第231話 三度目の正直どうしていいかわからない
エルフ族の少年に案内され、魔石の買い取りをしてくれる商人がいる店へと着いた。
店までの道中に彼の名前を聞いたら「オウルでいいよ」と言われた。
本名かどうかわからないけど別にいいかと思ったのでオウルと呼ぶことにした。
お嬢様も特に何も疑うことなくそう呼んでいる。
オウルに案内された店はごくごく至って普通の、特筆すべき点はない道具屋で、ちゃんと魔石を買い取ってくれた。
値段については確証はないけど相場に近いと思われる。
「どうおっさん?僕の言った通り信用できる店だったろ?」
「ああ…まともすぎて逆に不安になるほどだ…この街にまともな店あったのかと…」
何のトラブルもなく取引が終わり店を出る。
店主はエルフ族の青年で言葉遣いもまともで丁寧な対応をしてくれた。
今後はこの店で買い物をすべきだと思う。
「おっさんじゃあほら、約束の金」
「わかってるよ、ええとお嬢様、さっき売った魔石の代金から1割をオウルに払ってもよろしいですか」
「おーっほっほっほっ!構いませんわ!!」
俺はオウルに聖銀貨1枚と銀貨5枚を渡した。
150コルだ、つまり魔石は全部で1500コルになった。
スケルトンとかコウモリの魔石は一つ20から30コルだったのに、地下一階に一匹だけいたスケルトンウォーリアーの魔石は1000コルで買い取ってもらえた。
強いのは高いんだなやっぱ、でも金貨1枚分かぁ、地下1階のボス的なやつだとそんなものなのかなぁ。
苦労に見合った稼ぎかどうかと言われると微妙ではある。
命がけで二日戦って1500コルだからな、まあ俺は別に命の危機はまだ一度もあのダンジョンでは感じてないけどさ。
どちらかというと家にいるほうが命の危機を感じる。
お嬢様の金銭感覚じゃあへとへとになるまで頑張ってこの金額だと納得しないのではないかと思われたがそんなことは全くなかった、納得してめちゃ喜んでいた。
というのもお嬢様にとって金額がどうとかより、自分で物を売ってお金を得たという行為自体に価値があったのだ。
魔石を売りたいとか言い出したのも、金目当てじゃなくてそういう冒険者っぽい行為に憧れていたからやりたかっただけ、知ってた。
「へへ、案内するだけで150コルか、なかなか楽に儲けられたよ」
オウルも受け取った金額に満足なようだ。
ちょっと歩いただけで150コルだからな…
「おっさんたちはこの後まだ何か用事あるの?」
「そろそろおっさんていうのやめてくれない?ヴォルガーって名前教えたんだからさ」
こいつの名前を聞いた時に俺の名前も教えている、なのにいまだおっさん呼ばわり。
「はいはいじゃあお嬢様とヴォルガーはこの後どうされるのですか?これでいいかい?」
「それでいい、でこの後だが…」
「この後は別に用事はありませんわ、家に帰るだけ…あ、いい事思いつきましたわ!オウルは何かとこの街に詳しいようなので召使いとして雇うことにします!さあ共に家に行くのですわ!」
俺の発言をさえぎってお嬢様に言われた。
その唐突な内容に激震が走る、俺の中でだけ。
あのそれ俺をクビにしてオウルを雇うという意味ではないですよね?
「せっかくだけど召使いになるのはやめておくよ、僕は別の仕事もあるから」
「そうですの、残念ですわね…」
ふう…良かった、オウルが断ってくれたことでとりあえず俺の地位は守られたな…
しかし、召使いという地位を守れて安心したことに悲しみを覚えないことも無い。
「お嬢様、時間があるなら俺は冒険者ギルドに行きたいのですが」
「ギルドに?何をしに行きますの?」
「冒険者登録をしたいのです」
「あれ、ヴォルガーは冒険者じゃなかったの?」
「いや冒険者なんだけどカードなくしちゃって…」
恥ずかしいのであんまり言いたくなかったが俺は冒険者カードをなくし、この街でもう一度登録しようとしていることをオウルに伝えた。
お嬢様は「カードをなくすなんて馬鹿じゃないですの?」と言っていたのでやはり俺がカードを持っていないことを知らなかったようだ。
「ふうん、そうなんだ、でも依頼を受けるならともかく、この街のダンジョンへ行くだけなら別にいらないんじゃないの?」
「そうですわ、召使いはわたくしとお兄様の荷物を持つという仕事がちゃんとあるのですから、勝手に依頼を受けるなど許しませんわ」
「ヴォルガーって単なる荷物持ちなんだね…」
「事実だが憐れみの目を向けるのはやめなさい、あのですねお嬢様、依頼を受けたいわけではなくて、はぐれてしまった俺の仲間を探すために登録しておきたいんです」
「仲間?召使いは以前は別の者の召使いをやっていましたの?}
なぜ召使い限定なんだよ、俺そんなに召使いっぽいの?
