第223話 シルバーガーデンという街
シルバーガーデンという街は人族、エルフ族、獣人族の三種類の種族がいた。
それぞれどれが特に多いとかではなく割とどこ見ても同じくらい姿を見かける。
種族で生活区域が別れてるってこともなさそうだ。
街は結構賑わっててコムラードよりも人口が多そうな予感、まだちょっと歩いただけなので今いる場所が単にそうなだけかもしれないが。
ただ気になるのは普通の恰好というより冒険者みたいな装備を身に着けて歩いてる人が多いように見える点。
冒険者が多い街なのか?
「わーーー」
ドシン、街の様子を眺めていると突然幼女が無邪気な声を上げながら突進してきた。
「おっと、大丈夫かい?」
「うんー、おにいちゃーん」
ははは、なんだろう、随分フレンドリーな幼女だな。
いきなり抱き着いてくるなんてお兄さんちょっと周囲の目が気になっちゃうな。
見たところこの子は緑髪で耳がとんがってるからエルフ族の子供だな。
「しゃがんでー」
「いいけど?おいおいどうした?」
要求に従ってしゃがんでやると胸のあたりに頭をぐりぐり押し付けて来る。
可愛い子だな、幼女的な意味でな。
頭でも撫でてやろうかと思って手を出したら、パッと俺から身を離し幼女は急に真顔になった。
「お…ああ、いや別に変なことするつもりでは…」
「…ペッ」
…今この子ツバ吐かなかった?
幼女は走り寄って来た時に見せてくれた笑顔とは完全に真逆の、ゴミでも見るかのような目で俺をチラっと見た後、何事もなかったように背を向けて歩き出した。
「あの、俺何か悪いことした?」
あまりの豹変ぶりが気になるので幼女の手を掴んで止めた。
「離してください、大声だしますよ」
「えっ」
「助けてーって叫びます、すぅーーーー」
大声上げようと息を吸い込む幼女の姿に慌てて手を離す俺。
「くせぇー手で触るんじゃねーよ」と幼女は言うとその場から走ってどこかへ行ってしまった。
…いや、なんだよこれ、俺が何した?
つか向こうからぶつかって来たよな?
訳わかんねえ…なんだよあの子…いきなり口もめっちゃ悪くなるし…怖いわ。
幼女にくせぇー手で触るなと言われたことに若干傷ついた俺は、とりあえず手洗ったほうがいいのかな…と考えながら街中を歩いた。
そして洗濯物を運んでいた人族のおばちゃんに「井戸はどこですか」と聞いたら、にこにこしながら近くにあった家の中から桶に水汲んで持ってきてくれて、うわあ親切な人だなと思ったら「2コルだよ」と言われた。
この水使いたいなら金払えってことだった。
俺は1コルも持っていないので「金ないです」と言ったら「失せな」と返された、水はくれなかった。
井戸の場所も教えてくれなかった。
…なんか…微妙な人に二連続で当たっちゃったな…
なんとなく誰かに物を尋ねるという行為がおっくうになってきたので自力で歩いて井戸を探した。
おばちゃんと会話した場所からすぐ近くにあった。
俺が使っても誰かから金を要求されたりはしなかった。
さっきは金とられそうだったのに。
あと井戸は俺以外にも人がいたので使うために順番待ちしてたら子供にまたぶつかられた。
二回もだ、人族の男の子と猫人族の女の子、二人同時に来たわけではなく最初に男の子がぶつかってきて、その後井戸で水汲んで手を洗っていたら女の子にぶつかられた。
日本でたまに駅とかで意味もなくぶつかってくるおじさんがいるって話を聞いたことがあるが、この場合なんなんだ?俺はぶつかられるおじさんか?
しかもぶつかってきたその二人の子供も最初は無邪気な感じだったのに、すぐさま態度を変えて真顔でどこか行ってしまった、意味不明すぎて今はさらなる恐怖を感じている。
この街の子供は一体どうなっているんだ…
得体の知れない恐怖感に包まれた俺は道の端っこを歩いた。
背後をとられぬよう建物の壁を背にしながら。
子供が視界に入ると警戒度マックスにして突撃に備えた。
「くく…あはははははっ」
ガニ股で壁沿いを歩いていたら近くで笑い声が聞こえた。
こ、今度は誰だっ、どこから来るっ、俺の傍に近寄るなぁーー!
