第217話 やらかして逃げる

 さて急いで猫人族の村を出発し、水の女神ウェリケのいる湖を目指さねばならなくなったのだが、旅立つ前にいろいろやるべきことがある。


「おじさん、せっかく会えたのにもう行かなきゃいけないんだね…」


 シンタロウはかなりガックリきていた、俺も残念ではある。

しかしシンタロウから見えない位置にいるメス二匹が俺が村を去ると知ってガッツポーズをしているのでそれを見てしまった俺はこういうときどういう顔をすればいいかわからないの。


「アイラちゃんのこと…」

「ああ大丈夫、うまくやるから、んでいろいろ片付いたらまたここに来れることもあるだろうから」

「そうだね、また会えるよねきっと」


 ということでシンタロウは俺との別れを惜しみつつも納得してくれた。

二人で和食の修行とかやりたかったんだがまあそれはまた今度にする。


 森の中を歩いて守り人の集落まで戻ってきた。

村人や守り人が集まって休憩中だった、マーくんはいない、たぶん昼飯食いに村に帰ったと思われる。

俺はとりあえず村人と守り人を集め、急に旅立つことになったので後はよろしく的な挨拶をした。


「え、先生いなくなるんか!?」

「今先生がいなくなったらこれどうすりゃいいんだ!?」

「頼むよ先生!もうちょっと、あと10年くらいはいてくれよ!」


 めちゃ騒ぎ出した、村人のいう「これ」とは道づくりのことだ。

あと10年もいねーよ、それはちょっとじゃねーよ、なげーよ。


 騒ぐ村人たちの中から守り人の一人が俺に近づいて来た。


「それは…今日中には出ていくということなのか?」

「まあそうだな、時間がないんだ、簡単に説明するとさっきオフィーリアと話して来た結果、三日以内ににここからだいぶ東のほうにあるワビ湖ってところへ行かなきゃならなくなった」


 ちなみに湖の名前は地図に書いてあった、女神直々にちゃんとカタカナと漢字混じりで。


「ワビ湖って…ここから歩いて20日はかかるぞ!?三日じゃどう考えても無理だ!」

「俺たちがここまで乗って来た乗り物を使えばたぶんなんとかなる」

「そこまでの乗り物なのか…魔動車というやつは…」


 魔動車のことは俺と関わりあるやつらは全員知ってる。

だって見たことあるやつはほぼ確実に「あれなんだ?」と俺に聞いてくるし、見てないやつも魔動車がどうたらって話をしてたら「魔動車ってなんだ?」と聞いてくるのだ。

何度、乗り物ですよって説明をやらされたことか。


「オフィーリア様に言われたのならば引き止めるわけにもいかんな…」


 まあ行けと命令されたわけではないけどね、自主的に行くんだけどね。

そこは勘違いしてくれていたほうが好都合なので俺からは特に何も言わない。


「だが無念だ、あと少しで道が完成したんだがな…」

「あー…それって俺がいないと無理なのか?最近怪我人もいなくて俺もう特にいらないかなと思ってたんだけど」

「貴方がいることに意味があったんだ、どんな怪我をしてもあっという間に治るとわかっているからこそ皆作業に集中できた、魔物にも必要以上に恐れることがなかったんだ、しかし急に貴方がいなくなるとなればもうこれまでのようにはやれないだろう…」


