第16話 アイシャのぼうけん3
ロブという男に連れられて行った先には二人の獣人族がいました。
頭の上についている耳から判断すると兎と猫でしょうか、二人とも若い女性でした。
ただ、兎のほうを見ると先ほどの嫌な思い出がよみがえります。
「お待たせ、こっちの人はアイシャさん、光とってるって」
「そうなんだ、よろー」
「よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
挨拶もそこそこにロブと二人の獣人族は何やら話をはじめました。
しかしなんと馴れ馴れしい態度でしょう、この二人も私が女神アイシャだとは知らないのでしょうがそれにしても…特に兎め、何がよろーですか。
ちゃんと言いなさい。
そして、そこからはめまぐるしく状況が変わりました。
まずロブが「ここじゃなくて別の街に飛ぶから」と言うと羊皮紙のようなものを出して何か詠唱しました。
あれは魔法スクロール?と思ったときには魔法が発動しあっという間に先ほどとは違う街中に転移しました。
そして呆気にとられる私を置いて兎とロブは街の外に行きました。
猫だけが「一緒に行こう?」と言って共に歩いてくれました。
猫が一番まともです。
街の外に出るとすぐ近くに洞窟がありました。
どうやらそこがダンジョンらしく私と猫が到着するなり、兎が「行くよー」とだけ言うと早速中へ入りました。
ロブと猫も入っていくので私もついていくしかありませんでした。
中は結構な広さがあって既に兎がゴブリンとおぼしき魔物に矢を放ち、戦いを始めていました。
ここに至るまでのありとあらゆることが疑問だらけで私はとにかく質問したかったのですが、兎がドンドン魔物を見つけては矢を放ち、怒らせてこっちに引っ張ってくるので何一つ質問する暇がありません。
猫と私がゴブリンに向かって火と光の魔法をはなって倒し、ロブは魔法を使う私たち二人に別のゴブリンが近づかないよう剣で食い止めています。
頭のおかしい兎はそれには参加せず、別のゴブリンを探しに行っています。
私たちが倒したころ、兎がもう次を連れてくるのです。
今後どんなに祈られても兎の獣人族には加護を与えないと私はこのとき心に誓いました。
代わりに猫の獣人族はひいきしましょう。
「おーい、ピョン子!ちょっとストップ!」
どれくらいの間、戦っていたかわかりませんがロブがそういうと兎がゴブリンを探すのをやめて戻ってきました。
ふ…ふふ…ピョン子ってもしかして兎の名前でしょうか。
あ…視界の端のパーティー表示にもピョン子と書いてあります。
彼女にふさわしい名前です。
ふふっ…それにしてもピョン子って…ぷっ。
「なによー?もう終わりー?」
馬鹿のピョン子が不満そうに言います。
そういえば猫の名前は何でしょう、と思ってパーティー表示を見ると『まっちゃ味』と書いてありました。
味ってどういうことです…?
やはり人の名前を見て笑うなどは失礼にあたりますね。
まっちゃが何か知りませんがきっといい名前なのでしょう。
「回復がポーションじゃおいつかなくてキツイんだよ」
「えー?なんでポーションで回復してるの?」
「いやそれが…」
ロブと馬鹿兎が二人で何かこそこそと相談しはじめました。
チラチラこっちを見るのが気になります。
「アイシャさん、<ライトボール>以外も使ったほうがいいと思いますよ」
隣にいるまっちゃ…味が私にそう言いました。
「それは…」
私だって他の魔法が使えたら使っています。
でも今はこれしか使えないんです。
そう言うのが恥ずかしくて私は口をもごもごさせていました。
「あの、アイシャさんできれば僕に<ヒール>ほしいんだけど」
近づいてきたロブに言われました。
もうごまかせそうにありません…
「えっと…<ヒール>は使えなくて…」
「え!?なんで!アンタ光魔法使うんでしょ!?」
憎らしい兎が口を挟んできました。
「い、今は使えないだけなんです!本当はもっといろいろな魔法が使えるんです!」
私は本当ならもっと上位の回復魔法も使えるのです。
「はあ?そりゃレベルあがればそうでしょうけど、でも<ヒール>くらい今でも使えるでしょ?普通は」
この兎はいちいち私をイライラさせます。
「…普通はって何ですか、私がおかしいということですか」
「ちょっと逆ギレ?ロブー、この子なんなのよ?」
「ピョン子やめろよ、初心者なんだって…」
初心者、初心者って私のことですか。
光の魔法を極めた女神である私が初心者というのですか。
「アイシャさん<ヒール>まだ覚えてないならさ、今さっきのでレベルアップしたからポイントあるだろうし今覚えたらいいよ」
「い、今覚えたらいいって…何ですかその言い方…」
できれば苦労しません!!大体忘れたわけじゃないのに!!
ロブと兎は私が<ヒール>を使うのを待ってるのでしょうか。
それ以上特に何も言わずじっとこちらを見ています。
私は辛くなって助けを求めるようにまっちゃを見ました。
「あ…えっと…覚える気がないならそう言ったほうがいいと思う。何の魔法を覚えるかは自由だと思うし…」
…まっちゃ、いえ、猫にも馬鹿にされてるのですね私は。
私は<ヒール>すら使えない役立たずだと言いたいのですね。
もう絶対にひいきしません。
「よくわかんないけど<ヒール>覚えずにやってく気なら最初からそう言ってよね。はあー、もう帰ろ帰ろ、無駄に疲れちゃったなー」
「おいピョン子!勝手に行くなよ!ああ、ご、ごめんねアイシャさん、僕も<ヒール>あると思って、それをあてにして誘っちゃったからさ…悪いけどここで解散ってことで…」
ロブはダンジョン出口に向かった兎を慌てて追いかけていきました。
「あの…ごめ…」
「もういいです、あなた方とは二度と口を聞きたくありません」
私がそう言うと猫もとぼとぼ歩いて外に出ていきました。
一人ダンジョンに残された私の目の前には
『パーティーを追放されました』
という文字が浮かんでいました。
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