「あんたさあ、ずっと見てたけど相当鈍いね、そこまでいくと笑えるよ」
声は俺の頭の上からしていた、見上げると背にしていた建物の屋根から何かが飛び降りるのが見えた。
視線を前に戻すとそこにはエルフ族と思われる少年が立っていた。
「お、俺の何が可笑しい、あとずっと見てたってなんだ、ストーカー?」
「すとーかー?ってのが何かは知らないけど、アンタが北門から入って来た時から見てたよ」
ストーカーじゃん、エルフ族だから美少年のストーカーか…俺なんかではなく、独身女性にやってあげればいいのに、たぶん喜ばれる。
「何で俺を見てた」
「そりゃあ北門から街へ入って来たからだよ」
「…ああ、あの先はマグノリアだから人族は普段出入りしないってことか?」
「全く無いってこともないけどね、冒険者があっち側の魔物を狩りに行くこともあるし、でも一人で来た人族のおっさんはアンタが初めてだ」
はあ…そっすか…
「で、俺になんか用?」
「眺めてたらあまりに面白かったんで、笑わせてくれたお礼にいい事教えてあげようと思ってさ」
「いい事?」
「おっさん最初に会った子供に財布すられてるよ」
なんだって!…いや、でも俺ってそもそも…
「それは無い」
「はあ?何言ってんの?今確かめてみなよ、嘘じゃないってわかるから」
「確かめるまでもない、なぜなら俺は…最初から金を…財布を持っていない」
「…それ本気で言ってんの?」
「ああ、財布以外にも特に何も無いのですられるものも無い」
俺がそう言うと少年は目をパチパチさせた後「なるほどなぁ」と妙に納得していた。
「あ、じゃあもしかしてぶつかってきた子供たちはみんな、俺から財布をすろうとしていたのか…?」
「当たり前じゃん、おっさんきょろきょろしてたから旅人だと思われて狙われたんだよ」
「俺が何も持って無いから子供たちは真顔で去って行ったのか…」
「普通の人は一度目か二度目で気づくけどね」
三回引っかかって気づかない俺はどうやらこの少年がこれまでに見てきた旅人の中でなかなかの上位ランカーの間抜けっぷりらしい、嬉しくねえ。
「でも何も気づかなかったから子供に手を上げなかった分、最悪なことにはならなかったね」
「…子供に暴力を振るう気はない、ないけど仮にそうした場合どうなってた?」
「まず子供が助けを呼ぶだろ?すると近くにいる大人たちが駆け付けて来る、そして子供を守るためとかなんとか言って囲んでおっさんをぼこぼこにして、最後は身ぐるみ剥いで街の外におっさんを投げ捨てて終わり」
「こえーよ!なんだよこの街!治安悪すぎるだろ!」
どうなってんのサイプラス!
いろいろ期待していた俺のわくわくを返せよ!
「ま、このシルバーガーデンはそういう街さ」
「嫌な街だな…」
「これでも僕の生まれ育った街なんだけど?」
「それはすまんかった」
「…まーよく言われるから別にいいんだけどさ、それよりいい事教えるって言っておきながら的外れなこと言っちゃったなー、久々に恥ずかしいよこれは…」
別にそんなことに恥ずかしさを感じる必要は無いと思うのだが、この少年にとっては重要なことらしい。
「んじゃあもう一つ質問していいか?」
「いいよ、一つだけならね、それ以上はお金とる…けどおっさんお金ないからだめだよ」
金にがめつい住民たちだなホント。
「冒険者ギルドに行きたいんだ、どこにある?」
「ああ、おっさん冒険者だったの?全然見えないね…まあ教えてあげるよ、この道をまっすぐ行って、最初にある酒場の角を左に曲がって…」
俺は冒険者ギルドまでの道を少年に聞いた。
「色々教えてくれてありがとな」とお礼を言うと、少年は頭を掻きながら「変なおっさんだな…」と言いつつあっさりどこかへ去って行った。
建物の壁から離れ、道を堂々と歩く。
子供のタックルが何なのかわかったのでもう怖くないぞ。
今度してきたらたかいたかーいをして返り討ちにしてやろう。
そう意気込んでいたのだが、もうタックルはされなかった。
きょろきょろせず堂々と歩いていたからかもしれないな。
無事に冒険者ギルドらしき建物についた、コムラードにあるやつと大体同じなのでわかった。
しかしまだ中には入らない。
冒険者ギルドの隣にある建物が非常に気になるのだ。
それは一見コンビニのような横に長い四角い建物だった。
外側はガラス張りではない、普通に石壁だ。
入り口の扉が中央についていて扉の左右には窓が三つずつ並んでいる。
一番左についていた木製の窓が開かれており、これ何の施設だろうと思いつつそこからそっと覗くと、その部屋にはベッドが4つほど並んでいて全部のベッドに誰か寝ていた。
宿泊施設…ではない、病院だこれは。
だって寝てる人たちに対し魔法をかけてる人がいるんだ。
それも俺が良く知る魔法…たぶんあれ<ヒール>だ。
…これもしかしてアイシャ教の施設か?
