第216話 神は万能ではない
オフィーリアほんとどういうことなの?
前に会ってから今日で一週間だと言うのにこれまで一切リアクションなし。
一応さあ守り人の集落にある簡易診療所という名の小屋で、シンタロウとトークを繰り広げつつ待ってたんだけどさあ…
何も無いよ?てっきりドリアードか守り人あたりを仲介して、何かしら連絡があるのかと思ってたのに。
何も無い上にもう怪我人もほとんど出なくなってきてて、あまりに暇だからずっとシンタロウと喋ってたおかげでカズラは暑がりでシレネは寒がりとかよくわからんどうでもいい情報まで知ってしまったよ?
ついでにカズラの悩みは尻が大きくなってきてることで、シレネは胸が大きくならないことらしい。
俺なら的確なアドバイスができるのではと考えてシンタロウは話してくれたみたいなのだが思うにそれはプライベートな情報なのでほいほい喋っちゃだめなやつではなかろうか。
余計なことを知ってしまったので、俺は二人の脂肪分の量の差がそのまま暑がり寒がりにつながっているのかな?と想像してしまったよ。
そんな女性の悩みについて聞かれても「俺は女でも全知全能の神でもないからちょっとわかんないな」と言う他なく、ていうか仮に的確なアドバイスをしたら俺がその情報を持っていることがあの二人に伝わってしまうことになるので何か知っていたとしてもやはり俺には何も言えなかっただろう。
だと言うのにシンタロウがうっかりを発動して、そう言えばミュセさんも胸のことで…とどこかのレズエルフの情報を喋ろうとしたときタイミングよく守り人が戸を叩き小屋へ入ってきたので俺はさらに知ってはならない情報を知らずに済んだ。
守り人は定期的な見回りついでに立ち寄っただけだったが、俺はついでに今日の昼休憩を早めにしてくれるよう彼に頼んだ。
皆がここに集まって休んでる間にぱぱっとオフィーリアのところへ行ってこようと思ったのだ。
小屋の中でだらけて昼寝するだけの存在になりつつあるタマコを起こすと、シンタロウと守り人と共に小屋の外へ出た。
そして守り人に昼休憩の合図をしてもらい、その辺にあった適当な木に話しかけてドリアードを呼び出した。
何かもう最近俺でも呼べば出て来るんですよねドリアード。
たぶん変身してないだけでそこらじゅうの木に普段から宿ってるんだと思う。
シンタロウは俺がドリアードを普通に呼び出してることにいたく感動していた。
これからオフィーリアのとこ行くよと言うとさらに感動していた。
少年の期待を裏切るわけにはいかないので早速オフィーリアの元へレッツゴー。
したいというのにタマコがふらふらと自由行動を取ろうとする。
お前一応護衛役なんだから一人で勝手にどこか行こうとするんじゃないと呼び止め、改めてゴー。
道中シンタロウは「剣は持ってきてるけど革鎧は着てないよ?どうしよう」とおろおろしていたが、俺なんか常時そんなもん身に着けてないし、タマコに至っては上は半そで下は短パンだ。
魔物がいる森であろうと完全にピクニック気分の俺たちであるが魔法があるので別にどうということはないとシンタロウに伝え、さらなる尊敬ポイントを高めることに成功した。
いや別にシンタロウから「すごいなー」と言われたかった訳でもないのだが、俺が何かするたびにいちいち尊敬して褒めたたえてくれるので気分は良い。
よって無意識に尊敬ポイントなる得点を心の中で設定してこつこつ稼ぐ俺がいるのだ。
で、特に魔物に遭遇するアクシデントもなくオフィーリアのいる木の元まで来た。
ドリアードが結界を解き、早速中へ行こうとするとまたタマコが何がしたいんだか「魔法かけて」と俺に<ウェイク・スピード>をおねだりしてきた。
「目的地についた今なぜそれを言うのか」
「マサヨシたちと遊んでくる」
「うん…うん?急いで村に帰る気なの?一人で帰られると俺たちが帰るとき困るんですけど?」
「大丈夫、この辺で遊ぶだけ、ここでヴォルガーたちが出て来るの待ってる」
意味不明なことを言うタマコになんかもう面倒くさくなったので<ウェイク・スピード>をかけてやった。
どうせこいつ一緒にオフィーリアのとこ連れてっても暇を持て余して寝るだけだし、この付近からいなくなる訳ではないのなら好きにさせることにした。
ドリアードも結界を解いたまま、入るの?入らないの?どっちにしろはよして、と喋ることができたならばそんな風に言いそうな顔をしていたのでこれ以上ここでぐだぐだするのはマイナスでしかない。
