第226話 魔剣覚醒

「こっちの言うことに大人しく従うんなら…おい、待て、そこのお前何をしてる」


 チンピラ四人組の代表と思われる男が俺に話しかけてきた。


「食器を片付けている」

「そうじゃねえ、今どういう状況かわかってねえのか?」

「そっちこそわかっているのか?ここはダンジョンなんだぞ?荷物はちゃんとまとめて、こうして敷物の上に乗せておかないと地面に沈んじゃうんだぞ?」


 そう言いつつテキパキと地面に広げた布の上に荷物を置いて行く俺。

ダンジョンはなんでもかんでも地面に取り込む性質があることはオーキッドのダンジョンへ行ってあれやこれやしたときの経験から十分理解している。

それの防止策として、地面にいろいろ物を置く場合は大きい布をまず広げてその上に置くのが基本なのだ。

広げた布にちょっぴりでも生きている人間が触れている限り、布と上に置いた物は地面に沈まない。

先ほどまでは各自が椅子に座って、テーブルには誰かしら触れていたのでいらないと思って出してなかった。

まあほっといてもすぐに沈むわけでもないけどね。

意図的に置いたものは死体より長く残るという意味不明なルールがあるんだ。


「アンタらも奪おうとしている物がいつの間にか無くなってたら嫌だろう?」

「いや、それはそうなんだが…」


 やや困惑気味のチンピラ一行。

俺のほうはとりあえずごちゃごちゃ会話しつつティーカップとポットをリュックにしまえた。

後残ってるのはテーブルと椅子だけだ。


 ついでにチンピラの様子を観察したら、会話していた男は盾とメイスで武装していて、その後ろに剣を持った男、短剣をぷらぷらさせてる男、最後尾に手ぶらだが何かちょっと前の三人とは雰囲気の違う男がいるとわかった、最後のやつは魔法使いかもしれない、防具が他のやつよりしょぼい分軽そうだ。

顔見る限り種族は全員人族だろう。


 問題は向こうは既に武器を抜いていてすぐ攻撃に移れる状態だということだ。

一方でこちらの俺は素手、セサル様もお嬢様もまだ剣を抜いていない。

つーか今の会話で二人にはもっと危機感を持ってほしかったのだが、二人とも何を話してるの?という感じで俺のことを見ていただけであった。

まあたぶんこんな感じに人に襲われるのも初めての経験なのかもしれない。


 二人にもう少し今の状況を正しく理解してもらうために一歩前に出る俺。


「それよりいいのかー?お前らー?」

「ああ?」


 俺が近づいたことで向こうの連中が警戒し武器を構えた。

しかしそんなことには構わず喋りながらどんどん相手に近づいて行く。


「こっちの二人はなあーめちゃ強いんだぞ?舐めてたら死ぬのはお前らだぞ?今、土下座して謝るなら許してやってもいいぞ?んん?どうだ?さあ、床に這いつくばって許しを」

「うるせえ」


 イラついたメイスの男が俺に攻撃してきた。


「ぐわー」


 メイスで腹を殴られて派手に吹っ飛び、出してあったテーブルと椅子に突っ込んでそれらをひっくり返しながら床に転げる俺。


「なんだぁあいつは、ただの馬鹿みてえだな」

「ちげぇねえ」

「「「「がはははははは」」」」


 俺の様子をみて笑うチンピラたち。


「な、わたくしの召使いに何をするんですの!」


 お嬢様が剣を抜いた、セサル様も同じく剣を抜いて構える、二人もこいつらが暴力的なろくでなしだとちゃんと理解してくれたようだ。


 そしてそれが戦闘開始の合図になった。


「おらおらどうしたお嬢ちゃん、大人しくしとかねえと綺麗な顔に傷がついちゃうぞお」

「くっ、お黙りなさい!」


 残念ながら早速お嬢様はメイス持ちの男に軽口を叩かれながら適当にあしらわれていた。

剣を繰り出してはいるが、盾に防がれ、メイスで打ち払われている、まあ力負けしてるんだろう。


「君たち、これは犯罪だぞ!」


 セサル様は剣の男の相手をしている、ただ短剣持ちからも斬りつけられていてこちらも防戦一方、魔法を使う余裕もないようだ。

というか二人とも、スケルトンを相手にしていた時に比べると明らかに勢いが無い。

相手の死に即つながるような攻撃を避けているからだ。

今まで人間を殺したことはないのだろう、いいことなのだがこの場合はそれが不利になっている。

相手はこっちがどうなろうとお構いなしの攻撃をしてくる。

お嬢様は多少手加減されてるみたいだが。


 俺は何をしてるかって?

