彼女の名前は

キーンコーンカーンコーン

音楽が終わると同時にHRが終わる。今日は一学期最後の登校日で明日からは夏休みである。そのせいかクラスのみんなも少し浮かれているように見える。先生の夏休みだからって羽目を外しすぎるなよにクラスがそろえて返事をする。

「キヨー帰ろうぜー」

「おう、今からゲームセンターなんてどうだ?ヨシアキ。」

「いいねー!松野も誘ってやろうぜ。テスト期間中ずっとゲーセン行きたいって言ってただろ。」

「そうだね。松野ー新京極のゲーセン行くぞ!」

「まじ!?行くー」

彼らは広田義明と松野公平、どっちも小学校からの友人である。ヨシアキはバスケ部で高身長で、おまけに彼女もいる。松野は勉強だりーという割には学年十位以内となかなかの頭をお持ちである。


ゲームセンターと言っても音ゲーやコインゲーム、カードゲームなど沢山ある。いつも僕たちがやるのは格ゲーである。

「オラァー!」

「オラァー!!」

カタカタカタカタ

「ここだぁー!」

「やばっ!」

カタカタカタカタ

「よっしゃぁー!最後の大技が決まるとやっぱ気持ちいいわ!俺さいつよかもな!松野」

「くっそ!ジュース奢りは俺かぁー。またヨシアキにかよ」

「ありがとうございまぁーす!」

僕たちはゲームセンターに来ては総当たりで負けたやつが買ったやつジュース一本奢りという物でやっている。強さはヨシアキ>俺>松野の順である。

「そろそろ帰ろうぜ。もうすぐ七時や、キヨ、松野」

もうすぐ七時らしい。カバンの中のスマホを探していると

「ない、ない」

「どうしたんだよ、何がないんだよ、キヨスミ?」

そうか、学校の引き出しの中だ。あれを見られたら、色々まずい。

「ごめん、二人とも。学校に忘れ物したから取りに帰るから、先帰っといてくれ。じゃあまた。」

「おう、またな」

「ばいばーい」


新京極から阪急で四条に、そこから乗り換えでさらに国際会館まで、時刻は七時半を越えようとしていた。

「はぁはぁ、急げ」

国際会館を上がって直ぐ後ろに学校がある。中高が同じ敷地内にあり意外と広い。僕は二年B組なので二階への階段を上がってすぐに教室がある。夏休み前日なので先生が忘れ物してないか見回りをしていたが、まだあれは見つかっていないようだった。

「よかった、間に合った。」

ガラガラ

扉を開けて自分の机の方に目をやるとそこには人がいて、何かをペラペラとめくっているようだった。少し距離はあるが、おそらく女の子だろう。身長は百六十もないだろ。少し近づいた。髪は茶色っぽい明るめの色をしていた。

「これさ、きみがかいたの?」

ドキッと心臓が鳴った。彼女が見ていたのは俺が書いていた小説だったのだ。まさか、誰かに見られてしまうとは、おまけに相手は女の子恥ずかしさと勝手に見られた怒りで

「そうだけど、何?」

と少し強めに言い返してしまった。

彼女は気にも留めていないのか

「そうなんだ!君、キャラ作り下手だねー」

グサグサと一番悩んでいる所に突っ込んできた。この前あったあるレーベルの賞では一時選考落ちで、評価シートを見るとストーリー構成4、キャラクター構成1、とまたもやキャラクターで評価を落としている。

彼女は続け様に

「いやーさ、忘れ物取りに来たら机の上に紙の束が置いてあるからさー、気になって読んじゃうじゃん?それでさ、ペラペラと読んで話はわかりやすいんだけどさ、周りの風景とかね、でもキャラが意味わかんないのよ。何考えてるとか」

またズコズコと踏み込んできた。

「とりあえず返してくれよ。今日の投稿分なんだよ」

「えーもう帰っちゃうの?あ!そうだ、ねー君キャラクターの上手な描き方教えてあげよっか?」

「何言ってんだ?そんなもん、書いて書いて数こなすしかないだろ。」

「わかってないねー。まっいいから三十分だけそこで待っててよ!」

「三十分だけだぞ。」

彼女はサーっとどっかに行ってサーっと戻ってきた。

「何取りに行ってたんだ?」

「鉛筆と紙ー」

馬鹿にしているのか?と思った。キャラクターの書き方を教えてくれると言ったからここに残ったのに、誰も描き方は聞いていない。

「おい、こっちは描き方じゃなくて、書き方だぞ?おーい。」

何度呼んでも彼女から返事はなかった。サッサッとすごい速さで手を動かしている。十分、二十分とたつにつれてそれは出来上がっていった。

ちょうど三十分経ったとき

「かんせーい、はいできたよ。」

渡されたのはさっきまで彼女書いていた絵だった。

「その絵見ながらキャラデザしてみなよ。きっとうまく行くよ!後これ。」

同時にスマホを出してきた。

「何?」

彼女は呆れたように

連絡先だよ、それ見て出来た小説も見たいし、夏休みでしょ?もっとキャラクターについておしえてあげるからさ?」

と半ば強引に連絡先を交換した。

「それじゃあ、できたら連絡してね!バイバイー」

そして風のように去っていった。そういえば名前聞いてないなと思い、さっき交換した連絡先を見た。

加藤澄香それが彼女の名前だった。




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