なのでタマコを放置してシンタロウと二人、木の中へ入る。
「本当にタマコちゃんだけ置いてきてよかったの?おじさん」
「タマコは俺の魔法なしでもこの森にいる魔物を素手で倒せるんだぞ」
「じゃ、じゃあ心配ないね…」
心配あるとしたらゴキさんクラスのやつがまた来た時くらいだが、その時はさすがにタマコは逃げるだろう、アイラの厳しい躾を出会い初日に受けて以降、タマコは無謀な戦いは挑まないということをしっかり学んでいるのだ。
「おじさんは、オフィーリア様にウェリケ様のことを教えてもらいに来たんだよね?」
歩いているとシンタロウがそう質問してきた。
「ああ、まあちょっとどうしてもそのウェリケとやらに会わなきゃいけない用事ができてな…居場所がわからんので同じく女神であるオフィーリアに聞きに来たんだよ」
「そうなんだ…」
たぶんシンタロウはその先、俺がどうしてウェリケを捜してるのかについても知りたいのだと思う。
無理に聞いてこようとしないのはシンタロウなりの遠慮なのだろう。
別に教えてもいいんだけど…ただシンタロウは小屋でのトークからしてもわかるように隠し事が全くできないタイプである。
あまり広められたくはない内容なのでほいほい喋られるとちょっと困っちゃうんだな。
しかし何も教えないのも可哀想なので、ある程度のことをシンタロウに伝えることにした。
「ウェリケを捜してる理由だけどな」
「うん」
「実はアイラに関係がある」
「アイラちゃんと?」
アイラは闇魔法が使えるんだけどたまに制御不能で暴走しちゃうのでどうすればいいかな!というのをオーキッドにいる時に火の女神であるイルザに相談したら「自分は馬鹿なのでわからないけどウェリケなら解決策を知ってる」と教えてくれたのでウェリケを捜しているんだよ。
こんな感じでシンタロウには説明してみた。
大体あってる、イルザが馬鹿なことも含めて。
「アイラちゃん闇魔法使えたんだ…」
「あーそこ初耳だったか、それはシンタロウと別れた後に使えるようになったんだよ」
「でもいろいろ大変なんだね、魔法が使えてもいいことばっかりじゃないんだね」
「そうだよ、光魔法なんか使えたら治療のために無理やり盗賊に拉致されたりすることもあるからいいことばかりじゃないんだよ」
「あはは、それはナインスさんのこと?」
「そうとも言う」
ナインスも今頃どうしてんのかな、まだあの館で元気にやってるんだろうか。
ふと気になったのでその辺の事情をシンタロウに聞いてみた。
「あそこにはたぶんもういないと思う、ぼくが出ていくときナインスさんもその内ここを引き払うことになるだろうなって言ってたから」
「ああそうなの…まああそこで暮らしたら野生化が進む一方なので街に住めるならそっち方がいいだろうな」
もしかしたらコムラードで暮らしてるのかもしれない、ラルフォイなら上手くそこら辺なんとかしてくれそうだし。
と、ぺちゃくちゃと喋ってる内にオフィーリアの神殿についた。
シンタロウはそこでも感動して神殿を眺めて「すごいなー」と言っていた。
俺はというと、オフィーリアになんて言ってやろうかと考え、ここはビシっと「おらおらー約束の期日は今日までじゃろがいーどういうことなんじゃいー」と借金取り立て風に行こうかと思ったがよく考えたらお願いをしてるのはこっち側だったのでそれは少し違うかもしれない。
まあ下手に出つつも聞くべきことは聞けばいいか…
「そんな、せめてあと三日は待ってください!」
あれ、取り立て風の脅しをするまでもなく神殿の奥からそんな声が聞こえてきた。
オフィーリアだ、あいつどこかに借金があるんだろうか。
オフィーリアの元まで行くと彼女は相変わらずの体勢で、なんか台の上にある洗面器というか桶に向かって何事か会話していた。
何に対してお願いしてるのそれは。
「あのー、取込み中?すいませんが、お話があって来たんですけども」
「え?ああヴォルガーさんでしたか」
とりあえず気づいてもらえたのでシンタロウのことを一応紹介しておいた。
シンタロウは緊張でガチガチに固まっていた、オフィーリアも下半身が埋まってガチガチに固まってるからおあいこということで、と小粋なジョークを飛ばしたらオフィーリアには冷たい目をされた。
場を和まそうと思っただけのに。
「ところで今誰と喋ってたんだ?」
