第5話 辛いと独り言が増える

 どうしてこうなった。

カーテンの隙間から差し込む朝日がまぶしい。

俺の隣では金髪の美女が寝ている。

裸だ、俺も裸だ。

ここだけ見るとハリウッド映画のワンシーンみたいだな。


 一夜明けてだいぶ冷静になれたが、昨日のこととこれからのことを考えるとうつになりそうな気もする。

いや、悲観的になるのはよそう。

こういう時は出来事に点数をつけて、自分にとってどれくらいプラスがあるか判断してみるのがいい。


 というわけで、さて…


 まず俺は昨日の夜、晩飯食って風呂入った後にほわオンをした。

で、アイシャに会って遊んでたと思ったらいつの間にかこの新築一戸建てみたいな家にいて本物のアイシャに出会った。


 美女と出会えたからこれは+50点くらいはあるな。

転移がどうとかは理解の範疇を超えてるのでスルーしよう。

来てすぐ肘を強打して痛かったが単に痛かっただけだから-5点くらいかな。


 アイシャは俺に好意があるとは思っていたが正直、俺が思う以上に好かれてる気がする、なんでそこまでかはわからない。


 まあ美女に好意をもたれてるって+100点は確実だな。

ただ その美女が精神的に不安定でシャレで済まない事件になりそうな気配をかもしだしてるところは…まあ、-200点かな…


 いやでも、美女とキスしてベッドインまでいったから+300点かな。

トータルではプラス100点を超えてる!結果的には良かった!


 しかしよくキスからここまで持っていけたな。

あの時はもうとにかく話題をそらせればなんでもよかった。

自分でも出会って数分でキスを迫るとか非常識的で極まりないと思うが、抱きしめたとき嫌がられてなかったし、あとはもう勢いだな。


 そりゃ普通はしないよ?普通の女の子相手なら。

普通の女の子は人を無理やり転移させたりできないし。


 その事実があるだけで「あいつらを消す」とか聞いちゃうと、この子なら本当に何かしらの手段でやれるのではないかと、そういう風に考えて恐怖を感じるのは仕方ないと思う! 

 

 ちら、と隣を見る。アイシャはまだ寝ている。


 昨日、山ほど聞きたいことはあった。

ここはどこなのか、アイシャは何者なのか。

ついでにこの家はアイシャしか住んでないのか。

急にご家族の方、それもお父さんが帰ってきてこの状況を見られる心配はないのか。


 ただ…話してる最中にまた情緒不安定になるのが怖くてあれこれ聞くのはやめた。


 …今日はちゃんと話をしなくちゃいけないよな。


 俺はベッドから出ると昨日脱ぎ散らかした服を拾って着た。

俺の持ち物はTシャツとジーパンと、あとパンツだけ。

財布もスマホもない、不安が加速していくなー。


 とりあえず今何時だろ?

今日はオフ会に行くはずだったけどもう絶対無理だとは思う。

だが、せめてかいわれあたりに連絡はしておきたい。

急病で行けなくなったとかごまかすしかないが…


 そんなことを考えながらカーテンの隙間から外を見てみた。

なんとなく登校中の学生とかいる時間かな、と思ったから。


 ん…んん…?

何もないぞ?学生どころか人がいないし舗装された道路もない。

民家のような建造物もなければ電柱のひとつもたってない。


 なんか草がはえた地面があるだけ。

どこのクソ田舎だよ?おまけにちょっと遠くは白い…白いモヤ?

なんだあれ、霧なのか?でも空は快晴なんだよな。


 外の様子が知りたかった。

俺は寝室を出て階段を降り、玄関に向かった。


 あ、そうか、歩いてきてないから俺の靴ないわ。

靴箱に何か借りれそうなサンダルとかないか…って靴箱に一足も靴がない!


「じゃあもう裸足でいいよ!」


 玄関のドアを開けて外に飛び出す。


「なんだよここ…」


 俺の目には草原しか見えない。

草原にポツンとたってる一軒家ってなんだ?


 家の周りをぐるっと一周してみてもどの方角も同じ景色。

広がる草原の先は霧のような白いモヤで途中から視界が遮られてる。


 あのモヤまでそんなに遠い距離じゃないな。

走って行って近くで見てくるか。


「はぁ…はは…これどうなってんだ?」


 白いモヤに近づいてわかった。

ある地点から、地面がない。

突然崖のように切れてる。

その先は霧のような、煙のようなものが広がっていて何も見えない。


「ここに見えないけど何かあるな」


 地面の切れてる先から下を覗こうと思ったのだが、変な…見えないけど弾力があってぐにぐにした壁?に阻まれこれ以上先に進めない。

それに手をついて左右に歩いてみたがずっと続いてる感じがする。


「これなんだよぉぉぉ!」

「それはこの島を覆っている結界です」


 うわぁビックリした。

変な壁に両手をついて叫んでたら後ろから声をかけられた。

振り返るとアイシャがいた。


「ア、アイシャ…おはよう…じゃなくて、今なんて?」

「昨日説明するのを忘れてましたね…でも、だって急にあんなことをヴォルさんがするから…」


 アイシャは恥ずかしがってもじもじしている。

うん、気持ちはわからなくもないが頑張って説明してくれ。

お願いだから。


「アイシャ…とりあえずここはどこなんだ?」

「あ、はい、ここはルフェン大陸の上空に浮かぶ島です」


 おーう…理解不能な言葉しかないよちくしょう…


「そして私とヴォルさんの愛の巣…きゃっ、言っちゃった、やっぱり恥ずかしいー」

「愛の巣…」


 アイシャは「でもでもどうしても言いたかったし」とかうつむいてぶちぶち小声で言ってるがひとつわかったことがある。


 俺は、ここに・・・


 監禁されてるのではなかろうか。

 


 マイナス10万点。

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