第229話 むしろお宝は上にある

 ダンジョンの壁に明らかに浮いてるEXITと書かれたプレート。

それが俺の知ってるものと同じ意味を持つならここに出口があるはずなのだが、プレートの下は壁があるだけだ、扉があるとかそういう訳でもなく周囲の壁と全く同じ。


 試しに壁に手をついて押してみるが特に変わったことは無い。

何か隠されたスイッチみたいなのがあるのかと調べてもみたがやっぱり何も無い。

じゃあこの文字の意味はなんなんだ?


「なんでさっきからあの看板じゃなくて壁を熱心に見てますの」


 変な物があると言っておきながらそれではなくて下の壁を調べてるからな。

お嬢様が俺の行動を不思議がるのも当然だ。


「い、いえ…ただちょっとあの看板の下も何か無いかなと思いまして…」

「見たところ何の変哲もないダンジョンの壁のようだね?」


 そうなんだよ…だから意味がわからない。

いやまあ、そもそもこの世界のダンジョンになんで地球で見かけるタイプの出入り口の案内表示があるのかってことから意味わからないんだけど。


 考えられる可能性としては、やっぱり過去にここへ来た地球人がこれを作ったってことが一番あるよなあ。

例の魔王とか関係してる日本人の集団…の誰かが作ったとか?

そうなるとこっちの大陸に来てこんなもん作って何がしたかったんだろう。

ダンジョンの存在意義がいまいちわからない。

スケルトンとコウモリが出て来る地下迷宮作って何がしたかったんだ?


「セサル様とお嬢様はこのダンジョンがいつからあるかご存知ですか?」

「そんなこと…昔からあるとしか聞いてませんわ」

「僕たちの先祖がこの地を訪れた時には既にあったとは聞いているね、そしてダンジョンの周囲にシルバーガーデンという街を作ったらしいよ」

「え、そうなんですか」


 元々あったってこと?

ますます意味がわからない、つーかさ、この世界の人は英語知らねえくせにシルバーガーデンとか英語名の街を作るのもおかしいよな。


 他にも魔法の名前、人名、魔物の名前…いろんなところに英語がでてくる、英語以外の外国語も混ざってることがある。

でもこの世界の人たちはそういうのが全部カヌマ語として一つの言語になってて、それを疑問に思っていない。

たぶん日本で言うところの…方言による読み方の違いくらいの感覚なんだろう。

例えばから揚げのことを北海道ではザンギと呼ぶとかそういう感覚。

俺もかつて某有名RPGのゲーム名をファイファンとずっと呼んでいたら、かいわれに「ファイファンてなんだよwwwエフエフだろwww」と盛大に馬鹿にされた記憶がある。

ただこれは方言のカテゴリに入れていいか迷う。

とりあえず今はどうでもいい。


 ともかくセサル様の言う事が正しいなら、ルグニカ大陸からこちらのルフェン大陸へ移住してくる以前より、この地には地球人がいたことになる。


「このルフェン大陸は先住民がいたんですか?」

「僕はそういう話はあまり詳しくないのでわからないね」

「さっきから召使いは何を言ってますの?壁を調べておきながら、なんで急にそんな話をはじめるのかさっぱりわかりませんわ」

「いやあダンジョンて誰が作ったのかなとふと気になったもので…」

「そんなの誰も知りませんわ!ダンジョンなんて山や川と同じですのよ、最初からそこにあるのですわ!」

「洞窟のダンジョンならわかりますけどこれは人が作ったとしか思えないでしょう、だってどうみても通路は整理され天井には明かりが…」

「あーもう召使いのくせにいい加減にしなさい!わたくしは疲れてるのですわ!どうでもいいことを考える前に早く食事とテントを用意なさい!あ、まずは紅茶からですわ!」


 このわがままお嬢様め…わめく元気はあるくせにあくまで用意は全て俺にさせる気だな。

もしここに出口があるならそんなもん用意しなくて済むのに。

くっそー…なんなんだよこのEXITは。

嫌がらせで誰かつけただけか?