「ウェリケ姉さまです、もう通信を切られましたが…貴方が来てくれてちょうどよかったかもしれません、渡す物があるのでこちらへ来てください」
近づいてみるとオフィーリアが話しかけていた桶には水が張ってあった。
その中になぜか方位磁石みたいな丸くて回転しそうな針が中央についてる物体が沈んでいて、オフィーリアはどうもそれを介してウェリケと会話していた様子。
オフィーリアはその方位磁石を水から取り出すと、俺に手渡してきた。
「これはウェリケ姉さまの使いである水の精霊ウンディーネから渡された物です」
この一週間、オフィーリアはさぼってたわけではなくてマグノリア各地にドリアードを派遣し、池とか湖とか水のある場所に住む精霊ウンディーネからウェリケの所在について調べていたようだった。
イルザみたいに魔法でぱぱっと通信できないらしい、なんか思ったより大変なことやってたので「それはどうもありがとうございます」と丁寧に礼をしたが実際働いてるのはドリアードだったのでどうなんだろうという気持ちはある。
こいつはここから一歩も動いてない、まあ部下をねぎらうのは上司の仕事なのでドリアードの慰労についてはとりあえずオフィーリア任せでいいか。
で、渡されたその方位磁石っぽい物体の赤い矢印の先にある湖に今のところウェリケは滞在しているらしい。
つまりこれを手掛かりにその湖を目指せということなのだが。
「あのそれだけだと非常にわかりづらいというか、距離感も不明というか…」
「そう言うと思って地図も用意してあります」
おお!やるじゃない!仕事できるタイプの女神だ!
「これがマグノリアの地図です、今ここで、湖はここです」
「…お、おう」
地図…ざつぅ…
A4用紙くらいの紙に書かれた地図はもうなんというか、雑過ぎるとしか言えなかった。
手書きなんだが、真ん中にでかい木が書いてあって、それはここだとわかるんだけどあまりに主張してるその木のイラストによって地図上部は地図の意味をなしてない。
木の葉で地図上部を塗りつぶしてどうする。
まあ最悪そこは関係ない場所なのでなんとかなりそうではある。
問題の湖はこの地から南東方向だ、南東と言ってもかなり東に行く感じに見える。
ただ縮尺とかがさっぱりわからんので具体的な距離は不明だ。
冒険者ギルドで貰った地図とかのほうが遥かにクオリティが高い。
「この地図は誰が描いた?」
「私ですが?地図がどうかしましたか?」
「あ、いえ…わざわざ女神直筆の地図をどうも…」
「いいんですよこれくらい」
実につっこみづらい物体なので黙って受け取るだけにした。
あとついでに方位磁石っぽい物体は水につけてないとちゃんと方角を示さないので気を付けるようにも言われた。
「でも…今から行って間に合うかどうか…」
「んっ?んっ?時間制限付き?」
「ウェリケ姉さまは、そろそろその湖も飽きたので違うところに行こうかなと言ってまして」
「次はどこへ?」
「わかりません、大陸の中ならいいのですが空中庭園や海底などに滞在されるとどうしようもなくて…」
空中庭園てあれかな…俺がアイシャと暮らしてたような空に浮かぶ島のことかな…
そこに行かれたら確かにどうしようもない、海底もどうしようもない。
フリーダムすぎるぞウェリケ。
「なのでその湖で待っていただくようにお願いしていたのです」
「それがさっきの三日がどうとかか…」
「はい、本当はヴォルガーさんたちがたどり着くまで待っててほしいのですが、何かに拘束されるのを極端に嫌がる女神なのでそういう風にお願いすると黙って移動してしまう可能性があったのです」
「我慢できて三日くらいってこと?」
「三日くらいならたぶん…なんとか待ってくれると思いまして…一応先ほどの会話の最後にはわかったと言ってはいました」
三日か…オーキッドからここまでの距離と地図に書いてあるオーキッドまでの距離を元に考えれば、魔動車を飛ばせばなんとか三日以内にたどり着けるかもしれない。
オフィーリアなりに大分頑張ってくれたようなので後はこちらでなんとかするか。
「わかったよ、急いで出発すればなんとかなるかもしれない、いろいろありがとうな」
「なるべく急いで下さい!本当に三日待つかどうかも怪しいので!」
「あのもう創造神に神の採用基準に今後は忍耐強さを考慮するよう進言しておいて」
「む、無理です…私などが創造神様に意見などできません…」
ええい、これだから神は!神株式会社はブラックって言われるんだ!俺の中で!
