第10話 二人の生活1
アイシャの家に来てから10日がたった。
たぶん10日間、カレンダーといった日付を確認できるものが一切ないのでちょっとわからなくなるんだよな。
結局、俺はずるずるとヒモのような生活を続けている。
美女が生活の面倒を見てくれるってこれはこれでもうアリじゃね?
と最初思ってしまったがすぐに重大な問題に気付いた。
暇なのだ。
やることがなさすぎる。
この家は一見現代風だがテレビもなけりゃ本の一冊もない。
外に出てもまわりは何もない草原で見えない壁と白いもやもやに囲まれていてどこにもいけない。
仕事しなくてもアイシャが勝手に飯を用意してくれるから食べるか寝るかみたいな生活になってしまう。
ああ風呂も入るか。
それ以外だと、あとはもう男と女がひとつ屋根の下にいたら肉体言語による語らい…いやらしいほうの…になるわけで。
あの日…泣きつかれて寝ていたアイシャをベッドにちゃんと寝かせて俺は慰めるつもりで彼女の頭を抱き寄せて、また寝た。
そうしたら次の日から何かアイシャはめちゃくちゃ機嫌がよくてとにかくもう、隙あらばベタベタと密着してくるようになった。
アイシャは美人だ、それが無防備に抱き着いてきたりする。
当然むらむらする、仕方ないことなんだ。
で、だ、特に何もすることがないってことはもうこれは一日中エッチなことをしてても何も問題ないことになる。
しかし実際そんな日を過ごすとわかる。
俺の身が持たない、下手したらずっとそれが続く環境なのでやばい。
体を重ねてからアイシャがどんどんそういうことに積極的になってるのもやばいと感じる一因である。
元気すぎるよ。
何かしらこの家でやることを見つけなくては…エッチなこと以外で…
そう思ってから俺はいろいろと行動を開始した。
まずは料理しようかなと思った。
これはアイシャの謎の行動と関係がある。
アイシャはご飯を用意してくれるが料理をしていないのだ。
アイシャはなぜか完成品の料理を家の1階にあるリビングの隣の部屋から持ってくる。
しかも入ってすぐ、ほんの数分でだ。
なんで台所じゃなくてそこで料理してんの?と聞いたらその部屋で料理の完成品を転移で取り寄せてるらしい。
気になるので実際その瞬間を見せてもらったが、部屋の床に書いてある魔法陣みたいなものが光ると唐突に出てくる。手品みたいだ。
ちなみに料理以外も欲しいものがあればこの部屋に転移させるというので、着替えの服を頼んだら日本でみたことないような手作りっぽいなんていうか…ゲームで「ぬののふく」って出てきたらこんなのかなという、村人が着てそうな服をもらった。
俺が変わった服だなと思ってあちこち見ているとアイシャに「それはこの世界のものです」と言われた。
俺の世界の私物が欲しかったがそれはもう俺がこっちに来た時点でつながりが消えて特定できないとかなんとかよくわからない理屈で説明しはじめたので諦めた。
それでなんか違う話題にしようと思って料理ということを思いついたので、アイシャに料理じゃなくて食材とか調味料が欲しいと伝えたら、なぜ?と不思議そうな顔をされた。
「俺がアイシャに料理を作ってあげたいんだ」
と言ってみたら感極まって泣かれた。
また必要以上に好感度をあげてしまった気がするがまあいいや。
そんなこんなでアイシャに食材を用意してもらったが、それを見て、あ、やっぱマジで異世界なんだと再確認した。
見たことあるニンジンとかジャガイモはわかる。
アイシャに聞いたら名前も同じだった。
そういう見慣れた食材に混じってなんだコレというのがいくつかあった。
青いバナナみたいなのは皮むいだら中にメロンみたいな身がつまってるし、目が6つあって口が2つある魚はスーパーで見たことない。
主婦が悲鳴を上げて投げ出すレベルだった。
まあこういうのを上手く調理できるようになるのも一興だなと俺は楽しみを見つけて料理に取り組んだ。
そうやって俺は料理、裁縫、掃除、洗濯などやることを見つけて過ごすようになっていた。
これもう主婦だよな。
アイシャも共にそれらをやるんだが掃除はともかく、料理や裁縫とかの経験がなかったらしいので俺があれこれ教えながらになった。
特に裁縫は貰った服がサイズが合わなかったり、ほつれたりしてるのを直してると「そんなこともできるんですか?」と驚かれた。
できるんだなぁこれが。
洗濯は予想外の大変さだったな。
洗濯機がなかったせいで。
風呂場で今まで洗っていたらしい。
この家はいわゆる冷蔵庫などの「家電製品」がない。
アイシャは電気のことは理解していたが、家電については説明してもよくわかってなかった。
たぶん俺の世界にしかないから。
家の明かりは電気でついてるからもしかしたら、この世界に電気でつく明かりはあるのかもしれない。
そうやって二人で色んなことをやっていくうちにアイシャのこともだんだんとわかってきた。
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