召使いっぽいってなに?どこらへんで判断されてるの?
「召使いじゃないんですけど…とにかく俺のことを捜しに誰か来るかもしれないんですよ!その時冒険者ギルドに俺の情報がないとこの街にいるってことが伝えられないじゃないですか」
「それだけのために登録しようとしてるんだったらやめといたほうがいいよ」
事情を説明したらオウルに妙な忠告をされた。
「なんでだよ?」
「この街で登録すると、いろんなことをバラされるからさ、ここの冒険者ギルドは金を払わないと何もしてくれないけど、金さえ払えば大抵のことはなんだってしてくれるんだ、カルルナティアさんの名前が広まってるのも誰かがギルドで情報を買って、それを売ってるからだよ」
「なんてこった…お嬢様、有名になって喜んでる場合じゃないかもしれないですよこれ、お嬢様の知られざる秘密とかも広まってるかもしれないです」
「わたくしの秘密が!?ど、どこまでですの!?まさか10歳までおねしょをしていたこともバレているんですの!?」
「それは…広まってなかったと思うよ…」
「あ、たった今バレたので今後広まる可能性があります」
「いやあああああああ!」
お嬢様の自爆はいいとして、そう言われると登録すんの嫌になってきたな…
俺の情報なんかこの国には無いと思うけど…あれがバレるのは嫌だな…
登録の際にカードに記載されてしまう呪われた称号、いやクラス名『ふわふわにくまん』だけはなんとしても秘密にしておきたい。
「それに冒険者ギルドにもあんまり近寄らない方がいいよ、君たちのパーティーに入ろうとしてるやつらが増えて来てるからね」
「それはお嬢様の強さが広まったから?」
「そうだよ、力ずくでどうにもできないなら、取り入っておこぼれをあずかろうって寸法さ」
「なんてやつらだ、クズの寄生虫どもめ!」
「ヴォルガーも同じに見えるけど」
「いや俺は声かけられて雇われたから、自分から行ってないから、そうですよねお嬢様!」
「あ、ああわたくしの秘密が…この先どうやって生きていけば…」
お嬢様はまだ故障中だった。
おねしょのことバレたくらいじゃまだ十分生きていけると思うけどな。
「お嬢様は壊れたので治るまでそっとしておくとして…そうなると俺はギルドに登録せず、どうやって仲間に連絡すればいいのか…」
「それくらいなら僕に任せてよ」
「オウルに…?」
「僕はこの街の子供たちに顔が広い、街で見慣れないやつがいれば子供たちから自然と情報が伝わってくる、だからヴォルガーのことを捜してるやつを見つけたら教えてあげるよ」
「おお!それは本当か!…あ、金は…勿論取る感じ?」
「当たり前でしょ」
オウルはにっこり笑ってそう言った。
くっ、やはりこいつも金か…まあいいか、金払う分、信用はできると考えよう。
俺は一応ディーナ、アイラ、マーくんのことを簡単にオウルに教えた。
外見的な特徴と名前だけ。
マーくんはちゃんとマグナとは言ってる。
この三人ならきっと今も俺のことを捜してくれてるはず…
この街に魔動車と漆黒号で乗り込んで来るかはわからなかったので、それらについては教えなかった。
ザミールへ行ったときみたいに街の外へ隠す可能性がある。
ていうかこの街のことをあらかじめ知っていたら100%隠す。
マーくんは結構いろんなこと知ってるから、この街のことも知ってるかもしれない。
「じゃあそんな感じでよろしく…あ、でもオウルはどうやって俺へ伝えに来る?」
「そっちのお嬢様が借りてる家にヴォルガーもいるんでしょ?場所知ってるからそこに行くよ」
「お嬢様の住んでる場所が周知の事実なのはこの際もう考えないことにして、じゃあそれで頼むよ」
そうして俺はオウルに頼み、壊れたお嬢様を引っ張って家に帰った。
お嬢様は途中で俺に手を引かれていることに気づくと「なんで召使いがわたくしの手を握ってますの!」とぷりぷりお怒りになられたので「おんぶとかのほうがよかったですか」と聞き返したら「召使いに背負われると荷物みたいで嫌ですわ」とこれもお断りされた。
荷物なのは事実であるのに。
「お待ちなさい召使い」
家の門を開け、庭を通り、玄関を開けようとしたらお嬢様に止められた。
なんだろう玄関は自分で開けたいとかそういうルールか?