いや、嫌がらせなら日本語で出口と書くよな。


「はーやーくーしーなーさーいーーーーですわっ!」


 お嬢様がイライラして俺のスネを蹴ってくる。

えーいわかったよちきしょう、用意してやるよ!


 ただし、最後にこれだけやってな!


「あ!お嬢様、セサル様!部屋の入り口のほうに何かが!」

「魔物か!」

「なんですのっ!?」


 二人が余所を向いたこの一瞬。


「<ライト・アウト>」


 俺は壁に向けて魔法を使った。

そして、EXITのプレートの下部分にあった壁は元々そこには何もなかったのごとく消滅した。

人が出入りできるような長方形の穴が壁にできたのだ。


「召使い!何もいないじゃ…なっ…どういうことですの!?壁がなくなってますわ!」

「これは一体…」

「なんかえー…あ、お嬢様が剣を抜いた瞬間、壁が消えました」

「本当ですの!?」


 勿論嘘だ、俺が魔法を使って消したのだ。

さっき使った<ライト・アウト>という魔法は、ほわオン内においてスキルで隠れたプレイヤーとか罠とかを見つける魔法だ。

名前的にはむしろ逆の意味っぽいけど…

まあとにかくほわオン内じゃ「隠れた何かを見つける」って魔法だ。


 このEXIT表示があるくせに、なんら変哲のない壁はもしかしたら魔法的な偽装工作を施されているのではないかと思ったのでその魔法を使った。

この世界で訳わからない現象は大抵魔法のせいだ、この魔法で何か見つかるかもと思ったのだ。

見つかるというか壁が消えてなくなったけど、いやでも通路が見つかったとも解釈できるか。


 ちなみにこれで何の変化も起きなかった場合、壁に体当たりしようと考えていた。

セサル様とお嬢様がテントで寝た頃、こっそり<ウェイク・パワー>使って本気の体当たりを。

まあそれはしなくて済んだので良かった。


「魔剣の力が隠し通路を暴き出したのです!」

「エキセントリックにはまだそんな隠された力がありましたのね…」


 もうなんでも魔剣のせい。


「…本当にそう思うか?召使い君」


 お嬢様は簡単に騙せたのに…セサル様は微妙に疑っている、まずい。


「え、ええ…他に説明のしようがありませんので…」

「それもそうか…誰にでも解ける魔法の仕掛けならば、地図にも書いてあっただろうからね、これはきっとここの壁だけ土魔法で作っていたのだろう…魔剣の力が土魔法を打ち破ったのか…」


 ふうよかった、勝手になんか納得してくれた。


「これはひとまず、ここを調べないと安心して休憩はできそうにないね」

「…ということはまた歩くことになりますわね…」


 お嬢様は肩落としてがっくりしている。

体はもう完全にくつろぐつもりでいたんだろうな。


「お嬢様はお疲れなので少しだけ俺が見てきますよ」

「あらそうですの?じゃあささっと見て、それから紅茶をいれるのですわ」

「召使い君だけで平気なのかい?」

「ええ、ここから見えるだけでもあまり広くないようなので…魔物とかいたら叫びながら戻ってきますのでお二人はここでお待ちを、ついでに荷物見ててください」


 俺は床においた荷物を二人に任せて、隠し部屋の中へ入った。

一歩踏み出して気づいたが、部屋じゃなかった。

階段だこれ、入ってすぐ左側を見ると上へと続く階段がある。

踊り場があって、ジグザグに交互になってるタイプの階段。

ビルの外側についてる非常階段みたいなやつだ、金属製ではないけど。


「上は地上につながってるんだろうな…」


 地上のどこに出るかはわからないがとにかく出口なのだろうと想像できる。

だから上はいいんだが


「これ…ひょっとして最下層までいけるんでは…」


 まさかの事態に遭遇してしまった。

この階段、下へも続いているのである。

これが非常階段のような存在なら全階層につながってる可能性も出てきた。


 俺はすぐ後ろで待機していた二人を呼んだ。

階段らしきものがあって、外につながっていそうだと伝えるとお嬢様は急に元気になった。


「これで外に出られますわね!」

「あ、ああ…それにしても凄い発見だ…ここは恐らく僕たち以外誰もまだ気づいていない…」


 セサル様は階段の下を見ている、たぶん俺と同じことに気づいたな。

だから凄い発見だと言っているのだ。

お嬢様は単に外に出れそうだから喜んでるだけ。


 俺たちはとりあえず下方向は無視して、三人で上へと進んだ。

下よりも今はお嬢様のために上の出口を探すほうが先決なのである。

 