株式かどうか知らんけど!
ともかく一刻も早く戻って出発の準備をしなくてはいけなくなった。
オフィーリアに別れを告げ帰ろうと思ったところで硬直したままのシンタロウが目に止まる。
「あのシンタロウ…帰るけど、せっかく来たからなんかオフィーリアとしたほうがいいんじゃない?握手とか?」
「え、あ、じゃあ…ええと…あ、そうだオフィーリア様!」
「はい、なんですか?」
「女性の胸をおお」
「いやいやいやちょい待ってシンタロウ?何?どうした?何言おうとした?」
予想外の言葉が飛び出てきたのでシンタロウに一旦ストップをかけ、何を言おうとしたのか小声で報告するように命じた。
「え…その…シレネさんとカズラさんの悩みについて相談しようと思って」
「なんで今その相談をしようとした?」
「おじさんが女でも神様でもないからわからないって言ってたから…オフィーリア様は女の人で神様だからわかると思って…」
「なるほどー、でもその質問はやめとこうか、女性に対してあまりしていい質問ではないからね」
「そうだったんだ…でもそれならこの悩みは一体どうしたら?」
「それはなシンタロウ、当人が自力で解決するべき問題なんだ、二人が悩みを打ち明けたのはシンタロウに問題を解決してほしいからではなくて優しくしてほしいから、ただそれだけなんだよ、女は大体そう」
「そっか、やっぱりおじさんはなんでも知ってるね」
シンタロウは納得してその質問をオフィーリアにするのは取りやめにしてくれた。
心優しいシンタロウを神の怒りに触れさせるわけにはいかない。
「あのーなんだったんですか?」
「いやなんでもないんだよ、ちょっとこの子緊張して上手く言いたいことが言えないから質問はまた今度来た時にするのでとにかく俺たちは帰ります」
「そ、そうですか…」
俺はシンタロウを連れて颯爽とそこから去り、木の外へと出た。
シンタロウ的には会えただけで大満足なようなので問題はない、あ、ていうか加護もらえばよかったんじゃ?
まあ次でいいか、シンタロウが次行く機会があればそのお願いをするということで。
結界の外に出るとタマコがいた。
あとなぜかカズラ、シレネ、マサヨシの三名もいた。
疲れた様子で木にもたれかかり座り込んでいる、シレネなんか白目を剥いている、何があった。
「おかえり」
「いやおかえりじゃないよ、タマコ何してたんだよ」
「マサヨシたちが来たから一緒に遊んでた」
白目を剥くような遊びってなんだよ。
「三人もオフィーリアに用事があるのか?」
マサヨシに尋ねてみる。
「い、いや…なんつーか…俺たちはお前たちの後を追いかけてきただけなんだが…タマコにここで驚かされてな…」
「ああ俺に用事?それともシンタロウ?」
「いや、もういいんだ…とにかく今は村に帰りたい…」
「そうか、なんかごめんね?タマコの相手してもらって」
俺はタマコを手招きして呼ぶ、そして何をしたのか問いただした。
「びゅんびゅんしてマサヨシのパンツ脱がせておどかした」
「割と酷いな」
超高速で木々の間を飛び回り、マサヨシの隙をついて下半身丸出しにしたのか。
いじめですよそれは。
「こらっタマコ、そんなことして驚かせたらだめだろう、皆武器もってるんだぞ、魔物と勘違いされて攻撃されたらどうする気だったんだ」
「ちゃんと声かけてからやった」
「声をかければやってもいいという問題でもない、とにかく魔物も出るような場所で人を驚かすような遊びはよくない、ほらちゃんと皆に謝って」
「ぬうー、ごめんなさい」
「タマコが謝っただと…!?」
マサヨシが変な部分で驚いていた、タマコが謝るのは珍しいことなのか。
和解できたようなのでマサヨシたちと共に村へ帰ることにした。
シレネは白目剥いてたけどシンタロウが近寄って「大丈夫?」と体を揺すったらすぐ起きた。
起きたけどもう立てないとか言ってシンタロウに寄りかかりそれを見たカズラと喧嘩がはじまった。
元気あるやん。
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