「先ほどの…おねしょのことは…誰にも言わないでいてほしいのですわ…」
物凄い恥ずかしそうな顔をしてお嬢様はそう言った。
「言いませんよ、オウルもまあ…言わないでしょう」
「本当ですの?」
「だって言ったところで特に意味あることでもないですし、金にもなりませんよ、それにわざわざ言いふらしてお嬢様に嫌われることはしないでしょう、そうしたらもう二度と街でお嬢様とは話ができませんから」
賢い少年なのでお嬢様に嫌われる選択はしないと思う。
たぶん、お嬢様がうっかり言いかけた隠し階段のこともあるし、今後も話しかけてくるんじゃないかな。
そんな気がする。
「なるほど…確かに美しいわたくしに嫌われるということは年頃の少年ならそれだけで死んでしまいますものね!」
死なないよ、別に告白してきたわけでもないのにそこまでのショックは受けないよ。
「あー安心しましたわ!」
お嬢様は元気になって家の玄関を開け、すたすたと二階へ行ってしまった。
早速セサル様に魔石を売ったことなどを語りにいったのだろう。
ちなみに金は全部お嬢様に預けてある。
果たしてどれだけが俺の給料として帰ってくるのかはわからないが…
「どうやら余計なこともせず、帰って来られたようですね」
「はい、ちゃんと魔石を売っただけです、なので急に背後に立って話しかけないで下さい」
とりあえず自室に戻ろうとしていたらルビーさんが背後に立っていた。
背中がなんかゾワっとしたなと思ったらそこにいるので心臓に悪い。
何かあれだな…タックスさんのとこにいたマリンダさんを思い出した。
あの人もそういうところがあった、メイドとか家政婦ってもっと明るくて屈託のない笑顔で対応してくれるとか信じていたのはどうやら俺の幻想にすぎないようだ。
「冒険者ギルドには行かなかったのですか」
「え、ええ…どうもこの街のギルドはいまひとつ信用できないんでやめました」
「そうですか」
「あのー…ところで今日はまだ何か仕事ありますか」
「お風呂の準備くらいですね」
「じゃあそれやってきまーす」
ルビーさんにじっと見られているとどうにも居心地が悪い。
俺はその視線から逃げるように再び外に行き、風呂場の裏に回って湯を沸かすのだった。
………………
………
そして翌日。
家の脱衣所には武装したセサル様とお嬢様がいた。
脱衣所の床下からダンジョン入って探索を再開するためである。
セサル様は一日休んだおかげか、とりあえず体調は何ら問題ない様子。
二人が行くということは俺も当然行くことになる。
しかし今日はなぜかもう一人準備完了状態の人がいる。
「…ルビーも行くんですの?」
「はいお嬢様」
ルビーさんが手甲つけて脱衣所にいた、昨日も見た姿だ。
「でもルビーには家を…」
「今回ばかりはお嬢様が何と言おうとお供いたします」
「どういうわけなんだい?ルビー、説明してくれないか」
セサル様に尋ねられたルビーさんは、一体どうしてかたくなにダンジョンへ共に行くのか、懇切丁寧に説明してくれた。
そこそこ長い話だったが、正直、一言で言うと「三人だと危ないから」で済む。
「ふむ…つまりダンジョンは奥に行くほど魔物も強くなるし、罠も増えるということだね?そのため今までと同じようには対処できないとルビーは考えているのか」
「はいセサル様、階段を降りた先が何階層かはわかりませんが、魔剣の力があったとしても、まだ冒険者として経験の浅いお二人では厳しいでしょう、お二人でまず調べたいという気持ちは理解できますが、ナティア一族に仕える者としては賛成できません」
「…なら仕方ないね、ルビーにも同行してもらおう」
「お兄様!?ルビーがいたら冒険になりませんわ!それにこの家を預かる者がいなくなります!」
「妹よ、これはもう僕たちのわがままの範疇を超えてしまっているのだ、ルビーを連れてダンジョンの下へ行くか、それとも大人しく家に帰るか、どちらかしかないんだよ」
「そんな…うう…わたくしの力で宝を見つけたかったのに…」
まあこれはルビーさんの意見に従うしかないな。
正しい事言ってるし…でもそうなると家はどうするんだろう?
俺も一緒にダンジョンへ行くってことになってるんだよね。
「昨日の内に家の中に魔法の罠を仕掛けておきました、侵入者がいればそれが始末してくれます、一時的なものですがそれで留守は対処します」
気になる家の問題についても対策を既にしてあった。
ただ始末とか物騒な単語が聞こえたので、ダンジョンから帰ってきたらすぐにその罠を解除してもらいたいところです。
いや、そうじゃなくて、俺が考えるべき問題は。
「それでは参りましょう」
「仕方ないですわね、じゃあほら召使い、鉄板を持ち上げてどかすのですわ」
ルビーさんが一緒ってことは…俺はバレずに魔法を使えるのか!?
「聞いてますの?」
「あっ、なんかお腹痛いんで今日の探索休んでいいですか?」
「くだらない嘘はいいから早く開けなさい」
だめだ…ルビーさんの威圧に逆らってまでお腹痛い演技は続けられない…
俺は隠し階段へと続く鉄板をどかし、その中へと入る他なかった。
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