 うーん、今まで安心感に溢れすぎていたせいで反動がでかくなってしまったか…


「何言ってんの!その程度のことでへこたれるなんて…あんたらそれでも守り人なの!?」

「そうですよ!普通そんないつでも怪我を治してくれる便利な人なんかいないんですよ!自分たちだけの都合でこの人をここへ縛り付けようとして、恥ずかしくないんですか!」


 カズラとシレネが突然、俺を擁護するように叫んだ。

さすが自分たちの都合で俺を追い出そうとしているだけのことはある。

何て嬉しくない援護射撃なんだ。


「い、いや確かに君たちの言う通りなんだが…」


 守り人の男もそれを見守る村人たちもたじたじだ、まあ正論言われてるからな。


「んもーしょうがないわねー、じゃあこいつの代わりに私たちが手伝ってあげるから!」

「ええ、作業する村人の護衛くらい私たちもできますから」

「それは嬉しいが…やはり怪我の治療ができるかどうかが問題でな…」

「魔物に襲われたらマサヨシを盾にすればいいから!」

「ええ、死ぬまで使えて自動で動く盾です、便利ですよ」

「俺二人からそんな風に見られてたのかよ!?」


 盾もといマサヨシは、カズラとシレネの言葉を聞いて既に虫の息であった。

これでは使い物にならんよ、というかマサヨシ一人で村人全体をカバーすることは不可能だろ。


「おじさんの魔法の木があれば…」


 …あ、そうか、<ヒーリング・ツリー>を生やして行けばいいのか。

今までずっとナインスのところに生やしてたからもう使えない魔法だと思い込んで脳内から消去してたけど、ナインスたちがあの館からいなくなるのなら使っても構わないよな。


「いい事言ったぞシンタロウ、早速その案を採用しよう」

「えっ?ここにもあの木を生やせるの?」

「その通り!よーし早速やるか、おーいみんなー!これからでかい魔法使うので注目ーそして落ち着いて聞いてー」


 皆を集めているこの広場ならば遠慮なく<ヒーリング・ツリー>を使えるだろう。

周りに特に邪魔になるものもない、ブチ抜いて怒られる天井も床もない。


「危ないかもしれんからとりあえず全員俺の後ろへ移動して」


 なんだなんだとざわつきながらも全員が俺の後ろへ移動して広場を開けてくれた。

なんかタマコだけ俺の肩によじ登ってきたがまあいいわ別に。

こいつ俺が出ていくって話をしてるのに特に反応無かったからどう思ってるのかさっぱりわからんかったがこうして無言でよじ登ってきたのはやはり寂しいからなのかもしれない、今は好きにさせてやろう。


 さてそれでは早速魔法を、と思った所でふとマーくんの言葉を思い出した。

俺の魔法が強くなってるってやつだ。

実感ないのであんまり気にしてなかったが…


 この際フルパワーでやってみるか?

前の<ヒーリング・ツリー>は途中で止まれって必死に念じて無理やり成長止めたけど、レベルアップした俺が<ヒーリング・ツリー>をフルパワーで使うとどうなるのか少し気になる。


 …やるか、超高性能な<ヒーリング・ツリー>ができるかもしれない。

それがあれば俺がいなくなっても村人は安心して作業できるだろう。


「<ウェイク・マジック><ホーリー・ライト・フィールド>」


 まずいつものやつで基礎魔法力を底上げ、続いて辺り一帯の地面の属性を光に変更。

これをやると設定した範囲内で使う光魔法の威力が増加する、しかしデメリットもあるので今まで封印していた。

デメリットとは闇魔法はこの範囲内では弱体化する点だ、普段俺の周りにいるアタッカーはマーくん闇、アイラ闇の闇しかいねえよ状態なので使うに使えなかったのだ。

まあそれ以外の理由でも使えない魔法がまだあるんだけどね…もしかしたら神に怒られちゃうかもみたいな感じのやつとか…まあそれはいいや、使わなくてもなんとでもなってるし。


「ついでに<メンタル・ブレイカー><バースト・マジック>!」


 ここぞとばかりさらに強化魔法を重ねてみる、<メンタル・ブレイカー>は魔法防御力の値を一時的に魔法攻撃力に加算できる、でもその代わり魔法防御がゼロになるから普段使わない。

そして<バースト・マジック>で次に使う魔法の威力を倍にする。

瞬時に二回魔法を使う<ダブル・スペル>はいらねえかな…二本生やせたとしても<ヒーリング・ツリー>の設置数制限にひっかかってどうせ一本消えるだろうから。


「ちょ、ちょっとアンタ何やってんのよ…体が光ったり地面が光ったりしてるんだけど…」

「強化魔法…?しかしどれも知らない魔法です…なんなんですか今の魔法は!全部無詠唱でしたよね!?説明してください!」


 後ろでごちゃごちゃ言ってるやつがいるが気にしねえ!

そして効果を説明する気もねえ!

なぜならほわオン内でこれらの魔法は<ヒーリング・ツリー>に対して意味ないからだ!

あれは誰がどんな状態で使おうと、微弱な効果量の変わらない回復魔法を周囲に放つ木が生えるだけの魔法なんだ!

つまり俺が自分の能力を高める魔法を用いた下準備は何の意味もない可能性がある。

意味なかったら恥ずかしいので説明もしない。


 なんでそんなことをしたかって?

