第182話 狐人族の村
ヤナギと名乗った狐の巫女さんに案内され、俺たちは狐人族の村へたどり着いた。
竹やぶ…結構広かったから竹林てところか、あそこから割と近くに村はあった。
行方不明になっていたマーくんだが、竹林の中で無事見つけた。
村に行く前、俺が魔法で身体能力をフル強化して走ったらものの数分で終わった。
発見時に「ミーナが大量のハンバーガーを抱えてこの辺にいなかったか」とかなり意味不明な発言をしていたので一連の事情を説明したら「我を惑わしたやつを殺してくる」と殺意MAXになってしまったのでなんとか頑張ってなだめた。
「ふん、気に食わんやつらだ、村に来いといっておきながらなんだあの目は」
俺の隣で、村の中を歩くマーくんが右手に巻かれている包帯を外し始める。
おおい何封印解こうとしてんの?意味ない封印だけど。
「まあ歓迎されてないのは確かだろうね、でももうちょい我慢してくれ、ヤナギから猫人族の村までの道のりとか色々聞きたいから…封印はそのままで」
マーくんがまだイライラしている理由は、ヤナギの後ろを歩く俺たちのことを村人たちが「ようこそ!」じゃなくて「何だこいつら死ねばいいのに」みたいな目で遠巻きに眺めてくるせいだ。
敵意を向けられているとも言える。
オーキッドではここまでのことはなかった。
あっちじゃ基本的に生活区域がわかれてたし、ほとんど会わなかったのもあるけど、それでもたまに獣人族の姿を見かけることはあった。
そういう時はどうしてたかというとお互いスルーしていた。
俺からしたら珍しい存在なんだけど向こうからしたら多数いる人族の一人って感じなわけで、興味ないので特にどうもしないというのがオーキッドにいた獣人族のとる反応だった。
なので俺もそれに合わせた。
しかしここでは俺たち人族は珍しい存在であって、友人になれる存在でもないようだ、今更ながらロンフルモンに「正気ですか?」と言われた意味を理解した。
歩きながら村の中を観察する。
ここの住民たちの家は全部テントみたいなものだった。
遊牧民みたいなもんなのか?とヤナギに質問したかったが俺の背中に怯えるディーナがしがみついているので今聞くのはやめた。
アイラはいつも通り、割と冷静。
タマコはヤナギと一緒になんか喋りながら歩いている。
そして俺たちの後ろをぞろぞろとついてくる怖い顔の狐人族の人たち。
…こりゃ聞くこと聞いたらさっさと出てった方がいいかな。
村の入り口に置いて来たティアナと漆黒号もいたずらされないか心配になってきた。
何かあったらあのクラクションが盛大に鳴るからわかるけど…
「ここがわらわの家じゃ、さ、中へはいるがよい」
周りより一回り大きいテントの中へはいる、俺たちの後ろをついてきてた男たちも一緒にはいろうとしたが「来なくてよい」とヤナギに一蹴されて驚愕の表情で佇んでいた、やーい馬鹿お前らは外でいいんだよざまあみろ。
「ラン、茶と、それから外の者たちを家に帰らせておいておくれ」
テントの中には俺たち以外にヤナギより若い狐人族の女の子がいた、タマコと同じくらいの年だろうか、ヤナギみたいな巫女服を着ている。
「はいヤナギ様!こらアンタたち!覗いてないで帰って仕事しなさい!」
ランはお茶を入れる前にテントの外にいた男たちに怒鳴り散らしていた。
なかなか活発な子なようだ。