「行き止まりですわ」

「お嬢様、天井に開閉できそうな部分があります」


 ものの数分で一番上らしきところまでいくと、天井に鉄板の蓋らしきものが見えた。

階段の終点からはマンホールみたいに天井を開けて真上に出るようだ。

ただマンホールみたく丸くはない、四角い蓋だ。


「ぐっ…駄目だ、開かない、鍵穴がついているわけでもない…上に何か重いものが乗っているのかもしれないな」


 セサル様がそれを持ち上げようとしたが無理だった。


「そんな…ここまで来てそれはあんまりですわ…」


 苦労してたどり着いたみたいな空気だしてるお嬢様だが、俺たちはただ階段を数分間のぼっただけなので大した苦労はしていない。


「ちょっと俺にやらせてみてください」

「ふむ、召使い君の力ならいけるかもしれないね」


 俺はセサル様と場所を代わった。

常時アホみたいな大荷物を背負わされているので俺は力だけはあるとは思われている。


 二人には階段の踊り場で待ってもらう、ついでに荷物もそこへ置く。

さあて準備万端、いっちょ開けてみますか。


「ふんっ…ぬおおおおー!」


 力を入れてますよというアピールで変な掛け声を出す。

あっさり開いちゃったらセサル様になんか悪い気がして…


「がっ、頑張るのですわ召使い!」


 お嬢様が応援してくれている、初めてではないだろうか、お嬢様から優しい言葉をかけられたのは。


「…ぐっ、これ本当に重いですね…」


 ぶっちゃけ俺の力なら開けられるかと思っていたが冗談抜きで固い、というか重い。

後ろでお嬢様が「がんばれーがんばれーですわー」とか言っている。

これはちょっと本気をだしてみなけりゃならんか。


「<ウェイク・パワー>(小声)」


 ボソっと二人に背を向けて魔法を使う。

なんかここ来てから無駄にバレないように魔法をかける技術があがってきてる気がする。

ほわオンだとどんな魔法でも何かしら発光したりとかのエフェクトがついてたんだけど、あれどうやらこっちの世界だと俺のイメージ次第で省略できるっぽいんだよね。

エフェクトなんかいらんわと思えば、見た目特に変化せずに魔法をかけられる。


 ただし、気合入れて叫び派手なエフェクトありで魔法を使ったときと、バレないようにこっそり魔法を使ったときは若干効果に違いがあるように思う。

気合入れて叫んだ方がなんか強いのだ。

だから今の<ウェイク・パワー>は通常の5割程度の効果しか無いと思う。


「ぬうううううん!」


 弱めの<ウェイク・パワー>だったけど蓋は持ちあがった。

ただ、勢いつけて開けたときにミシミシベキィ!と音がしたので何か壊した予感。


「やったな召使い君!」

「外はっ、外につながってますの!?」

「今確認しますので少々お待ちください」


 俺はひょこっと、開いた場所から顔を出す。

ここはどこだ…とか思う前に、肌色の多い何かと目が合った。


「な…な…こっ…はっ…?」


 お宝発見!違った、下着姿のルビーさんが変な声を上げて佇んでいた。

何が起きた?