冒険者ギルドのすぐ横にあるなんて…便利だとは思うけど…
気になるのでもう少しこっそり観察を続けることにする。
俺が一番気になるのはベッドに寝ている怪我人とかではない。
それを治療している人と…その後ろでつっ立ってるだけのヤクザみたいな雰囲気の男が何なのか気になっている、二人とも人族のようだが…
「はぁー…はぁー……ひ…<ヒール>…」
「おらぁどうしたぁ!なんだそのカスみてえな<ヒール>はぁ!そんなんじゃいつまでたっても終わらねえぞぉ!」
「も、もう無理です、魔力が…少し休ませてください…」
「なめてんじゃねーぞ!魔力がなけりゃこれを飲みなぁ!」
「許してくださいもう魔力ポーションは飲めまうぼぼぼぼぼ」
…回復魔法を使って治療をしていた気弱そうな青年が、ヤクザみたいな男に無理やり魔力ポーションを飲まされていた。
拷問かよ…あれ恐ろしく不味いのに…
「…おえええっ!」
「何吐いてんだコラァ!これはウチの大切な商品だぞコラァ!てめーの借金に代金上乗せしとくから覚悟しとけよコラァ!」
「ああああ……そ、そんなぁ…」
なにここ…強制労働施設…?回復魔法使える人の…
ヤクザが借金とか言ってるしあの人は借金返すために無理やり働かされてんのか…?
俺はその場をそっと離れる、何かこれ以上見てはいけない気がした。
そしてタイミング良くというか悪くというか、近くでひそひそ話をしている奥様方の話の内容を聞いてしまった。
「あの人もついてないわねぇ…光魔法が使えるなんてあそこの連中に知られたばっかりに…」
「借金ていうのもいつものあれでしょ?カタにはめるための…」
「らしいわよー、今回はあれよ、確か三丁目の娼館の…あのかわいい子使って…」
………何かやべえ、想像以上にこの街やべえ。
断片的ではあるが、奥様方の会話内容から恐らくあの青年は女の子つかって何かしらの罠にひっかけられいつの間にか借金を背負わされていたパターンだと把握した。
この街で光魔法が使えると知られると、どうやらあの施設で働かせるためにえげつない工作をしかけられるようだ…
あの青年は気の毒だが…俺は助けてはやれない…っ!
だってたぶんこれ、俺がアホみたいにポンポン回復魔法使えると知られたら永遠に働かされますよね?
違法な手段でもって執拗に工作をしかけられますよね、借金背負わせるために。
…早くこの街を出たくなってきた。
でもその前に…冒険者ギルドへ行こう、そしてはぐれてしまった皆が俺より先にここへ立ち寄っていないかどうか確かめよう。
冒険者ギルドの中へ入る。
ガラの悪そうな冒険者がいっぱいいた、中のテーブルでなんか飲み食いしているのもいる。
ていうか酒場っぽい…酒場兼冒険者ギルドなのだろうか…
受付らしき場所にいる茶髪のパーマかかったみたいな頭をした人族の女性がホステスでは無いことを願いつつ近づいて話しかける。
「あのー、ここはシルバーガーデン冒険者ギルドであってますか」
「そうよ、注文は?」
最初の一言と後半の一言が繋がってないと思うんだけど…
用件は?という意味だと信じよう。
「人を捜してるんですが、ここに金髪で背の高い…」
「待ちな、依頼出すんなら向こう行け」
受付の人はくいくいっと指で隣の受付を指した。
そこは何かの獣人族らしきおばあちゃんがお茶?飲みながら座っている。
あ、あれもギルドの職員なのか…
「依頼ってほどでもなくて、知り合いの冒険者がここに来てないかどうか聞きたいだけでして」
「ああ?なめてんのかテメェ、ギルドが他の冒険者の情報ペラペラ教えるわけねーだろが」
口悪いけど意外としっかりしてるんだな…
なんかこの人あれだな…スケバンっぽいな…
「仲間なんですよ、旅の途中ではぐれちゃって」
「っだよ、じゃあほら、出せ」
「…出せ、と言うのは?」
「カードだよ!カード!冒険者の仲間ならまずてめえのカードだせっつってんだよ!」
「いやそれがあの、失くしたと言いますか…」
「っはぁ~~~~~」
そんなクソでかため息つかなくてもいいじゃないですか!