娘かと思ったが違うみたいだな…娘なら母親の名を様づけでは呼ばないだろうし。
教育方針の一環でそう呼ばせてるとしたらちょっと引くな。
「この娘はランという、わらわの後継者みたいなものじゃ」
冷たいお茶を配るランのことをヤナギはそう紹介した。
ランは物怖じしない性格なのか俺たちを見ても冷静に…いやマーくんの前にお茶を置くときはさすがにびびってたな。
「まずはじめに言わせておくれ、すまなかった、どうか…わらわたちを許しておくれ」
「ええっ!?」
唐突に頭を下げ謝罪したヤナギをみて真っ先にランが驚いた。
そして俺の前におこうとしていた湯飲みを手元でひっくり返す。
それが俺の頭に直撃した、うーんなんだろう、ゴボウ茶みたいな味がします。
「ラン!!何をしておる!!」
「ごご、ごめんなさい!」
「ああはい…いや俺もびっくりしたけど…なんで急に謝ったんだ?」
ヤナギは頭から茶をひっかけられても俺が大して怒ってないことに安堵したのか、ふぅと息を吐いて話をはじめた。
「そち…いやそなたらには、勝てぬと思うてな」
はあ、他の人らは全然そんな感じじゃなかったけどなあ、無言だけどやる気マンマンだったし。
「何を根拠に?」
「こうして相まみえてみればよく分かる、その男もそちらの幼子も…恐ろしい力を秘めておろう」
「ククク、なかなかわかっているではないか」
マーくんのご機嫌が上昇した。
アイラもなぜか満足そうにうなずいてる辺りこの二人の思考回路は似てるのかもなと思った。
「しかしわらわが最も恐れるのはそなたよ」
ランから布巾を貰って顔を拭く俺のことをヤナギは正面から見ていた、俺ですか?
この中で言えば俺はもっとも理性的で平和主義者の自信があるよ?
「わらわの香(こう)も魔法も通じぬ、矢を素手でつかみ取り、風のように走る男よ、そなたは一体なんじゃ?」
「なんだと言われてもな…名はヴォルガー、人族男性、年はさん…じゅう、独身です、趣味は料理です」
「そういう事を聞いているのではないと思いますよ」
アイラにつっこまれた、しかし他にどう言えと?
「それじゃ、それが一番恐ろしい」
「え、なに?どこ?三十独身だから?」
ヤナギは一呼吸おいてディーナを扇子で指した。
「わらわは戦いの中で二通りの顔しか見たことは無い、一つはそこなおなごのように怯えた顔」
後ろでディーナがビクっとする、まだ怖がってるのか。
「もう一つはその幼子と若い男がわらわに向けていたような怒りに満ちた顔」
アイラとマーくんか、今はニヤニヤしてるけど、やめなさいって。
「しかしそなたはそのどちらでもなかった、何を思うておるのかさっぱりわからぬ、わらわはそれが恐ろしい」
なんだと…今度から襲われた時はもっとリアクションとるか…
敵対していたとはいえ美人から怖がられるのはあまり良くない気がする。
もっと好印象でスタートできればあのふっさふさの中に顔をうずめるくらいはできたかもしれないのに…
「ヴォルさん何考えてます?」
「いえ特に、しいて言うなら今日の夕飯のことを」
咄嗟に適当な嘘をついた。
「ていうかタマコも同じような顔してたよ!こいつこそ何も考えてない顔してるだろ!?」
「タマコは同じ獣人族ぞ、はじめから敵としては見ておらぬ」
「なあ暇だから村の中みてきていいかー?」
タマコっ!空気読みなさい!今シリアスな感じ?だったでしょ!たぶん!
「…ラン、村の中を案内しておやり」
「は、はい」
「よろしく!アタシはタマコ!」
タマコはテントを出て行った、あいつの落ち着きのなさは異常だな。
「まあ世界広しと言えど、あれだけされて許すのはヴォルさんくらいでしょうね」
「そうだな、我なら仕掛けてきた相手を皆殺しにしてるな」
「そうよっ!ヴォルるんの優しさに感謝しなさい!」
おい後ろのやつ、急に強気になるな。
「わらわたちの気持ちもわかっておくれ、ここは獣人族が住まう地、まさか人族が獣人族のために旅をしているとはわかるはずもなかろう」
うーんそれもそうなんだよな、マグノリアはやばいってオーキッド出る前から言われてたことだし。
こっちから先に獣人族のテリトリーを侵しているので後ろのやつみたいに偉ぶるのはどうかと思う。
「一つ確認したいんだが、お前たちはタマコがいるから俺たちを襲って来たのか?それとも襲ってからタマコがいることに気づいたのか?」
「それはタマコがおったからよ、昨日、わらわたちは狩りの最中に偶然そなたらの鋼の獣を見つけ、その時はあまりの速さにただ眺めるしかできなんだが…去り行く獣の後ろに獣人族らしき者がいることに気が付いた」
そうか…タマコのやつ後ろのガラスに張り付いて景色みてたからな。
犬みたいな魔物が一生懸命走って追いかけて来るけど追いつけないのが面白いとか言って。
「はじめは馬車かと思うたが、馬の姿も足跡も糞もない、さらに後を追うてもどこにも休んだ様子がない、仕方なくわらわたちはもう一度同じ場所で待ち伏せ、罠を張り再び鋼の獣が通ることに賭けた」
「なるほど、それで次の日、俺たちはまんまと罠にはまったわけだ」
「そうとも言えぬ、秘伝の香を嗅げば、足を止めると思うたのが、まさかわらわたちの村の近くまで走り続けるとは…慌てて追いかけ、竹林の前で立ち止まっておったのでこれ以上走られてはかなわんと一斉に矢を射ったのよ」
走って追いついて来たのか、根性あるな。
「まあタマコのためにやったと分かって良かったよ」
「わらわのいう事を信じるのかえ?」
「いや信じないとここに連れてこられた意味もわからんし…」
嘘ならあの場で戦いをやめないだろ。
「あ、あともう一つ、ヤナギがここの代表と思っていいんだよな?」
「しかり、わらわがこの村を治めておる」
そうか、じゃあなんだ、すぐ出て行こうかと思ったけどそれはやめよかな。
ヤナギはたぶんかなりいいやつだ、しかも頭がいい。
タマコの100万倍くらい、ごめんタマコ、100万倍はいいすぎか、99万倍くらいにしよう。
俺たちを村に招待するって言ったのは、たぶんあの場では頭を下げられなかったからだ。
他の村人たちが見ている中で「やっぱ強そうなんで喧嘩やめます、謝るから許して」とか言うと代表として求心力が無くなると考え、ああいう手段にでたんだ。
それで人払いをしてここで謝罪した、ランという少女にそれを見せても良かったのかな…とも思うが、二人の関係が村人のそれとは違うのだろう、後継者と言ってたからあの子もそれなりに賢いのかもしれない。
で、ここで俺たちが「やっぱもうこんな村さっさとでてくわ」となると招待したヤナギの面子は丸つぶれだ、あとで村人から何を言われるかと思うと可哀想な気がする。
「ヤナギ、俺たちはしばらくここに滞在しようと思う、いいかな?」
俺がそう言うと後ろの奴が「えっっ」と変な声を上げた。
「…それはわらわの意を汲んでのことかえ?」
「それもある、ただそれよりも、このままというのはどうも気持ちが悪い」
「何を言っておる?」
俺は立ち上がってテントの外を覗いた。
タマコが楽しそうに走り回って、それをランが必死な顔で追いかけている。
それを見ている狐人族の村人たちは笑っていた。
「タマコが楽しそうだからな、俺たちだけ嫌われたままなのは納得いかん」
「それはそなたらが人族だから仕方の…」
「仕方ないでは認められないなぁ、タマコだって元はマグノリアの住人なのにオーキッドに来て俺たちと仲良くなったんだ、じゃオーキッドから来た俺たちもマグノリアの人たちと仲良くなれるはずだ」
「そんなのはタマコが特別ば…純粋であるからにすぎぬ!」
「今馬鹿って言おうとした?」
「し、しておらぬ」
タマコの馬鹿さは違う部族でも有名だったもよう。
「ともかくしばらくお世話になりまーす、招待するって言ったんだからいいよな?」
ヤナギは何とも言えない顔で頷いた。
たぶん適当にもてなしてタマコの故郷への道を教えて俺たちを追い出すつもりだったのは間違いない。
アイラとマーくんはやれやれと言った感じで俺を見ていた。
ディーナは後ろでまだ「えっっ」と言ったまま固まっていた。
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