第222話 そして入国へ
「つってもオーキッドで生まれた訳じゃねえ、元々はマグノリアの西側で暮らしてる兎人族たちの一人だったんだがオーキッドにおもしれえ獣人族がいるって噂を聞いて、見に行ったんだよ」
「面白い獣人族?」
「ああ、熊人(くまびと)族っつう数は少ないがかなりの強さを持った種族の一人でな、そいつはオーキッドの闘技大会で優勝して剣豪になろうとしてたのさ、知ってるか?剣豪ってのは…」
「知ってる、今の剣豪に顔面殴られた事あるし…」
「何したんだよ…」
イスベルグには最後に会った時、ちょっとからかっただけで思い切り殴られた。
あのパンチだけは納得できない、共に死線を潜り抜けた仲だと言うのにシャレも通じないとか。
「俺のことはいいよ、それで話の続きは?」
「ああ…その剣豪目指してる熊人族は捜したら割とすぐ会えてな、馬鹿みてえに真面目なやつだったよ、話をしても全然面白くねえことしか言わねえし、でも不思議と気が合ってたまに一緒に飲んだりするようになった」
ケンはすぐはしゃぐところがちょっと面白いけどな。
「ただ俺がなんで剣豪なんか目指してんだって話をしたときな、面白いことを一度だけ言ったよ、何だと思う?」
「え、面白いことか…そうだな…実は罰ゲームで剣豪目指してるとか…」
「どんな罰ゲームだよ!そんなんじゃねえよ!そいつは剣豪になればオーキッドの軍に影響力が持てると思って剣豪になろうとしてたんだよ」
「何その物騒な考え、影響力持ってどうする気だったの」
「マグノリアと同盟を組ませたかったのさ」
「同盟って…あの、言っちゃ悪いけどマグノリアってそもそも国として機能してるのか…?」
「してないな」
ですよね、ぶっちゃけここ無政府状態の無法地帯ですよね、兎人族とかいうゲリラ組織もいるし。
いま俺の目の前にいる兎人族は違うけども。
「まあその頃だな、マグノリアの中でリンデン王国に攻め入ろうって話が結構出てたんだよ、俺のいた兎人族の中でもあった、しかしただ攻めたんじゃまたやられて奴隷にされるだけだ、だから戦うならオーキッドを味方につけるべきだと、そういう考えでそいつは同盟とか言い出したんだ」
「なるほど…」
「それでそいつは闘技大会で優勝し剣豪になった、しかし軍に影響どころか、マグノリアと同盟って話をしただけでオーキッドの連中からは鼻で笑われた」
「………つらそう」
「辛かったんだろうな、剣豪になってから会うたびに愚痴が増えて元気がなくなってたよ、それで結局、何をやるにしても金がなきゃどこも動いてくれないってことに気づいて金の話ばかりするようになっちまった」
金かあ…俺お金大好き、今は1コルでも多く金が欲しいと思っています。
「それで最後にはとうとうおかしくなっちまった、金を用意するっつって何するのかと思えば闘技大会で八百長をしたんだよ」
あれ、なんかその話イスベルグから聞いたことあるよ。
「それって最終的に火の女神イルザが怒って火の玉ふらせたやつでは…?」
「知ってたか、その通りだ」
「ということはその剣豪はシロウ…?」
「…こいつは驚いた、シロウの名前は忌み嫌われて今じゃ誰も言わねえのに」
「今の剣豪から聞いたことあるからな」
「そうか、それなら知っててもおかしくねえな」
イスベルグから聞いたシロウの行動にそんな意味があったとはなぁ。
…あれでも、そもそもなんでリンデン王国を攻めたかったんだろう、やっぱ奴隷解放かな?
「戦争したかったのはリンデン王国で奴隷になってる獣人族を助けるためか?」
「それもあるが…もう一つ、特に兎人族がずっとこだわり続けてる理由、リンデン王国の土地を奪ってそこに移住するって意味もある」
「マグノリアがあるのにわざわざ土地を奪う意味がわからんのだが」
「…マグノリアがあるからいけねえんだよ…」
そこでケンは黙ってしまった、どういうことだろう。
マグノリアに兎人族たちは住みたくないってことなのか?