それはここがほわオン、いわゆるゲームの世界ではないからだ。

だから気合入れてやれば効果あるかもしれないような気がした、ただそれだけ!


「よっしゃああいくぞおおお<ヒーリング・ツリー>!!!」


 …ゴゴゴゴゴゴゴゴ。

おや、なんだか地面が揺れますね、地震かな?


 ボゴッ、メキメキメキメキッ。

物凄い勢いで地面から木が生えてきた。

あと生えてきたやつが異常なスピードで成長している、縦にも横にも。


「うわあああああああっ!?」

「なんだこりゃあああああ!!」

「にっ、逃げろおおお!ここにいたら巻き込まれるぞおおお!」


 俺の後ろにいた人たちが一斉に逃げ出した。

タマコだけは俺の肩の上で「すげーーーー!」と叫んでいるので逃げてない。

俺は少しずつ後ずさりをしている、何か思ったより幹が太くなって目の前まで迫ってきたので。


「おっ、おじさん!?これ、あの時と全然違うよ!?」


 おおシンタロウ、お前も逃げていなかったのか。


「本気だしてみた」

「出し過ぎだよ!?もう既に広場に収まりきらなくなって、向こうのほうに生えてる木をなぎ倒してるよ!!」


 おっといかん、オフィーリアのいる神樹のほうへ続く道に被害が拡大している。

やりすぎた感があるな。


「止めた方がいいかな?」

「と、止めないと…もう上のほうなんて葉っぱしか見えないよ…」


 本当だ、空が見えない、メタセコイア風の木なので花粉がすごいことになりそうだ、もう止めとこう、止まれー止まれー。


 ズズズズ…ズズ…ズ…と音を立てつつゆっくりと木は成長を止めた。

これはたぶん神樹に次ぐ巨大さになってしまったのではなかろうか。

まああれと比べたら可愛い物か、許される範囲だな。

幹の太さも大人20人くらいで手をつなげば一周できそうな程度の太さだしセーフだろう。

神樹なんか近づくと巨大な壁にしか見えないからな、何人いれば一周できるやら不明だ。

ただ今後はフルパワーで設置系魔法を使うのはやめようと思います。


「のぼってきていいか!?」

「やめなさい、たぶん降りられなくなるから」


 木に登ろうとするタマコを捕まえて、逃げてった皆に「おーいもう平気だよー」と言いつつ近づいて行く。


「あああ、あの木は一体何なのよ!?説明してよ!!」


 皆の代表みたいな感じでカズラが俺に掴みかかって来た。


「えー、あの木はですねー、俺の代わりに今後村人を治療してくれる木となっておりまして…」

「意味わからないんだけど!?木がなんでアンタの代わりになるのよ!」

「何でと言われましてもそういう木だとしか…」

「それは、あの木が回復魔法を使うということですか?」


 おっ、シレネのほうが物分かりが良さそうだな、こいつに説明しよう。


「そういうこと、と言っても意志を持って<ヒール>とかをしてくれるわけじゃなくて、周囲にいる人に対し自動的に<リジェネレイト>っていう傷がゆっくり治っていく魔法をかけてくれるんだ」

「…無茶苦茶なことを言ってる気がしますが、とりあえず効果時間はどの程度ですか?」

「効果時間?さあ…周囲にいる限り、永遠に<リジェネレイト>かかると思うけど…」

「永遠!?待ってください、じゃああの木はずっと生えたままなんですか!?一時的に魔法で出来た物体ではなくて!」

「ああそっち?そっちの時間か、まあそうだよ、あ、でも俺が死んだら消えるかもしれないので永遠ではないかも」

「貴方が生きてる限り続いてる時点であり得ないですよ!」

「え、そうかな…守り人たちが土魔法で作った石壁とかもずっとあるし別におかしくないのでは…」

「「「あんなのと一緒にするな!!」」」


 なんだ、全員から否定されたぞ。

石は良くて木はだめって…差別良くないよ。


「おい…やべえぞこれ、マジで傷が治った…」


 マサヨシが自分の腕を眺めて妙な顔をしていた、あいつ怪我してたのか?


「皆、よく見てろ」


 何をするのかと思いきやマサヨシは自分の剣を使い、自分の左腕を軽く切った。

ブシュッと血が出る、見てる人たちの一部からは「ヒッ」と悲鳴が上がった。

いきなり自分の腕切るとか馬鹿なの?マゾなの?


