第15話 アイシャのぼうけん2
屈辱でした。
生まれて800年、このような思いはしたことがありません。
ウサギの体当たりで転ばされるなんて。
『おめでとう!レベルアップしたわ☆』
最も低級な光魔法を必死に駆使してピンクラビットを倒した私に、ホワナがわけのわからないことを看板に書いて伝えてきます。
「ホワナ、何を伝えたいのかわかりませんが、それどころではありません、どうやら私も貴女と同じく力の大半を失っているようなのです」
今の私は光魔法のほとんどを使えず、唯一使えたのが小さな光の玉で攻撃する<ライトボール>だけでした。
かなり初歩的な魔法でピンクラビット3匹を倒すのに7回も使いました。
そのうち1回は命中すらしていません。
『スキルポイントを使って新しいスキルを覚えてみましょう☆』
「貴女本当に人の話を聞きませんね?そのスキルポイントがどうとかの前にレベルアップというのも、説明してもらう必要があるのですが?」
『それじゃメニューを開いてみて☆』
「ホワナ!!!」
こっちのことはおかまいなしに目の前をピョンピョンクルクルと楽しそうに跳ね回るホワナを捕まえようと私は手を伸ばしました。
「っ!?触れない…精神体ですか…」
私の肉体はまだあるようですが、ホワナは既に精神体でしか存在できないほど消耗しているのでしょうか。
だというのにこの陽気さはなんなのでしょう。
最初に会ったときと随分、雰囲気も違いますし。
「ねえ、ホワナ、大事なことですから答えて下さい。私が力を失った原因について何かわかりませんか?もしかして貴女の言う邪悪な存在と関係がありますか?」
ホワナは何も言ってくれません。
彼女にもわからないということでしょうか…
「もしそうなら一刻も早く他の女神たちにこのことを伝えなくてはなりません。ですがその手段が今はありません。まずは二人で協力して他の女神と連絡を取る方法を探しましょう、いいですね?」
私がそう言うとホワナは笑顔でクルっと回って
『それじゃメニューを開いてみて☆』
「もういいです!!消えなさい!」
馬鹿なのですか!?この女神は!
『チュートリアルをスキップしました』
「あ、えっ?何です?ちゅーとりある?」
急に目の前に文字が出てホワナの姿が消えました。
「あ、ちょ、ちょっと、思わず言ってしまいましたが何も本当に消えなくても…ホワナ?どこに行ったのです!!」
私が何を言っても、ホワナはもう姿を現しませんでした。
いつの間にか私が乗っていた馬車も、御者の男もいなくなっていました。
これから私だけでどうしたらいいの…
不安な気持ちを抱え、私はひとまず街道の先に見えるポコタンという変な名前の街に向かって歩き出しました。
………………
………
「何ですかここは…」
ポコタンの街は大勢の人間で賑わっていました。
人族だけでなくエルフ族やドワーフ族、獣人族まであらゆる種族がいました。
私の知る限りでは人族と獣人族、エルフ族とドワーフ族はそれぞれ種族的に対立していたと思うのですが、仲良さそうに楽しく話をしている者さえいます。
ここは誰かに話しかけて、私が知っている土地まで行く方法を調べるのが最善でしょうか…そうすれば連絡も…
…でも神託以外で人間と話なんてしたことがないし…
ああ、それにもし力を失った女神だと知れたらどうしましょう。
恥ずかしくて今後、偉そうに神託など到底できる気がしません。
「ねぇキミちょっといい?」
私が街中の通りで悩んでいると人族の青年に話しかけられました。
革の鎧を身に着けて腰には剣をぶら下げています。
「え、私…ですか?」
「うんそう、今、同じくらいのレベルの面子探して集めてるんだけど一緒にどう?」
「どうって、何がですか?」
「レベル上げだよ、パーティー組んでさ」
れべるあげ…?そういえばホワナもレベルアップとか言ってましたね。
同じ意味でしょうか…?
「ああもしかして新規?じゃあ簡単に説明するけど、最初はソロでやるよりパーティー組んでさっさとダンジョンいったほうがレベル上げ楽なんだよ、1階の雑魚でもボーナス入るから」
この男が言ってることの意味が半分も理解できませんが、少なくともホワナの相手をするよりはいいかもしれません。
一応こっちはなにかしらの説明をしようとしているわけですし。
「で?どう?行く?」
「…いいでしょう、同行します」
これから何をするかよくわかりませんが、一緒に行けばこの男からいろいろ聞きだせるかもしれません。
「おーじゃあよろしく!じゃ申請出すからパーティー入って」
仲間になれということですか?と聞き返すより早く、私の視界に唐突に『ロブからパーティー要請がきています』と文字がでました。
「あ、え?どうすれば」
「ああ、承認押して」
よく見たら文字の続きに「承認」「拒否」と二つ文字が並んでいて私はあわてて承認のほうを触ってみました。
「オッケー、とりあえず僕についてきてアイシャさん」
「なぜ私の名前を知っているのです!?」
「ははは、パーティー表示に出てるじゃん、面白いねキミ」
言われてからまた視界の隅のほうに変な文字が浮かんでいるのに気づきました。
「ロブというのは貴方の名前ですか?」
「そうだよ、それと二人ほどあっちで待ってるから」
あと二人増えると聞いてやめとけばよかったと思いましたが、ロブが歩き出したので私はついていくしかありませんでした。
「あ、そうだ、特技なに?俺は剣で後二人は弓と火魔法なんだけど」
「私は光魔法を…でもその…今はなぜか弱くて…」
私は言ってから、しまった!と思いました。
今のやり取りで私が女神アイシャだとバレたらどうしましょう…
この人が急に振り返って聞くものだから思わず言ってしまいました…
「光!いいね!いやー良かった!ちょうど探してたから!」
「え、そ、そうですか…?」
「うんうん、いや初期で光ってあんまいないからさー」
何が良かったのかわかりませんがロブはしきりに、アイシャさんがパーティーはいってくれて良かったと言いました。
私が女神だということはわかっていないようですが、この人間はなかなか見どころがありますね。
私は気分をよくしてロブの後をついてきました。
この時もっとよく考えるべきでした。
なぜ私が「弱い」と言ってるのに彼はまったく気にしていないのか。
なぜ光魔法が使える人を探していたのか。
馬鹿は私でした…
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