でもそれならオーキッドやサイプラスに移住すればいいのでは…
なんか深刻っぽいからそういうことではないんだろうな。
となると別の理由…地球の戦争の原因から考えてみる?
例えば…政治的な要素以外だと…宗教とか?
でも宗教ってないよなここ、あえていうならオフィーリア信仰…あっ。
ひょっとしてオフィーリアに関係があるのかもしれない。
「わかった!兎人族は実はオフィーリアが嫌いなのか!」
「ぜんっぜんちげえ!!なにがわかったんだよ!?」
「いやだってマグノリアに住むのが嫌な理由考えたらそうかなと…」
「…オフィーリア様のことは兎人族全てが尊敬し敬っている、嫌いなはずがねえ」
「まあ普通そうか、木に埋まりながらも獣人族のためにマグノリア支えてるもんな」
「ちょっと待てお前、オフィーリア様に会ったのか?」
「会ったぞ?」
「あ、ありえねえ…守り人が人族を通したのか…?でもオフィーリア様の姿を知ってるってことは…そうとしか考えれねえ…」
「ドリアードと友達だからいつでも会えるぜ!」
「おま…じゃあもうわかるだろ!?兎人族はオフィーリア様を助けてえんだよ!獣人族がマグノリアに住む限りオフィーリア様はずっとあのままだろ!それが嫌なんだよ!」
…あー…嫌いじゃなくて逆に好きすぎる系だったのか…
「しかし他の多数の部族はもうマグノリアを離れることに反対なんだ、リンデン王国を攻めるのも奴隷を解放する以上のことはしようとしねえ、それが我慢ならねえ兎人族はいつしかマグノリアの他の種族を襲うようになっちまったんだよ」
「何かもうやけくそになってる感があるよね」
「ああその通りだ、シロウも兎人族もそれ以外のマグノリアに住む全ての種族も、結局何が一番いいことなのかわからねえんだ、そして俺はその全てに関わることから逃げて気づいたらこんなところまで来ちまった、だから裏切り者なんだ」
「まあまあそう落ち込むなよ、そういうのたぶん裏切り者とは言わないよ」
「呼び方の問題で悩んでるわけじゃねえよ!」
ケンは意外と鋭いつっこみをしてくるな。
「ケッ、だから面白くねえ話だって言ったろ」
俺がケンのつっこみ力について考察していると、そこで話を終える気になったのかそれ以上は何も語らなかった。
落ち込んでてちょっと可哀想なのでフォローしてあげよう。
「あの、思うに一度オフィーリアとちゃんと話をすべきなのでは?」
「あ?オレがか?」
「うん、というか兎人族一同が、あの女神たぶん助けられてもまた同じことすると思うよ、あと木に半分埋まってるけど結構元気だったよ、慣れたら平気とか言ってたし」
「お前はオフィーリア様に何を聞いてんだよ本当に…」
「恥ずかしいなら俺が今度会った時にケンを代表とした兎人族一同がアナタのことでめちゃ悩んでますけどって伝えておくから、なっ?」
「やめてくれ!!勝手にオレを代表にすんなよ!余計恥ずかしいわ!」
とりあえず元気は出たようなのでこれくらいでいいか。
まあ後の問題はマグノリアの住民たちで考えて頑張って解決してくれ。
俺は今自分のことで精一杯なの。
ということで話を切り上げ、寝た。
そして三日目。
「もう行くのか」
「ああ、服も靴も出来たし、食料はケンに貰った燻製とか芋とかあるし数日はこれで持つ」
「この山をおりたらもう迷わねえとは思うが一応気を付けろよ」
シルバーガーデンまでの道は聞いた、直進すればいいだけなのでたぶん迷わない。
「色々ありがとな、ケンに会えてマジ助かったわ」
「オレはヴォルガーみてえな変な人族に会ったのは初めてで困ったけどな」
「ははは、こやつめ、ぬかしよる」
「いやシャブの実食いながら裸足で魔物より速く走ってくるやつなんか絶対他にいねえからな?」
うるせー!シャブの実だってたぶん俺が美味しく食べたことによって「やだこの人私のこと美味しいって…美味しいって食べてくれた…!」って感動しとるわ!
意思があれば確実にそう言っとるわ!