 マサヨシの腕の傷からはすぐに血が止まり、じわーっと逆再生のようにゆっくりと傷が塞がりはじめ、大体2分くらいで元の腕に戻った。


「ヴォルガーが言ってるのは嘘だ」

「えっ!?今治ったじゃん!皆も治るとこ見てたやん!?」

「これはゆっくり治るって言わねえよ!!すぐ治るって言うんだよ!!」

「いやそれは俺の魔法に比べたらゆっくりという意味で…」

「おめえはどうなってんだよおおおおお!!」


 その後もなにかいちゃもんをつけられたが、とりあえず俺がいなくなってもここにいれば怪我が治るということだけは皆理解してくれた。


 そして<ヒーリング・ツリー>に近づいて、はーありがたやありがたやとベタベタ触って後利益を感じてるのかどうか知らんが、皆が木に夢中になっていたので俺はその間に村へ帰ることにした。

何かろくに別れの挨拶もしてないけど別にいいや。


 そそくさとその場を離れる俺と肩に乗ったままのタマコ。

シンタロウも着いてきてるので当然のごとくカズラ、シレネ、マサヨシも着いてきている。

道中シレネがしつこく魔法のことを聞いてくるのでつい<ウェイク・スピード>ありのダッシュをしてしまった。

気づいたら俺とタマコだけが村に着いてた。

他の連中は途中で振り切ってしまったもよう、すまぬシンタロウ。


 で、村のほうでもなんか人が集まってざわざわしていた。

長老も家から出てきて「なんじゃーありゃー!」と守り人の集落がある方向に見える森から突き出た大木を指さして腰を抜かしていたので、長老には声をかけずシンタロウ家に急いだ。