転んだ勢いでひっくり返したテーブルの後ろに隠れて様子を見ています。

とりあえず相手からノーマークになりたかったので、わざとうざい言い方をしながら相手に近寄ったんだ。

メイス以外の男に攻撃されたらどうしようかと内心ヒヤヒヤしつつだったが、ちゃんと俺の期待通り一番近くにいたメイスの男が殴ってくれた。


 俺は防具もつけてないので、相手はあの攻撃で俺が戦闘不能になったと思ってるだろう。

でも大丈夫、いやちょっと痛かったけど<ヒール>で治す程度でもなかった。

なんなら怪力幼女フリュニエに食らわされたことのあるぽかぽかパンチの方が遥かに痛かったくらいだ。


 そうして皆の意識から無事外れることができた俺は死んだフリしつつテーブルの後ろから全体を観察中。

こうして見ると気になるのは相手側の素手の男か。

あいつは戦闘に参加せず何をするのか注目しているとブツブツ何かつぶやいてるのがわかった。

魔法使いっぽい、目線からたぶんお嬢様に狙いをつけてる。

何かされると困るな、とりあえずお嬢様には<ディスペル・オーラ>をかけておこう。

このこっそり魔法をかけるという行動がしたいがために、俺はのこのこ相手に近づいて鈍器で殴られるというアホみたいなことをしたのだ。


 表だって二人に堂々と支援魔法かけまくるとどう考えても俺が魔法使いだとバレる。

それだけはどうしても避けたかった!

街のあぶねえやつらに俺が光魔法が使えるという情報がどこから伝わるかわからないから!


 おっと、ぶつくさ言ってた男が不意にニヤリと笑ったぞ。

そしてお嬢差に手を向けて…終わり、手を向けただけ。

あれ、なんかおかしいな?みたいな不思議なリアクションしてる、うける。


 何の魔法を使おうとしたんだろう…攻撃じゃなくて状態異常系かな。

前に盾の男がいるから攻撃魔法だとフレンドリーファイアになっちゃうもんな。

何がしたかったかわからんがまああと二回は確実にお嬢様は魔法を防げるんで少しほっておこう。


 それより二人がかりで襲われて大変なセサル様をまずなんとかするか。


「く…ふ、二人がかりとは卑怯だぞ君たち!」

「殺し合いに卑怯もクソもあるかよ!ヒャハハハハ!」


 とりあえず怪我されたら困るよな…<ヒール>で治さなきゃいけなくなるし。

まず防御固めようか。


 俺は小声で<プロテクション>をセサル様にかける、やっぱついでにお嬢様にもしとこう。


「そらぁ足元がお留守だぜ!」


 短剣の男がセサル様にローキック!


「…ってえええええええ!なんだよこいつの足はあ!!」


 蹴った方が猛烈に痛がって足を抑えピョンピョンはねていた。

セサル様はえ?なに?と一瞬そいつを見たが、まだ剣の男と斬り合ってる最中なので普通にすぐ無視していた。


「なにやってんだよおめえらぁ!そんなおぼっちゃん相手に苦戦してんじゃねえ!」


 叫ぶメイスの男、お前は女の子を相手してるくせに偉そうにするなよ。


「それと後ろでサボってるボケはさっさと女の動きをとめろやぁ!」

「い、いやさっきからやっているんだが…!」


 最後尾のやつはやっぱ何かしら魔法を使ってんのね、お嬢様には効いてないけど。

でも諦めずまたブツブツ何か集中して唱えはじめた、そんなチャレンジ精神持たなくていいのに。

<ディスペル・オーラ>はまだかけなおせないしどうしよっかなあ。


 眠るとか麻痺する系の魔法だったら<ハード・ボディ>で防げばいいか。

と思いつつ状態異常防御の魔法をぼそぼそと小声でお嬢様にかける。

念のために<レジスト・マジック>で魔法防御も上げておこう。


 さて、あいつの魔法は何なのかなと様子を見てると、お嬢様の足元から黒い触手みたいなのが生えてきた。

触手プレイか!いや違う闇魔法の<シャドウルート>か!