冒険者カードは荷物と一緒だったんですよ!魔動車と一緒に消えたんですよ!
「登録したとき再発行できるとは聞いたんですけど…」
「てめぇ見ねえ顔だな、登録したのこの街じゃねえだろ」
「はい」
「そんでここで一回も仕事したことねえだろ」
「はい」
「一回も仕事してねえやつの記録がここにあるわけねえだろ?」
「そうですね」
「なめてんのか?」
「すいません」
正論言われて心が折れそうだ、これなら馬鹿だけどニーアのほうが断然マシだった。
「新規登録ならしてやる」
「じゃあそれで…」
「100コル」
あれ…金いるんでしたっけ…コムラードで登録したとき払ったっけそんな金…
「そんなにいるんですか?」
「それがここの決まりだ」
「金はないんですが…」
「死ね、それか金もって来い、私に二度も手間かけさせるんだから次は200コル、馬鹿にもわかるように優しく言うと銀貨20枚だ」
俺は無言で受付を離れた、ここは地獄だ。
しかしこの先どうしたらいいんだ…冒険者ギルドでも仕事ができないから金も稼げない…何か人に尋ねようとしたら金を要求される…こんなことなら門番に全部食べ物やるんじゃなかった…少しくらい残しておけば金に換えられたかもしれないのに…
もうケンのところに帰ろうか…あそこならまだ食べ物もあるし…
しかし今更戻るのも物凄い情けないよな…
そしてあそこにいたんじゃ結局この街で皆に会えないよな…
お先真っ暗な予感にうちひしがれながら下を向いてギルドを出ようとした。
「あーら見てお兄様、いかにも貧乏そうな男がいますわ」
「おやおや妹よ、貧乏がうつるぞ、離れるんだ」
ここは地獄だ(二回目)
今度はなんなんだよぉ!優しさにあふれた住民はいねえのかよぉ!
顔を上げるとそこにはちょうどギルドに入って来たところであろう男女がいた。
イケメンと美女だ、両方エルフ族だった。
そして俺は女の方を見て思わず「お、お嬢様だ…」と言ってしまった。
だって髪がドリルみたいなやつだったから。
あんな頭の横にツインドリルしてる人はお嬢様って決まってるんだ。
「おや、聞いたかい妹よ」
「ええ、聞きましたわお兄様」
そのやり取りいちいちいるんか。
「記憶にないのだが、君とはどこかであったことがあるかな?」
「いや、ないですけど…」
「と言うことは、わたくしのあふれ出る高貴さから思わずそう言ったわけですわね!」
「…まあ、はい」
髪型で判断したけど…
「お兄様」
「妹よ」
いやわかんねえよ、今それで何をやり取りしたんだよ。
「君、なかなか見どころがあるな、私たちのパーティーに入れてやろう」
「えっ?パーティー?」
「ええ、光栄に思いなさい、わたくしとお兄様のパーティー、その名も『美しきサダメ』に入れることを!」
「ちなみに運命と書いてさだめと読むからな、覚えておくといい」
パーティーに入るとは一言も言っていないのだがこのイカれた兄妹の中で俺は既にパーティーの一員になってしまったらしい。
普段ならお断りしてるところだが今の状況ならばチャンスではなかろうか?
俺一人だと何も魔物とか倒せないし、ギルドで登録もできない。
この二人にくっついていけば、ひとまず何か…食べるものくらいは手にはいるかもしれない。
「では帰ろうか妹よ」
「そうですわね、今日は人を捜しに来ただけですから」
「…あの、俺はどうすれば?」
ていうか名前すら聞いてないのにいいのかお前らそれで。
「着いて来たまえ、私たちの借りてる家に案内しよう」
名前とかどうでもいいわー!ついていきまぁす!
「さっ、行きますわよ、召使い」
「はい!んっ…めし…?」
お嬢様から妙な呼び方をされた気がするがきっと気のせいだと思うことにした。
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