第13話 冬ではないけど
「はっ」
俺は白い岩のある部屋で仰向けに寝ていた。
前は座ってたのにな。
これ、座るか寝た状態でログインしたほうがいいのでは。
立ったまま岩に触れた後、意識なくして倒れてるだろ俺。
いやそんなことは…どうでもよくはないが置いといて。
メールがログアウト寸前に来てたはず。
確かめる暇がなかった。もう一度ログインすれば見れるが…
「もう日が暮れてましたね、急いでお風呂の準備しなくちゃ」
隣にいるアイシャにもう一回ほわオンに行きたいとは言い難い。
言えば絶対怪しまれるな、かといって一人ではログインできない。
やり方が意味不明すぎて俺には理解できないし。
「ご飯は、どうします?今日は私が用意しましょうか?」
「俺が作るよ、アイシャは先に風呂の準備してて」
「はーい」
飯をとりあえず作ろう…用意してもらうほうが楽だが、あれ頼んですぐ取り寄せられるわけじゃないらしく微妙に時間かかるんだよな。
なら作ったほうが早いし美味い。
「ご飯でふと思ったけどさ、あれよく考えたらお金とか払わなくていいのかな…」
だってどこかの誰かさんに作らせてるってことだろ?
まあお金持ってないし、俺には払いようもないんだけど。
「あはは、大丈夫ですよ、ご飯も、それ以外の物も全部取り寄せるときに、私がちゃーんと対価を与えてるからヴォルさんは何も心配しなくていいんです」
「あ、そう…」
今面白いとこあった?笑うポイントどこだよ。
しかし何かひっかかる答えだな…
「今日は何を作ってくれるのか楽しみにしてますね!」
「風呂用意したら手伝ってくれよ…そんな時間かかんないだろ」
「今日はデートですから!ヴォルさんにお任せします!」
あれまだ続いてんのか。
アイシャはもう風呂掃除に行ってしまった。
仕方ない、俺も飯の支度を早くしよう。
台所に向かって歩いている途中、アイシャの楽しげな鼻歌が聞こえた。
ちょっとなんだろう、アイシャの様子が変わってきた気がする。
さっきの笑顔もごくごく自然だった。
会ったころから笑顔はあったけどそれとは絶対違うと思う。
ていうか前は恐怖を感じる笑顔が多かった。
台所についた俺は保存してある食材を確認した。
結構いろいろあるんだけど疲れてるから適当にするか…でも
「デートですから!」とアイシャは言ってるからなあ。
そんなに楽しかったのかな。
…俺は、その最中にメールのこととか違うこと考えてたな。
だんだん申し訳ない気分になってきた。
メールはもう今日はいいや、違う日に適当に理由つけてほわオン行けばいいだろ。
俺は凝った料理を作ることにした。
たまには豪勢な食事もいいだろう、どうせ時間だけはあるんだし。
あと冷蔵庫ないから食材早く使いたいだけだし。
………
「わぁー!どれもはじめて見るものばかりです!それも全部美味しい!」
アイシャはテーブルに並べられた料理を食べながらはしゃいでいる。
料理は結局俺一人で作った。
途中、忙しそうにしてる俺をみてやっぱり手伝うとアイシャは言ったけど椅子に座って待っててくれと手伝いを断った。
「この不思議な色のスープはなんですか?」
「カボチャを使ってある、カボチャのポタージュって料理だ」
「え、緑で固いやつですよね?なんでこんな色なんですか?」
「はは、固い皮の中身はこんな色なんだよ、それを茹でて潰して…こす…はわかんないか、えーとまあ細かくしてミルクと混ぜてる」
アイシャはこんな色の食べ物だったんですねーと不思議そうに見ながら何度も口に運ぶ。
「こっちの鮮やかで綺麗な料理は?」
「貝と海老らしきものがあったからパエリアって料理にした。でも米がないからパスタを砕いたものと一緒に炊いたから、クスクスとも言えなくもないような…」
「え、何かおかしい料理なんですか?」
「今のは笑ったんじゃなくてクスクスという名前なんだよ」
パエリアはスペインだけどクスクスはアフリカとかフランスだったかな…
まあどこでもいいか、言ってもたぶんわからんだろうし。
もう口いっぱいに食っちゃって説明聞くどころではないだろうし。
「これはわかります!鳥を焼いたものですね!」
また別の料理を手にしてアイシャが言う。
確かにそうだけど他に言いようはないのか。
「それはローストチキン…がしたかったがオーブンがないので切り身にしたなんかよくわからん鳥をフライパンで焼いたものだ」
「あれ、肉の中に得体の知れないものが入ってます!」
「変な言い方するな、炒めた野菜なんかが詰めてあるんだ」
「わざわざそんな手間のかかることをどうして…!?」
「だってデートなんだろ?」
そう言ってやるとアイシャは数秒固まった後
「ヴォルざああああああん!」
泣きながら飛びついてきた。
「ちょ、落ち着いて!食事中だぞ!押すな、椅子が倒れる!!」
「だってだって…」
「まあ喜んでくれたのはわかった、ほら、ちゃんと座って食べて」
アイシャをなだめて自分の席に座らせた。
アイシャの口からさっき食ってた手羽先の持つところがはみ出てるのが何とも言えない。
抱き着くならせめてそれは隠してほしかった。
「はは、にしてもなんかクリスマス料理みたいな感じになっちゃったな」
「クリスマズって…なんですか…?」
まだちょっと鼻をすすりながらアイシャが聞いてきた。
「それは、なんと言えばいいかな…本来はキリスト教って宗教の行事なんだが、日本じゃもうお祭りみたいになってるからな…」
「宗教…神様と関係あるのですか?」
「そう、神様!神様のお祝いをする日なんだ!」
説明が面倒だからこれでいいか。
「神を…祝う…」
「いやーでも俺のいた国じゃ恋人同士がイチャイチャしあう日みたいに」
「恋人!?イチャイチャしあう!?」
おうやべえ、変な食いつきかたした。
「それって…つまり…私とヴォルさんが…!」
これまた飛びついてくるぞ。
パワーをためてるのがわかる。
「あーでも家族で集まって祝ったりもするかな!」
回避するために思わずそう言った。
「家族ですか」
しまったぁ、家族の話題はタブーだった!
アイシャの声が急に落ち着いた。
「あー…まあ、そういう一面もね、ある日というかね」
「…ヴォルさんは家族に会いたいですか?」
「え!?いやーどうだろ!母親はもう死んでるし、親父は10年くらい前にお互いに『さっさと死ね!』って言って殴り合いしてから会ってないからなあ!」
そんなこと聞かれるとは思わなかったから変なこと言ってしまった。
「そうですか…」
「あ、ああ…それより食べないと冷めるぞ、せっかく作ったから温かいうちに食べてほしいな」
「ああ、それは勿体ないです!一番美味しい時に美味しく食べましょう!」
はーよかった、普通に食事に戻った。
「食べたら一緒にお風呂に入りましょうね!」
「え?いや、まあ、いいけど」
今まで風呂は別々だったのに。
「そうしてお風呂のあとは一緒にベッドに行きましょうね!」
「はあ、アイシャがそういうなら」
いつも同じベッドで寝てますけど…
わざわざ言うってことはそういう意味なんだろうな。
つまり今日は寝れないってことだ。
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