目標の影から伸びた触手が本体の足に絡みついて移動を制限する魔法だ。

今までは足元から生えようとしてたのが全部生える前に<ディスペル・オーラ>で消滅させられたんだな。


 触手はお嬢様の足に巻き付こうとしていたが、何か特に意味もなく普通にお嬢様の足から振り払われ踏まれて、ブチっとなって消えた。

お嬢様はそれら一連の行為をしたことに気づいていなかった。

魔法防御高めてたらこの世界だとあれだけで解除できるんだ…せつねえ。

<シャドウルート>使った男も、やった成功したぞ!と思ったのも束の間、普通に踏んで消されたことにショックを受けたのか口を開けて固まっていた。


 それにしても…やっぱ二人が自力で相手を倒すの…無理かなあ…

セサル様もお嬢様も頑張って、せいっはあっとおっと剣を繰り出してはいるのだが、狙いをつけてるのが相手の腕や足に限られるので見切られてる感がある。


 できれば自力で撃退してほしかったのだが仕方ない。

もう少し支援魔法をかけよう。


 でもバレにくい支援魔法て何かな…今までのは防御面だから大人しめだったけど、攻撃支援となると…<ウェイク・スピード>とか<ウェイク・パワー>するとわかるよな…急に動き変わるし怪力になるもんな。


 んーあーえー…ちくしょう、なんだよこのシチュエーション、想定したことねえよ。

バレずに攻撃力だけ上げる方法募集中。


「くう…お願い、魔剣エキセントリック!わたくしに力を貸して!」


 それでいこう。

ナイスタイミングだお嬢様、必死な顔も可愛いですよ、褒めてつかわそう。


 お嬢様の発言で名案を思い付いた。

二人は魔剣とか持ってたじゃないか、魔剣を強化すればよいではないか。


「<チェイス・オブ・ライトブレード>」


 かつてナクト村でキッツにかけて怒られ封印していた三節の魔法を解き放つ。

いや嘘ついた、イスベルグにもかけたわ。

とにかくその魔法でお嬢様の持つ剣がパアアと一瞬光輝いた。


「な、なんだ?」

「これは…!?剣に輝きが…!」


 メイスの男が驚いた隙をついてお嬢様が突きを繰り出す。

それを咄嗟に盾で防ごうとした男だったが…


「ひ、光が!盾を貫いて…ぐああああああああ!!」


 盾を貫通してきた光の刃が肩をぐさーーとぶち抜いた。

その衝撃に耐えられず、男の手からは盾が落ちる。


「妹よ…!一体何が起きたのだ!?」

「お兄様!魔剣に呼び掛けるのです!きっとお兄様の剣も力を貸してくれますわ!」

「そうか!魔剣ラン・アウェイよ!力を貸してくれ!」


 妹のいう事を微塵も疑わず信じるお兄様。

いやいいけどね、俺もそっちのほうがやりやすいから。


 またこっそり今度はセサル様の剣に<チェイス・オブ・ライトブレード>をかける。


「こ、これは…!そうか、そういうことなのだな!ラン・アウェイよ!」


 いやどういうこと?何基準で納得したの?


「愚かな盗賊共よ!必殺の剣を受けよ!奥義、閃光流星剣!」

「「ぎゃああああああ!!」」


 なにかセサル様の中で必殺技っぽいものが誕生してる…

要は連続突きなのだが…威力は素晴らしかった。


 高速で何度も突くのでそのたびに光の刃が発生して相手に襲い掛かる。

単純に今までの倍の攻撃量だ。

剣と短剣の男は両腕を斬りつけられ武器を落とし、あとさらに着てる物が全部ばらばらになった。

残されたのはパンツ一枚だ、見たくねえ。


「さあどうだ!まだ戦うか!」

「「「「すいませんでしたぁ!どうか許してください!!」」」」


 チンピラ共は全員が即座に土下座した。

まだ一応無事だった闇魔法を使う男も含めて。


「これに懲りたら悪事を働くのはやめたまえ!」

「「「「ははーーーっ」」」」


 そして逃げていく男四人、内二人はほぼ全裸。

いつかの自分を思い出してトラウマが刺激されそうだ。


 それにしても…殺さないであれで許す辺り、セサル様もなんと言うか…まあいいか。


「お兄様!素敵ですわーー!」

「ははは、それほどでも、そういう妹も美しい剣だったぞ!」


 健闘をたたえ合う二人、倒れたままの俺のこともっと気にして?


