第11話 二人の生活2

 アイシャは基本的には世話好きで優しいといった印象だが、俺が特定のことをすると態度は豹変し、一切言うことを聞かなくなる。


 それは俺がアイシャ以外の人物に興味を示したとき。

その相手が女性だと特にやばいが男のことでも若干おかしくなる。

家族はいないのか聞いただけでもアウトだった。


 アイシャは自分が俺のことにしか興味がないように俺にもアイシャのことだけに興味をもってほしいようだ。

無理すぎない?


 俺の過去、子供のころなどの話が特に興味があるらしくそういう話をすることもあったんだが、ふと「あいつ今頃どうしてるかなぁ」と、友人の現在を思って考えてたりすると段々と機嫌が悪くなり違う話を要求される。


 逆に自分のことは話をしたがらない。

この家のことに関してくらいしか教えてくれない。


 この家が現代日本風なのは、ほわオンの中で見たことがあるかららしい。

言われてみれば確か自分の家を建てれるというオマケ要素があって、建築可能な家の一覧にこういうのがあった気がする。

ほわオンの街は中世っぽい建築物がメインなのでそんなのを建てるとかなり浮く。

なのであまり選ぶ人はいなかったが…


 さすがに設定できる家具に炊飯器やら洗濯機といった家電はなかった。

あっても何の意味もないしな、ゲームだし。

アイシャがそういうものを知らないのはそのせいだろう。


 俺も一応、自分の家を建ててあったが使わないので忘れていた。

家にいるとすぐギルドメンバーが来て狩りに強制連行されるので途中から完全に使わなくなった。

外でフラフラしてたほうが見つからない。


「久々にほわオンでもやろうかな…」

 

 家の外にあるベンチに座り、今日までのことを思い出して整理していた俺はなんとなくそう口にした。

このベンチは材料と大工道具をアイシャにもらって暇つぶしにおととい作った。


 隣に体をよせて座っていたアイシャがビクッとする。


「え…な、なんでですか…?」


 俺が気分悪くなって寝込んだ日からほわオンをやることは避けていた。

アイシャもその時のことを気にしてか、以降やろうとは言わなかったし、ほわオンの話題も意図的に避けてるような感じではあった。

それ故、俺の言葉を聞いて、心配になったんだろう。


「ベンチ以外にも作ってみたいものがいろいろあるんだけどさ、細かい造形がわかんなくて。それで、あのリアルなほわオンの中に行けば参考にできると思ったんだ」

「なるほど…次は何を作ろうと思っているんですか?」

「うーん、まあ庭かな?ここ殺風景だし、植物…そうだな、花の種なんかが手に入るなら花壇を作ってみてもいい」

「庭に花壇…」

「想像してみて、俺たちの家が色とりどりの花に囲まれてるところを」

「………それは素敵ですね!とってもいい考えだと思います!」


 まあ俺たちの家、と表現したのが決めてだろうがアイシャは乗り気になった。

半分くらいは今思いついて適当に言ったことだけど。

ほわオンの世界を見に行きたいのは、この景色に飽きてきたので例えゲームのNPCと言えど他の人や、街並みが見たかったからだ。


 ずっとこの生活をしてると俺もアイシャみたいに精神的におかしくなるのでは、という不安もある。


 そんなことを考えながら再びでかくて白い岩のある部屋に行った。

 

「では水晶に手で触れて…目を閉じたほうがいいかもしれません」

「わかった」


 確かに目を閉じていたほうが、あの急に視界がブラックアウトする嫌な感覚を感じずに済むかもしれないな。


「気分が悪かったりしたらすぐ言ってくださいね?すぐですよ?」

「ああ、そうするよ」


 アイシャがやたら念入りに言うので苦笑しながら答えた。

そして目を閉じると「では、起動します」とアイシャの声がした。


 すぐに「もう目を開けても大丈夫です」と言われて辺りを見れば、そこはもうほわオンの街中だった。

相変わらず早い…ん?街中?


「前は確かオークのいる森でログアウトしなかったか?」

「そうですが、それがどうかしました?」

「なんで街からはじまるんだ?」

「えっと、どういうことでしょう?最初は街からですよね?」


 俺の疑問がアイシャに伝わってないようなので確認してみたら、アイシャは毎回、ログインするとこの場所からはじまっていたらしい。

普通はログアウトした場所にまた出てくるものなんだが。

そう説明すると


「そうだったんですか、でもこのほうが安心じゃないですか?」

「そりゃまあ…前のとこならすぐ目の前に敵がいてもおかしくないからな…」

 

 前のグロシーンを思い出した、街でよかった。

もうずっとこの仕様でいいからあまり気にしないことにしよう。


「ま、いいや、今日は街中に主に用があるしな」

「はいっ、じゃあまずどこから見てまわりますか?」

「そうだな…はは、なんかこれデートみたいじゃないか?」

「ででっ、デート…!」


 やり取りがそんな感じしたので思わず言ってみたらアイシャはうろたえて「そっか、これがデート…」と自分の世界に入ってなにやらぶつぶつ言いだした。


 そうだ、現実でも「たまにはデートに行かないか?海とか」ってアイシャを誘えばひょっとして違う場所に行けるんじゃ…!?


 上手くいく確率が1割もない気はする。

しかし、答えが9割以上のほうだとしても「無理」とか「行けない」じゃなくて「ダメ」とか「嫌」って言うかどうかも確かめたいしな。

後者ならあの家周辺から出る方法がある可能性も出てくる。

 

 ここでデート風のことをして意識させた後、戻ったら試すか。


 よしこれでいこう、と、ひとまずのデートプランを練っていると


 『手紙が届きました』


 視界にウィンドウが開いてシステムメッセージが出てきた。

え…?手紙って…メール機能のやつか。

え?誰から?

出す相手ってアイシャしかいないはずだけど…もしや運営から何か!


 メールボックスを操作して見てみると、『差出人:イルザ』と書かれたものが一通あった。

イルザ?そんな知り合いはいなかったぞ。


 開封を選んで読んでみる、そこには一言こう書いてあった。


 『オマエ誰だ?』


 いやお前が誰だよ。

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