「じゃあ俺はもう行くが…そうだ、最後に言いたいことがある」
「なんだ、もう昨日の話の続きならしねえぞ」
「いやそんなことじゃない、もっと大事なことだ」
「大事なことだと…?」
俺は畑の方を指さした。
「人参はもっと間隔あけて植えた方がいい、条間20センチくらいとって、あと途中で間引きして最終的に握りこぶしが入る程度の間隔を人参の間に開けて…」
「なんなんだよおめーは!?結局は農家か!?さっさと行け!」
大事なことを伝えたんだがなぜか怒られてしまった。
森の土使ってるから栄養はあるはずなのにちょっと痩せてたからな人参…ケンにはちゃんと美味しい人参育てて欲しいものだよ。
そして俺は人参の心配をしながら山を降りた。
ケンに言われた目印を探しつつ、南に向かって歩く。
歩いて三日くらいって言ってたから走ればもっと早くつくな。
そう考えた俺は連日お世話になっている<ウェイク・スピード>をかけて走り出した。
ちょいちょい休憩を挟みつつ半日ほど走ったところで街らしきものが見えた。
余裕やん!なんか<ウェイク・スピード>もかけなおしがめんどくせーからもっと効果時間のびねーかなーと思いつつかけてたら伸びたし!
レベルアップ効果かなやっぱこれ!
わーいって感じで街に向かって走る。
んん、お、門番いるわ、さすがにサイプラスはそこら辺ちゃんとしてるか。
あれ…俺特に何も持って無いけど通してくれるかな…?
「うおおおなんだお前は!止まれっ!止まれぇ!」
「はい」
門番二人が槍構えて怒鳴るので手前で急停止した。
ちょっと喜びが全面に出過ぎて走り過ぎた。
「人族…?なんでマグノリア側から人族が?まさか街から逃げた奴隷か!外の魔物に怯えておめおめと逃げ帰ってきたわけだな!」
「違います、オーキッドからマグノリア横断してきました」
「獣人族ならともかくそんな人族がいるか!!」
「いやあの…ここにいるんですけど…」
「奴隷のくせに適当な嘘をつくな!」
くっそ…なんだよこいつ、同じ人族だろがもっと優しくしろ。
と思っていたら黙っていたもう一人の門番が俺に質問してきた。
「一人できたのか?仲間もなしに?」
「あー…仲間いたんですけど、途中ではぐれちゃって…もしかしたらここで会えるかと思って来たんですよ」
「そうか、それは大変だったな」
おや、こいつは優しさを持った正しい門番かな?
さりげなく門に近づく、通してくれるかもしれない。
「待て、何をさりげなく通ろうとしている」
だめでした。
こうなったら…これしかねえ!
「そこをなんとか、これでどうかひとつ…」
俺は背負っていた袋を門番二人に渡した。
「…ふむ?まあ、俺たちもバジャーのような心を持っているわけでもないしな」
バジャーのような心ってなんだよ、あいつに心なんかねえよ殺戮マシーンだよ。
「そうだな、あわれな旅人一人くらいは見逃してやろうか」
ふうやったぜ…賄賂が効いたか…
いそいそと門を通ろうとする俺。
そして門番二人が袋の中を調べる。
「肉と芋しか入ってねえじゃねえか!!」
「馬鹿にしてんのか!」
「い、いえそれ結構美味しいんでお二人でどうぞ良ければ食べていただけたらなと…」
「他に何かあるだろ、こういうときはさぁ!」
「すいませんそれしか持ってません」
「身分証もないのか」
「無いです」
門番二人はあからさまにめんどくせえなぁこいつ…という顔で俺を見た。
そして燻製肉を食った、結局食うんじゃねえか。
「あ、結構美味いわこれ」
「確かに、じゃあいいよもうお前通って、言っとくけど街の中で面倒事起こすなよ、起こした時は門じゃないところから勝手に入ったって言えよ」
すがすがしいほどのクズどもだ。
でもまあアホみたいな二人のおかげで街に入れそうだ。
俺は「へへ、どうもすいませんねぇ」とか言いつつぺこぺこしながら門を通り抜けた。
ついに来たぞサイプラス…!
でも一文無し…まずは…冒険者ギルドに行ってみる…か…?
アホ門番にこれ以上関わりたくないのでこの先は街の人とコミュニケーションを取って行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます