第177話 愛のカタチ
マーくんは俺から金貨100枚を半ば無理やり借りてバイク1号を購入すると、早くも「最強の闇の力を持つ漆黒の暗黒号」と名付けていた、黒いことにこだわりすぎて色々かぶりすぎである。
いちいち言うのは面倒なので今後は恐らく漆黒号とかになるだろう。
ただ名前の割に漆黒号は別に黒くはなかったので、今マーくんは一生懸命シルバーの車体をペンキのような染料を借りて黒く塗りなおしていた。
ブロンたちが「ああ~…」と何とも言えない声を上げつつそれを眺めている。
たぶんせっかく綺麗な銀だったのになんで真っ黒にするんだと言いたいけどそれを言うとたぶんまためちゃくちゃ絡まれるので言うに言えない状態。
「でもさ、本当に売ってよかったのか?」
技術局の最新技術だし、いきなり外部に流出していいのかなと思ったのでブロンにこっそり尋ねた。
「ん?ああまあ構わねえよ、誰かがバラして中調べたとしてもここの連中にしか再現できねえだろうしな、それにあの様子なら絶対アイツ誰かに売ったり、調べさせたりしねえだろ」
確かにそうだな、もし仮に誰かがあれを盗んでそれをしようとしてもマーくんはきっと怒り狂って地の果てまで追いかけて行くだろう。
「ただもっと時間かけて最高速度や走行可能な距離を調べたかったんだがなあ」
「はは…まあそれはマーくんからブロンたちへ報告してくれるように頼んでおくよ、まだ数日は俺たちこの国にいると思うし」
「なんだ?もうすぐ帰っちまうのか?わしはてっきりもうこの国に住むつもりなのかと思ってたぞ」
「帰るよ、だってあの俺が乗ってきた魔動車は借り物だから持ち主に返さないといけないし」
「そういやそうだったか、しかしあのティアナって魔動車の精霊は完全にお前のことを主人として見てねえか?」
「な、なんとかなるよ、話せばきっとわかってくれる」
俺は問題を先送りにした、そのことを考えると帰りたくなくなるので。
それからタマコがおねむになってきたので俺は家に帰ることにした。
話しかけるなというオーラを発して作業に没頭していたからマーくんはほおっておいた。
帰る前に、そうだ、と思い出してブロンたちに俺が作った携帯ウォ〇ュレットを見せたら「いきなり魔道具の加工ができる器用さは人族にしちゃ変態的にすげえと思うが何でそんな下らねえもんを作った?」という褒められてるのかけなされてるのかよくわからない評価をもらった。
あれぇ、もっと受けると思ったのになぁ、悲しい。
『私はヴォルガーを信じていました』
帰り道を運転中、ティアナが急にそんなことを言い出した。
「え?何のこと?」
『必ず私を選んでくれると』
「いや意味わかんない」
『バイクのことです、あんなものに浮気していると知った時は自爆という選択肢もやむおえないと判断しました』
浮気って…何その目線…
無機物なのに嫉妬すんの?
『あれにヴォルガーが跨って走り出した時、私はカウントダウンを開始しました』
「あのほんと勝手に自爆という手段をとろうとするのやめてくれるかな?」
『ですがヴォルガーの魔法力を考慮した場合、離れた状態で爆発しても対処される可能性が高かったため一時カウントダウンを中断しました』
「あれ、それって俺を巻き込むことを優先してる?」
『愛の形について私の出した結論です、アイラの性格データを参照した結果そうなりました』
なぜそこから参照した、一番だめなやつ。
知らない間にこのAIどんどんいらない学習してる…
タックスさんに返すとき本当にどうしたらいいんだ…
「あははははは…ふがっ」
後部座席でタマコが寝ながら笑っていた、夢の中でも楽しさいっぱいか、うらやましいな。
「とにかく自爆は絶対禁止、いいな?」
『イエス』
「本当にわかってんのか?」
『イエス、緊急時以外ではその命令に従います』
「緊急時ってなんだよ?」
『ヴォルガーがバイクに乗った時です』
俺はもう二度とバイクに乗れない体になってしまった。
なんて面倒くせえAIだ。
このAIリセットできないのかなと考えつつボタンをいじって何をやっても無駄だと悟った頃、俺は家にたどり着いた。
馬車が止まっていた、ロリエがいつも乗ってくるやつだった。
護衛の人たちが近くの屋台で食事をしていた、大変だなこの人たちも毎回。
ていうか元々屋台なんかこの辺無かったのに、おもに俺たちとロリエのせいでこの辺り一体の人口密度が増加し、とうとう商売をはじめる人が出てきてしまった。
屋台ができる前は外で待機してる人たちがあまりに可哀想なので差し入れをしたこともある。
それを機に少し仲良くなった、まあ会うと手を振って挨拶する程度だが。
差し入れ前は無視されていた、気持ちはわかる、こんな特に何もないところに何度も訪れて何時間も待たされれば嫌になるに決まってる、その原因が俺なわけだし。
そんな彼らとももうすぐお別れか、帰る前にもう一回、あのこれ皆さんでどうぞつまらないものですがって感じで何か差し入れしたほうがいいか…
護衛の人たちに会釈して、まだ寝ているタマコをおぶって家に入ると賑やかな声が聞こえてきた。
皆でトランプをして遊んでいる、机の上に並べて…神経衰弱とかどうあがいても記憶力でアイラに勝てないのになぜそのゲームを選ぶんだ。
「また負けたのじゃぁ~~!」
「これで私の23連勝ですね…あ、お帰りなさいヴォルさん」
「ただいま」
やりすぎだろ、手加減したれよ。
「昼に大工さんが来たので壁は直してもらいましたよ」
「私たちが稼いだお金は消えてなくなったけどね…」
大工さんというのは例の、アイラとディーナのせいで破壊された台所の壁を修理に来た人のことだ。
ロリエに修理について相談したときに紹介してもらった。
今日はその人が来る予定だったので二人には家で留守番してもらっていた。
「そうか、じゃあ俺は夕飯作るから、どうせロリエも食べてくんだろ?」
「もちろんなのじゃ」
「じゃあディーナはタマコの面倒見て…あれ、フリュニエ?」
ロリエの隣にもう一人、ちっちゃい子がよりちっちゃくなって座ってることに気づく。
「ど、どうも、こんばんわなのです」
「ああうんこんばんわ…どしたの?」
「フリュニエはヴォルガーに相談に乗ってほしいことがあるというのでわちしが連れてきたのじゃ!」
「俺に?えっとなんだろ」
「それは後!まずは夕飯なのじゃ!!わちしはもうお腹ぺこぺこなのじゃ!」
傍若無人なロリエの要求に応えるべくとりあえず先に夕飯となった。
タマコも目覚めたら飯-飯ーってうるさいしまあ相談はご飯食べながらでもいいか。
そう思って夕食を作って、皆で食卓を囲んだ。
「うわぁ、こんなのはじめて見たのです、これはなんていう料理なのです?」
「トマトのファルシ、ピンクラビットのひき肉と木の実を和えたものがトマトに詰めてある」
「…え、えっとじゃあこれはなんていうのです?」
「海老のフリッターブラウンソース添えとじゃがいものスフレ、いやこれ川海老らしいんだけどさ、オーキッドの市場で見つけたときは驚いたよ、こんなでかいんだもの」
今日は珍しいお客さんがいたので少々真面目なフランス料理風にしてみたよ。
「あの…ロリエちゃん、私何を言われてるのか全然わからないのです…」
「大丈夫なのじゃ!わちしも良く分からんがいつもどれを食べても美味いのじゃ!」
「気にせず食べた方がいいですよ、手をつけてないとタマコがいらないのかと勘違いして勝手に食べますから」
「いらないのか!?私が食べるか!?」
「タマちゃんほら座って食べないと、ヴォルるんに怒られるわよ」
そんな感じで夕食を食べた。
話とかそっちのけで皆残さず食べてたのでまあ味は問題なかったようだ。
相談はどうした?と思っていると夕食後にロリエとフリュニエが俺の部屋で三人だけで話したいというので片付けをディーナたちに任せて俺は部屋にいった。
「相談というのはフリュニエの魔法のことなのじゃ」
「フリュニエって魔法使えたのか」
「はいなのです…と言っても使えるのは一つだけで…」
フリュニエは自分の怪力は魔法によるものだと言った。
そうだったのか、てっきり俺はドワーフ族特有の能力なのかと思っていた。
魔動技術局のブロンたちも皆かなり力を持ってたのでそういうもんだと勘違いしていた。
「キマイラを倒した時のことで、ずっと悩んでて…」
あーあれね、フリュニエが悩んでるのはロンフルモンのことだな。
エイトテールキマイラを倒したときフリュニエは喜んでロンフルモンに抱き着いていた。
力いっぱい。
フリュニエの怪力で抱きしめられると人はどうなるか?
白目になって泡をふいて失神するのである。
ロンフルモンはつまりそういうことになった。
泡に血が混じってたから内臓がちょっとやばかったのかもしれない。
恐らくあの戦いでロンフルモンに一番ダメージを与えたのはフリュニエの抱き着きだろう。
俺が回復魔法で治したからよかったけど…
「ヴォルガーはイスベルグやマグナさんにも魔法を教えていたし、もしかしたら私の魔法のことも知ってるのかと思ったのです」
「でもフリュニエは俺みたいに光魔法の<ウェイク・パワー>…力を強くする魔法を覚えてるわけではないよね?」
「あー、これから言う事は絶対秘密にしてもらえるか?」
ロリエが真面目な顔でそう言った、なんか不味いことがあるのか。
俺は秘密にすると約束した、でなければ話はしてくれないようだったので。
「フリュニエは土の女神であるオフィーリア様から加護を授かっておるのじゃ」
「それを知ってるのはロリエちゃんとノワイエ様、あとイスベルグだけなのです」
えっ、だからなに?オフィーリアの加護があるとなんかだめなの?
俺が良くわかってなかったので続けてロリエが教えてくれた。
ロリエの解説してくれた内容を簡潔に言うとオフィーリアの加護は獣人族の専売特許でドワーフ族のフリュニエが持ってるのは異常。
と、いうことらしい。
にしてもフリュニエが持つ怪力が魔法ってことは…イスベルグみたいなパッシブスキル持ちってことか?
俺と同じように力の上がる<ブレイカー>を取得して…いやでもそれだと自分で魔法だと気づかないはずだな。
「フリュニエは自分に力を与えている魔法がなんていう名のものかわかってるのか?」
「…<グラウンド・コントラクト>それが魔法の名前なのです」
うわーマニアックなやつ持ってるなー!
ほわオンでも同じのあったけどそれほとんどとってる人いなかったよ。
<グラウンド・コントラクト>ってのは確かに力がアホみたいに上がる魔法だけど、自分専用でなおかつ使用中は風属性系の魔法、物理系スキルが一切使えなくなる。
それだけなら大したデメリットではないかもしれんが確かこいつはさらに使用者の素早さと防御力ダウンの効果もあったはず。
ほわオンの一般的なプレイヤーは死を回避するのを重要視するため防御ダウンという効果はかなり嫌がっていた。
だからこの魔法はリスクが高すぎて人気なかったのだ。
「この魔法は自分の体が地面、大地に近いほど力が増すという魔法なのです」
あれ、何か思ってたのとちょっと違うな、こっちじゃそういう仕様になるのかな。
「ヴォルガーはこの魔法について何か知りませんか?私はずっとこの魔法の解除方法を探しているのです」
「ああ、好きでずっと使ってる訳じゃないんだな」
「なんとかならんかのうヴォルガー、フリュニエが住んどる家など、うっかり壊さんように壁も扉も、普通の小さい家具まで、なにもかも全部鋼鉄製なのじゃ」
「うっうっ、私も可愛い家具とか買って普通の女の子の暮らしがしたいのですううう」
すげえな…全部鋼鉄製なんだ…
日常的に修行して筋肉鍛えてる人みたいだ。
そう言えば夕食の時もフリュニエだけ食べるのがすごくゆっくりだった。
あれは味わってたんじゃなくて食器を壊さないように気を付けていたのか。
「効くかどうかわかんないけど<ディスカード・コントラクト>って言ってみてくれるか?」
「<ディスカード・コントラクト>…なのです?」
フリュニエがそう言った瞬間、彼女の体がパアっと光輝いた、他には特に変化なし。
光もすぐ収まった。
「えっえっ?」
<ディスカード・コントラクト>はコントラクトと名の付く魔法の効果を中断させる言葉だ。
この様子だとちゃんと効果あったみたいだな。
「効いたっぽいよ」
「これで私の力が普通になったのです?本当に?」
「たぶん」
フリュニエは「た、試してみないと…」とまるでゾンビかなにかのように両手を前にだしてうろうろしている。
そして隣にいるロリエと目が合った。
「ロリエちゃん…」
「ま、待つのじゃ!わちしはか弱いのじゃ!試すならヴォルガーにするのじゃ!」
「いやいや人で試すな、物で試せばいいだろう、ほら例えば…このベッドを持ち上げてみるとか」
フリュニエはロリエに迫るのをやめてベッドの端を掴むと、えいっと持ち上げた。
「あ、お、重い!重いのです!それに握りしめても砕け散ったりしないのです!」
あれ、でも普通に浮いてるよ?
「おお!まことか!とうとうやったのじゃな!」
「やったー!ロリエちゃーん!」
フリュニエはロリエに抱き着いた。
「ぐええ」
苦しそうな悲鳴が上がった。
ついでにベッドもドスンと音を立てて元の位置に落ちた、できればもっとソフトに置いてほしかった。
「た、助けてくれヴォルガー…」
「あれ?もう魔法の効果はないはずなのです?」
これはどうやらあれだな、悲しい事実をお知らせせねばなるまい。
俺はロリエを助け出すとフリュニエに向き合った。
「フリュニエの魔法はもう一度<グラウンド・コントラクト>と言うと元に戻る、解除したい場合はまた<ディスカード・コントラクト>と言えばいい」
「はい!本当にありがとうなのです!」
「うむ、喜んでるところ悪いんだが、魔法の効果が消えたところでフリュニエの力は普通の女の子のそれではない」
「そんなっ!?だってベッドも重かったのです!?」
「でも浮いてたよね、普通に顔の高さくらいまで、あとロリエも泡を吹いて失神はしてないが割と危険な感じに痙攣(けいれん)していた」
「どういうことなのです!?」
俺は一呼吸おいてフリュニエに告げた。
「今まで鋼鉄製の家具を使って生活していた分、知らず知らずのうちに元々の力が鍛えられていたようだな」
「えーーーーーー!?」
………
後日、技術局に行ってロンフルモンの部屋を訪れると、やつはなぜか鋼鉄製のマグカップを持ち、手をプルプルさせながらコーヒーを飲んでいた。
なんでもフリュニエからプレゼントされて普段使うように言われたそうだ。
マグカップの他に鋼鉄製の椅子と鋼鉄製のカバンもプレゼントされそうになったので、仕方なくマグカップだけを選んで受け取って使っている、そうも言っていた。
ロンフルモンはなんでそんな贈り物を急にされたのかまるでわかっていなかったが、俺はその時、これもひとつの愛の形というやつか…と思いつつ、心の中で彼にエールを送ったのだった。
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