 もう少し周囲を確認する、見覚えがある、風呂の脱衣所だこれ。

今住んでる家の、あの、でかい家。


 俺はそっと頭を下げ、蓋を閉める。

もしかしたら俺の妄想か見間違いかもしれない。


「何で閉めましたの」

「ちょっとよくわからない物が見えて…」

「なんですの?」

「…これはお嬢様がご自分で確認されたほうがよろしいかと…」

「はあ?まあいいですわ、おどきなさい、わたくしはさっさとここから出たいのですわ」


 お嬢様が今度は俺と場所を代わる。

そして蓋を持ち上げて、外の様子を見た。


「ルビー!?なぜここにルビーがいるんですの!?」


 どうやら俺の見間違いではなかったようだ…


「あれ…もしかして…ここは家の脱衣所ですわ!?」


 悲報か朗報かわからないが、ダンジョンの非常階段は家の脱衣所の直下にあったもよう。

俺たち三人は無事にダンジョンから脱出することができたのだ。


 …あ、いや無事ではないわ、俺だけ外でるときにルビーさんから顔面踏まれたから。


………


「ではダンジョンの隠し通路が、ここに通じていたと?そういうことですか?」

「まあはい…あの、ルビーさんがお風呂に入る瞬間を狙ってたわけではないのでそれはどうかご理解ください」

「…いきなり床板が割れたときは何事かと思いました、二度目に現れた顔がお嬢様でなければ、魔法を撃ち込むところでした」


 あぶねえ…お嬢様に先に出てもらってよかった…


 あのダンジョンの階段があった部屋は、地図でいうと『あ-3』の左にあった。

で、どうもそこは真上にこの家がたってたようで。

蓋が重いのは地面と床板があったからだったんだね。

あの後俺は土と木片が散らばった脱衣所の掃除をさせられたよ。


 俺が掃除をしている間にセサル様とお嬢様は自室に戻り、眠った様子。

かなりお疲れだったのだろう、風呂も明日の朝にするみたいだ。


 俺も寝たいんだが掃除した後、ルビーさんに事情を説明せねばならなかった。

なので今そうしてるところ。


「この通路を知ってる者って他に誰かいるんですかねえ」

「いるわけないでしょう、いたらここに家は建ってません」


 それもそうだな。


「お嬢様は魔剣の力で隠されていた階段を見つけたとおっしゃっていましたが…本当にそうなのですか?」

「そうですよ?」

「嘘をついていませんか?」

「ついていませんよ?」


 すいません嘘ついてます、でも許してください。

俺は美人に冷たい目で睨まれて喜ぶタイプの性癖は持っていないのです。


「…はあ、まあいいでしょう、しかし困りましたね…あんな所に通じているとなると…」

「あーやっぱりまずいですかね?ダンジョンから魔物が来たりしそうですか?」

「ダンジョンの魔物はダンジョンから出てこないので平気です、私が気にしているのは魔物ではなく、人です」

「そうか、他の冒険者が階段を上ってきたら…おちおち風呂も入っていられないですからね」

「正直なところ、今も貴方の息の根をとめようか少し迷っています」

「お許しください」


 不可抗力なんだからもういいやろおおおおおおおおお!


「今日のところは、あの上に何か重い物を乗せて下から開けられないようにしておきましょう、貴方のような馬鹿力を持つ者がそうそういるとは思えませんが…念のために…青鉄庫でも置いておきましょう」

「それはいい考えですね、あれが乗ってたら下から開けるのは相当キツイですよ」

「わかったら早く運びなさい」

「…はい」


 そうして俺は青鉄庫を脱衣所に運んで、壊した床板の下に見えてる鉄板の上へ置いた。

ズシン、と響くこの重さ、中身詰まった状態で運ばされたからな、ルビーさん鬼かよ。

最後の重労働を終えた後は、ようやく俺も部屋に戻ることができた。 

 

 はーあ、疲れたな。

明日はダンジョンお休みにしてくれねえかな。

お嬢様たぶん朝起きられねえ気がする。


 休みになったらもう一度冒険者ギルド行ってみようかなあ。

ディーナたちの情報、今のところさっぱりだもんなあ。

情報調べるどころか生きるのに精一杯な部分があって…


 まずは冒険者登録からやり直して、カード作って、皆がここのギルドに来たら俺のこと気づけるようにして、それから…ぐぅ。


 眠さに負けた俺だった。

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