「あっ、そういえば召使いは!無事ですの!?」


 そうそう、それでいい。


「う、うーん、はっ、セサル様、お嬢様」

「おお、生きていたのか召使い君、良かったよ」

「は、はいなんとか…それよりあの男たちは?どうなったのですか?」

「おーっほっほっほ!それならわたくしとお兄様で見事撃退したのですわ!」


 高笑いをあげるお嬢様、すげー調子乗ってんな。


「そうでしたか…」


 いやまあ知ってたけどね、見てたから。

でもいかにも今気がついて知りましたという芝居を続ける俺。


「召使い君はメイスで殴られていたけど怪我はないのかい」

「殴られた箇所が少々痛いですが、当たり所がよかったのかなんとか…歩けないということもないです」

「まったく、調子に乗って偉そうに前にでるからそういう目に遭うのですわ!」

「い、以後気を付けます…」


 自分でやっといてなんだが釈然としねえ。


「荷物の中にきっとポーションがあると思うのですわ、召使いはさっさとそれを使いなさい」


 お、一応気遣いはしてくれるんだ?

俺はいそいそと荷物の中をあさり、ポーションを取り出した。

ポーション瓶は割れないように木箱に詰められ布にくるまれていた…ルビーさんの変な几帳面さを感じさせる丁寧な梱包だった。


 回復ポーションを飲む、思えば傷を治すために使うポーションは初めてだ。

水色の液体は薬っぽい味がした、魔力ポーションほどではないがそこそこまずい。

しかし思うのだが、仮に内臓破裂とかした人の場合ポーションは効くのだろうか。

胃とか穴あいてたらそこから漏れない?


「これ、腹斬られたり内臓潰れた人が飲んでも効果あるんですかね?」

「召使い君そこまでの怪我だったのかい!?」

「い、いやちょっと気になっただけです、怪我は大丈夫です」

「おどかさないでほしいですわ!」


 二人とも結局そういう場合はポーションを飲んでどうなるかについては知らなかった。

というかそういうレベルの怪我をすれば既に死んでるか、魔法でないと助からない状況なのでまず飲む人がいないと言われた、それもそうかもしれない。


「それではお兄様、帰りましょう」

「そうだね、あまり遅くなるとルビーが心配するだろうからね」


 この二人はどういう感覚でダンジョンに来てるのか未だ良く分からない。

今回の冒険で満足してくれたのだろうか。


 良く分からないが、二人の後について大人しく帰ることにした。

迷子になられても困るので分かれ道では口出しをしつつだが。


 帰り道でまたスケルトンに何体か遭遇した。

二人は魔剣の力がどうこう叫びつつ戦っていたが、光の刃が出てこないので首をかしげていた。

…そうほいほい魔法を使う気はないよ俺は。

大体そいつらあれなくても倒せるやろ。


 最終的に二人は魔剣はきっとピンチに力を貸してくれるのだろう、という結論に落ち着いていた。

一応俺が魔剣がどうしたんですかと聞いたらアホみたいに延々自慢話をされた。

ていうか魔剣てよく考えたら光属性っぽくないよな。

でも二人は満足してるようなので深く考えず、へー、すごいですね、と適当に相槌をうってたまに褒めちぎっておいた。

 

「ようやく外に出られましたわね」


 ダンジョンから出たことで気を緩めて、うーんと伸びをするお嬢様。


「中は埃っぽかったので帰ってすぐお風呂に入りたいところだね」


 ダンジョンは床の性質上、埃がたまらないのでセサル様のそれは完全に気のせいだ、ただまあ汗とかはかいただろうな、ていうかそれ気にしてたら冒険者無理だぞ。


 そして俺は拾った魔石を売りたかったのだが、二人がさっさと家に帰り始めたので仕方なく後について行った。 

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