

「はーい。」

少ししてもう一度ピンポーンと今度は部屋のインターホンが鳴る。

ガチャ

扉を開けると澄香が立っていた。薄い水色をベースとしたワンピースで少し小洒落たカバンと靴を履いていた。

「お邪魔しまーす!」

スタスタと部屋に入っていく。人も気を知らないでと言う感じだ。

「リビング入ってすぐ右の扉の向こうが俺の部屋だから、適当に座って待っといてくれ。」

「りょーかーい。そういえば、あんたの親はどこにいるの?」

「二人とも海外で仕事。帰ってくるのは年末ぐらい。」

「へー」

澄香を自分の部屋に案内して、飲み物とおやつを用意して部屋に向かう。

「お待たせって、勝手に人の部屋漁るなよ!」

「いいじゃーんそんぐらい、それより続き見せてよ。」

「よくねーよ、はいこれ。」

「それじゃあ、拝見いたします。」


三十分ぐらいで澄香は読み終えた。

「それで感想は?」

「そうだね、昨日見たこの子の話よりは、この子を立てられてるかな。といっても意味不明だったこの子が少しわかりやすくなったぐらいだけどね。」

「そうか、結構うまく書けたつもりだったんだけどな。」

「どうやってこの子の話を書いたの?」

「どうやってって、昨日くれた絵をずっと見てたら、話が沸いてきたのをそのまま書いた。」

「話が沸いたって、それ映像?それとも文章?」

「映像だよ。」

「ならで原因はそれだね。」

と立ち上がって探偵のように指を挿してきた。

「それって言うのは?」

「えーっと、映像で沸いてきたというのは、アニメのようにセリフがあって、表情があって、背景やその場の雰囲気が一目で見えるということ。」

「つまり、見たものは自分は理解しているんだけど、そのせいで情景や表情なんかを言葉として書いていないんだよ。だから、セリフだけの登場人物でどう言うキャラなのかいまいちわからないんだよ。」

「成る程!たしかに、セリフとこう考えた、思ったしか書いてなかってもんな。」

「そう、だから次は映像で沸いてきたものをメモ帳かなんかに見た物を書けるだけ書いてみよう。いくつかの場面ごとに分けて。」

「おっけーありがとう澄香!やってみるよ。」

あっ、ついノリで呼び捨てにしてしまった。

「今なんて?私あんたに名前教えたっけ?」

「いや、連絡先に加藤澄香ってあるから。それとも、読み方違った?」

名前を言い間違えていたのならすぐに謝らなければならない。

「連絡先って、ほんとだ!えーっと加賀清澄読み合ってる?」

「うんあってるよ。」

「なーんだ、こんなところに書いてあったのか。いいよ、澄香のままで、私も清澄って呼ぶからさ!」

なんとあって二日の女子の名前呼びを許されたのだ。

それからは澄香といろんな話をした。ついでに、新しい絵も貰った。なんでこんなに小説に詳しいのとか、普通に好きな作品は何?とか。なんでも澄香のお父さんは俺でも知ってるような超大物作家の加賀速人だったのだ。俺が小説を書き始めた理由が早人さんの作品を見たのが理由なので、世界は意外と狭いのだと実感した。お父さんのことは学校の友達にはあんまり言ってないようで、幼稚園から一緒にいる二人の友人にしか教えてないようだ。

そして時刻ももう六時を過ぎようとしていた。

「そろそろ時間だし帰るね。」

「おっけー、エントランスまで送っていくよ。」

そこからは何にも無く

「じゃあ、またね。進展はあったら連絡して。」

「うん、それじゃあ。」

夕日を背に澄香は帰っていった。


バカ三兄弟

「お前ら、まだ飯食ってなかったらラーメンでも行かね?」

「いいねぇ、松野も行くだろ?」

「当たり前だろ?」

「おっけー、なら六時半に四条の阪急前で。」

「「りょーかい」」


それから五分で支度して家を出た。最寄駅は阪急大宮駅。自転車を止めて改札を越え、電車を待った。待ってる間に昨日投稿した分のダッシュボードを見ていた。感想には、これまでと同じキャラがわかりにくいだの書かれていたが、チラホラと、ちょっと良くなった?などのコメントもあった。


四条についた。二人はもう、既に着いていたみたいだった。

「お待たせ!」

「大丈夫、俺らも今ついたとこだから。」

「今日どこ行く?」

「松野行きたいとこないの?」

「ならさ、こないだ河原町にできた新しいとこ行ってみようよ!」

「いいね」

「よし、そうと決まればすぐいくぞ。」


河原町の右側、新京極のちょうど反対の道にその店はあった。

「着いたー。」

「えっと、塩ラーメンがメインみたいだね。」

「おーいいじゃねぇか、部活終わりで塩分たりてないんだわ。」

そして店に入り、俺と松野はチャーシューメン、ヨシアキはダブルチャーシューメンの大盛りを頼んだ。

待っている間に松野が俺らに聞いてきた。

「おまえらさ、小説って読んだりするか?」

「まぁぼちぼちかな。」

「活字は読めん。」

「そうなのか、おれさ、最近Webの小説投稿サイトよく見てんだけどさ、これがさ結構いいんだよ。」

松野が見せてきたサイトは俺が投稿しているのと同じ物だった。

「でさーこれ見てくれよ。」

よく見てみるとそれは俺が投稿している小説だった。

「この小説さ、冒頭とかの書き方上手いなーって見てたら登場人物書くの下手すぎて何にも話が入ってこないんだよなー」

多分松野はその投稿者が俺って知らない。知っていたらこんなことは言わないから、しかしだからこそリアルの評価が目の前でされるのは悔しいものがあった。


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