いや本当は別れの挨拶くらいする気だったけど木のこと聞かれたらまた説明に時間かかりそうなので、今急いでるのでもういいかなと思って放置した。


 シンタロウ家の前でもアイラとディーナとマーくんが揃って俺の生やした<ヒーリング・ツリー>を眺めていた、こっからでも見えるんだな。


「ヴォルるん、タマちゃん!さっき地面が揺れたんだけど大丈夫だった!?」

「うん、すごかった、面白かったなー」

「ごめんそれ俺のせいなんだわ」

「何やってたの二人とも!?」


 ディーナはあたふたしていたが、アイラとマーくんは落ち着いていた。


「やっぱりあの木はヴォルさんの仕業だったんですね」

「あれを見た瞬間そんな気はしてたがな」


 ふうさすが一度<ヒーリング・ツリー>を見てるだけあって話が早い二人だ、助かる。


「ってのんびりしてる場合じゃないんだ、ウェリケのいる場所がわかった、そして急いでそこへ向かわないと行けなくなった」


 俺はオフィーリアとのやり取りで知った情報を三人に伝え、急ぎ出発の準備をするよう頼む。

そして自分の荷物をまとめなきゃならんのでタマコを一旦地面に降ろす。


 シンタロウ家に入り各自が荷物をまとめていると「タマコーあんたぁ大丈夫だったかい!?」と外でカヨさんとタマコが話してるだろう声が聞こえてきた。


「そうだわ、ナナちゃんたちは揺れがあったときビックリして向こうの家に帰ったの、もう何も起きないから平気だって伝えてこないと」


 ディーナがそう言って外に出て行った。

やべ、なんか思ったより各地で混乱を与えてしまっている。

軽はずみな思い付きでフルパワーを出してごめんなさい。


 そうして荷物をまとめ魔動車にぶち込んで一通り準備が終わった頃、その場にはタマコ家の皆さんと、ぜーはー言いながら帰って来たシンタロウたち一行が集まっていた。


「マーくん!もう行っちゃうなんて嘘だろ!?」

「マーくんがいなくなったらダークサーバントはどうなっちゃうんだよ!?」

「マーくん…目から汗が止まらねえよ!?」


 三馬鹿が泣きながらマーくんとの別れを惜しんでいた。

マーくんは木刀とか邪魔なもんを全部三人に押し付けながら「ダークサーバントは永遠に不滅だ」とかなんとか言ってよくわからんドラマを繰り広げていた。


「ディーナお姉ちゃん、アイラお姉ちゃん…またきてね…」


 ナナコがカヨさんとタケオさんに挟まれながらディーナとアイラに挨拶していた。

こちらもやはり泣いていた、ぬいぐるみを抱きしめながら。


「うああああんティアナちゃんはおいてってええええ」

『ソーリー、私はヴォルガーと共に行かねばなりません』


 ミミコは魔動車にしがみついて大泣きしていた。

…なんかあの子異常に魔動車に興味を示してたから、ティアナに会話許可を出したんだよな。

知らぬ間にあんな関係になっていたとは…

ミミコには悪いがそれが無いと俺たち旅立てないんで…おいてはいけないな…


「お、おじさん…げ、元気で…」

「ああ、あの…あんま無理すんな?」


 シンタロウはぜーはー言いながら俺にそれだけ言った。

そっちの元気が心配になるが俺のせいで全力疾走させてしまったようなので下手なことは言えなかった。

マサヨシはカズラとシレネに水持ってこいと言われて俺に何か言う暇はないようだった。


 いろいろあるがいつまでも別れを惜しんでいられない。

皆に向かって「今まで本当ありがとう!お世話になりました!」と挨拶して最後の別れにした。


「じゃあ行ってきます!お元気で!」


 マーくんは漆黒号にまたがり、それ以外の面子は魔動車に乗り込む。

さーよおーならーと窓から手を振りつつ、出発しようとしたのだが。


「お前はなんで乗ってるの?」


 いつの間にか当然のように後部座席にアイラと一緒に乗っていたタマコ。


「え?これから出かけるんじゃ?」

「うん、出かけるけども、お前の家はここでしょ?」

「そうだよ?」


 だからなに?と言った感じでタマコが聞き返してくる。

ん?微妙に噛み合わないこの感じ、なんだろう。


「タマコはひょっとしてちょっとお出かけする程度にしか考えてないのでは…」


 アイラがそう言ってようやくタマコのこれまでの態度がなんだったのか理解できた。


 こいつあれだ…俺たちがウェリケに会ったあと、またここに帰ってくるのだと思い込んでやがる…

俺たちは用事がすんだらサイプラスを経由してコムラードに帰る予定なのに…!

それを理解してないからお別れという意識が全くなかったんだな!

だからいつも通り平然としたツラで俺の肩の上とかに乗っかってたわけだ。

いや周りの反応見て気づくだろ普通!?

ナナコとミミコですら理解してたんだぞ!?


「あの…タマコさん、俺たちこの村には戻ってこないですけど…」

「え!?なんで!?」

「いや用事が済んだら家に帰るので…」

「家ここだよ!?」

「お前の家はな、俺たちが住んでたのはあれシンタロウの家だからな?」

「え…じゃあ…え…?ヴォルガーたち、帰っちゃうのか?」

「はい」


 事態がようやく飲み込めたタマコはしばしポカンとしたあと、頭を抱えてうぐぐぐぐと悩みはじめた。


「タマちゃん…私たちと一緒に行きたいの?」

「行きたい」

「でも、そうしたら家族とまた離れ離れよ?それにずっと捜してようやく会えたシンタロウ君とも…」

「あーーーーっ!どうしたらーー!」


 そこまで俺たちと一緒に行きたかったのか。

ついてきてくれたら正直言えば嬉しい。

なんだかんだこいつがいると賑やかだからな…

いざってときは頼りにもなるもんな…


 でもタマコのためにも、俺はあることを言おうと思う。


「タマコよ…お前このままだと、あの二人にシンタロウを取られるぞ」

「あの二人…?」

「窓の外、見てみろ」


 タマコが窓の外を覗く、そこにはシンタロウにべったりくっつくカズラとシレネがいた。


「あいつらーーっ!」

「このままでいいのか?」

「よくない!」

「じゃあちゃんとシンタロウの傍にいろ」

「………わかった!」


 俺はティアナに行って後部座席を開けさせる。

タマコはそこから飛び出してカズラとシレネを蹴散らしに行った。


 その隙に魔動車を発進させた。

マーくんもバイクに乗って後をついてくる。


「ヴォルガーーーアイラーーディーナーーーマグナーーーティアナーー!!!」


 後ろでタマコの叫び声がした。


「まだにぐいっじょにたべおおおおおおお!」


 助手席と後部座席から鼻をすする音が聞こえる。

俺は二人の代わりに窓から手を出して振っておいた。

バックミラーにはこっちに向かって手を振り続けるタマコがうつっていた。


 ったく…ばかやろう、ティアナは肉食ったことなんかねえのにさ。


 またな、タマコ。

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